楽天モバイルの家族割引で感じた2つの不安要素 「解約抑止」と「黒字化」を両立できるか:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
家族や複数回線、光回線の契約といった条件付きの割引は提供してこなかった楽天モバイルが、「最強家族プログラム」を提供する。もとの料金が安いため、そこからさらに値下げになるインパクトは大きい。ただし解約抑止効果があるかは未知数だ。
最強家族プログラムで下がるARPUをどう取り戻すのか、黒字化達成の鍵はオプションにあり
一方で、110円の割引だけでどこまで解約抑止効果があるのかは未知数だ。先に挙げたように、他社の場合、家族でまとめて契約すると、最大で1000円以上の料金割引を受けることが可能。例えばドコモの場合、3人のうち1人が抜けてしまうと、残る2人の料金がそれぞれ550円上がってしまう。家族全体では毎月1100円の値上げにつながるため、“抜け駆け”しづらい構造がある。これに対し、110円が割り引かれなくなったときのダメージが少ない。縛りのようにはならない金額といえる。
逆に、わずか110円ではあるが、楽天モバイルにとってはARPUを押し下げる効果も生じる。楽天モバイルのARPUは、23年末時点で1986円。第3四半期(7月から9月)の2046円より、60円低下してしまった。三木谷氏によると、これは「法人の携帯が入った影響がかなり大きい」という。法人向けの料金プランは、個人向けとは異なり容量別に料金が設定されている。音声通話が中心の使い方だと、1078円の3GBプランになってしまうため、個人向けの回線よりARPUを上げづらい。
他キャリアの中にもARPUが下がっているキャリアはあるが、楽天モバイルの場合、早期に黒字化を達成しなければならない事情もある。モバイル事業の売り上げは、契約数とARPUの掛け算。契約数が増えても、ARPUが上がらなければ売り上げも伸び悩んでしまう。三木谷氏が黒字化を達成するためのめどとして挙げていたのが、800万から1000万という契約者数。その際のARPU目標は、2500円から3000円としていた。単純計算だが、1000万契約でARPUが3000円だと、楽天モバイルには毎月300億円、年間で3600億円の売り上げが立つ。
契約者数の獲得は順調なものの、ARPUはどこかで反転させる必要がある。とはいえ、3000円の目標は非常に高い。ARPUの推移を見ると分かるが、無料契約キャンペーンが終了した後は、四半期ごとの伸びが数十円程度に鈍化している。500円から1000円のARPUを上げるには、何らかの“大技”も必要になる。三木谷氏も、「ARPUを2500円以上に持っていこうとなると、追加的なサービスを入れるなど、いくつかの施策が必要になると思っている」とこれを認める。
その1つが、音声通話定額などのオプションサービスだ。河野氏は、「オプションに関してはまだまだ検討しているものがあるが、楽天らしいものを出していきたい」とする。三木谷氏は、「特に広告収入がRakuten Linkの中で増えていくと思っている」としながら、「iPhone(Apple)はRCSをオープンにしていくことになっているので、そこでの収入が増えていくことは大変期待している」と話す。目標は「1人あたり300円」で、実現すれば黒字化達成の助けになる。
それでも、目標に掲げる2500円から3000円には、200円以上足りない。通信料を上げれば解決しそうだが、楽天モバイルは料金の安さを売りにしているだけに、その戦略は取りづらい。こうした状況を踏まえると、ユーザーが契約したいと思えるオプションサービスの開発が、黒字化達成のための鍵になりそうだ。
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