Open RANを巡る競争は楽天が一歩リードか ドコモと“協調”する可能性も?:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
MWC Barcelona 2024では、Open RANをテーマの1つとしてさまざまな事業者が成果を展示していた。このO-RANに早くから力を入れていたのが日本勢で、ドコモや楽天がO-RANのビジネス化も図っている。ドコモと楽天のO-RANを巡る競争の中身、そして協調の可能性を取り上げる。
無線機の仕様をオープンして、複数のベンダーの機器を組み合わせることを可能にするOpen RAN。この共通仕様を策定するO-RAN Allianceの規格にのっとったものをO-RANと呼び、2月26日から29日(現地時間)に開催されたMWC Barcelona 2024でも、テーマの1つとしてさまざまな事業者が関連した成果を展示していた。このO-RANに早くから力を入れていたのが日本勢。キャリアの中では、ドコモや楽天がO-RANのビジネス化も図っている。
ドコモはO-RAN Allianceの設立メンバーの1社で、自身もさまざまなベンダーとタッグを組み、2023年のMWCでO-RANブランドのOREXを立ち上げ、海外キャリアへのコンサルタントを行っている。対する楽天も、傘下の楽天シンフォニーが完全仮想化ネットワークを海外キャリアに展開。ドイツでMVNOからMNOに転じた新興キャリアの「1&1」に、ネットワークを丸ごと展開している。MWCでは、この2社に新たな動きがあった。ここで、ドコモと楽天のO-RANを巡る戦いを取り上げていく。
OREXを法人化して海外展開に本腰のドコモ パートナーには世界各国の建設会社も
ブランドとして展開していたOREXを、法人化したのがドコモだ。同社はNECと合弁会社の「OREX SAI」を4月1日に設立する。その代表取締役CEOには、ドコモで常務執行役員 ネットワーク本部長を務める小林宏氏が就く。O-RANの旗振り役としてOREXを推進してきたドコモのOREXエヴァンジェリスト 安部田貞行氏もOREX SAIのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)として、技術面を支えていく。
仕様はオープン化されているものの、ネットワークの根幹を支える装置なだけに、きちんと動作し、十分なパフォーマンスを発揮する必要がある。ベンダーごとに“方言”のようなものあり、接続時にトラブルが発生する恐れもある。もともと、ドコモが立ち上げたOREXでは、こうした事態に対応するため、複数ベンダーの機器を実際につなげ、検証を行っていた。2022年には、その検証環境を海外キャリアなどがリモートで利用するための「シェアドオープンラボ」を、横須賀のドコモR&Dセンター内に開設している。
OREX SAIでは、検証やインテグレーションを事前に済ませた機器を「OREX Packages」としてまとめて、それを販売していく。NECが持つ海外の販路やシステムインテグレートの能力を、ここに生かす。例えば、2024年にOREX Packagesを導入するドコモの商用ネットワークには、NEC、Amazon Web Server(AWS)、Red Hat、Qualcomm、ヒューレッド・パッカード エンタープライズ、DELLといった各種ベンダー、メーカーの機器やソフトウェアが新たに採用される。
このような組み合わせを複数作り、海外に実際に海外キャリアのネットワーク構築を支援するのがOREX SAIの役割だ。OREX SAI自身はハードウェアやソフトウェアといった製品を開発するのではなく、主な役割はキャリアへの導入支援。その意味では、ドコモ内のいちブランドだったOREXのときと立ち位置は変わっていない。一方で、法人という形を取ることで、その動きは加速していくという。先の安部田氏は、次のように語る。
「OREXのブランドを立ち上げ、パートナーの皆さまと実際にお客さまのところで検証したり、やりとりを始めたりしているが、次のステップとしてフィールドトライアルをする話になると、現地でのサポートが増えていく。ドコモは正直なところドメスティックカンパニーで、世界各国に拠点があるわけではない。ショートタイムで効率よく雇用してとなると、時間もコストもかかる。そういうケイパビリティ(能力)を持った方と手を組んで動いた方が効率がいいということで、会社を設立し、その中で現地のサポートをやっていくことになった」
OREX SAIには、「OREX DELIVERY PARTNERS」として、基地局建設などを行う世界各国の通建会社も名を連ねている。具体的なネットワーク構築や保守までを視野に入れているからだ。コンサルティングにとどまっていたドコモ内のブランドではなく、実際に海外キャリアのネットワーク構築に携わるようになるという部分を見ると、その役割が楽天グループの楽天シンフォニーに近づいたともいえそうだ。
関連記事
他社のは「なんちゃってOpen RAN」 楽天三木谷氏が語る「リアルOpen RANライセンシングプログラム」の狙い
楽天シンフォニーが、Open RAN対応の集約ユニット(CU)と分散ユニット(DU)ソフトウェアを、サブスクリプション型で他社に提供する「リアルOpen RANライセンシングプログラム」を発表した。MWC Barcelona 2024にて、楽天グループ 代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏がリアルOpen RANライセンシングプログラムの狙いを語った。同氏は「楽天シンフォニーのソフトウェアが間違いなく成熟している」と自信を見せる。5Gで急激な盛り上がりを見せる「オープンRAN」とは一体何なのか
ネットワーク仮想化などと同様、5Gで急速に注目が高まっている「オープンRAN」。基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)の仕様をオープンなものにして、異なるベンダーの機器を接続してネットワークを構築できる。中でもドコモが力を入れて取り組んでいるのが「O-RAN ALLIANCE」での活動だ。ドコモ井伊社長インタビュー:楽天とは「芸風が違う」O-RAN戦略/d払いがPayPayに追い付くには
基地局を構成する各装置の仕様をオープン化した「O-RAN」の標準仕様を策定するため、ドコモは海外事業者とアライアンスを組んでいる。海外キャリアへのO-RAN導入支援ビジネスを本格化させ、当初の目標は「100億円規模」を目指す。国内通信事業はARPUの反転を目指し、d払いは使い勝手を改善していく。楽天の完全仮想化ネットワークを活用した「第4のキャリア」がドイツで誕生 そのインパクトを解説
楽天シンフォニーがネットワーク構築を支援するドイツの「1&1」が、12月8日(現地時間)に携帯キャリアサービスを開始した。同日開催されたイベントには、楽天グループの会長兼社長で、楽天シンフォニーのCEOを務める三木谷浩史氏が登壇。Open RANの意義や、この分野における楽天シンフォニーの強みを語った。「Open RAN」で火花を散らすドコモと楽天 成り立ちは違うが“共演”もあり得る?
無線アクセスネットワーク(RAN)の機器をオープン化する取り組み「Open RAN」でドコモと楽天が激しい火花を散らしている。楽天シンフォニーを展開する楽天は、海外拠点も拡充している。これを追いかける立場にいるドコモは、O-RANを推進するためのブランド「OREX」を発足させた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.