楽天の完全仮想化ネットワークを活用した「第4のキャリア」がドイツで誕生 そのインパクトを解説:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)
楽天シンフォニーがネットワーク構築を支援するドイツの「1&1」が、12月8日(現地時間)に携帯キャリアサービスを開始した。同日開催されたイベントには、楽天グループの会長兼社長で、楽天シンフォニーのCEOを務める三木谷浩史氏が登壇。Open RANの意義や、この分野における楽天シンフォニーの強みを語った。
楽天シンフォニーがネットワーク構築を支援するドイツの「1&1」が、12月8日(現地時間)に携帯キャリアサービスを開始した。同社は、2022年12月に固定回線代わりに無線ネットワークを使うFWA(Fixed Wireless Access)の提供を始めており、これをスマートフォンなどのモバイルサービスに拡大する。同日開催されたイベントには、楽天グループの会長兼社長で、楽天シンフォニーのCEOを務める三木谷浩史氏が登壇。Open RANの意義や、この分野における楽天シンフォニーの強みを語った。
ドイツでも「第4のキャリア」が始動、それを支援する楽天シンフォニー
1&1は、楽天モバイルに近い立ち位置の事業者だ。ドイツでMVNOとして事業を展開しており、現在、約1200万の契約者を抱えている。また、ドイツはもともと、ドイツテレコム、西テレフォニカ、英ボーダフォン、E-Plusの4社体制だったが、2014年にテレフォニカがE-Plusを買収。3キャリア体制に変わっている。この点も、イー・アクセスやウィルコムがソフトバンクに吸収され、3社体制になったあと、楽天モバイルが参入してMNOが4社になった日本市場に近い。
サービス開始当初は既存キャリアのローミングに頼る点も、楽天モバイルと共通性がある。年末までに開局する基地局数は約1000基。本格サービス開始前の2019年12月時点で、3000に迫る基地局を展開していた楽天モバイルと比べても、規模は小さい。そのため、現時点ではテレフォニカがドイツで展開するO2がパートナーとなっている。また、1&1は新たにボーダフォンとローミング契約を結び、2024年から同社のネットワークを利用する見込みだ。
一方、ネットワークを完全に分け、現在もMNOとMVNOを併存させている楽天モバイルとは異なり、1&1は、このユーザーをそのままMNOに移行させる予定。MVNOの存在感が高い欧州の中でも、ドイツは特にその比率が高く、シェアをMNOと二分している。1&1は、そのトップシェアの事業者として、約1200万のユーザーを抱える。ゼロベースで事業を開始するのではなく、十分な規模の母体があるというわけだ。三木谷氏が、「今回は成功する」と自信をのぞかせる理由も、ここにある。
その1&1を、ネットワーク構築で支援するのが楽天シンフォニーだ。楽天シンフォニーは、楽天モバイルで培った完全仮想化ネットワークのソフトウェアやノウハウを外販していくための企業。立ち位置としては、NokiaやEricsson、Huaweiといった通信機器ベンダーと部分的に競合する。
構築から運用までを一手に担った楽天モバイル、コスト削減や経済安全保障を背景に拡大するOpen RAN
1&1のケースでは、楽天シンフォニーがネットワークを構築。さらには運用や保守も手掛ける。周波数獲得や基地局の用地確保、料金プラン、サービスの設計は1&1側の仕事だが、楽天シンフォニーの守備範囲は想像以上に広い。
三木谷氏によると、基地局などのハードウェアも楽天シンフォニー経由で調達しているという。イベント会場に展示されていた基地局は、製品こそ異なるがベンダーは楽天モバイルと同じNEC。コンテナ化されたコアネットワークはマベニアが提供しているが、これも楽天シンフォニーの仮想化プラットフォームの上で動作しているという。
こうした機器は、楽天モバイルと同様全て仮想化されており、クラウド上で動作しているという。しかも部分的には、楽天モバイルよりも新しい仕様を取り入れているようだ。
「1&1のモバイルネットワークは100%、楽天クラウドの上で動いています。実は日本の楽天モバイルの場合、5Gは楽天クラウドですが、4Gのときにはシスコを使っていた。これを100%、楽天クラウドにしました。われわれが作ったのは4年前だったので、そこまできてなかったんです」(三木谷氏)
複数ベンダーの製品を組み合わせて利用できるのは、無線機のマルチベンダー化を可能にする共通仕様を定義した「Open RAN」を採用しているためだ。日本でも、ドコモや楽天モバイルがこの仕様を推進しているが、欧州でも徐々に採用の機運が高まっている。1社のベンダーに固定化されるのを避けつつ、コストを下げられるのがキャリア側のメリットだ。
三木谷氏は、「それでコストが30%落ちるというのはすさまじい話」と語る。既存キャリアの設備投資は年間で数千億円規模。その3割を削減できるとなれば、インパクトは大きい。実際、楽天モバイルも「マーケティング費用を除くと月間のオペレーティングコストは170億円ぐらい。ローミング費用を除けば120億から130億円ぐらいで、すさまじく効率がいい」(同)という。
経済安全保障的な意味合いで、日本のベンダーが選択される傾向もあるという。三木谷氏は、「欧州はHuawei依存度が高く、脱却は絶対やらなければいけない。そのときにうちが採択されることはそれなりに出てくる」と語る。
事実、1&1のローンチイベントには、日本の岸田文雄首相がビデオメッセージを寄せ、「私の内閣が進めている戦略的な取り組みの1つとして、Open RANを世界的に普及させていくことを掲げています」と語っている。ドイツ側もデジタル・交通大臣のフォルカー・ヴィッシング氏らが登壇しており、政治、外交的な色合いも濃くなっていることもうかがえた。
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