サイドローディング導入を急ぐ内閣官房 デジタル市場競争会議――情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏が意見書を提出:石川温のスマホ業界新聞
内閣官房が主導する形で、スマートフォンのアプリストアにおける「サイドローディング」の導入議論が進んでいる。その一方で、総務省の各種会合で構成員として出席することの多い長田三紀氏が、それに異を唱える意見書を提出した。ヨーロッパの様子を見てから導入を進めてもいいのではないだろうか。
政府は4月11日、外部のアプリストア導入を促すなどの競争政策を盛り込んだ新法案の骨子を自民党経済産業部会などの会議に提示し、了承された。政府は今国会での法案化を急ぐ。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2024年4月13日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
ただ、サイドローディングの導入に関してはメディアだけでなく、大学教授や医学界、法曹界など様々なところから反対論が出ている。早急に導入しなくても、先行する欧州市場での動向を見てから、日本は判断すればいいのではないかという慎重論が大半だ。
そんななか、総務省の議論でも「消費者代表」として発言することの多い、この業界でもお馴染みの、情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏も、サイドローディングに対して異を唱える立場として、内閣府や公正取引委員会などの意見書を提出している。
長田氏に取材する機会を得たが「アップルによって審査された安心・安全なアプリだけが揃っていることは、特にシニア層などデジタル機器の扱いに慣れていない消費者がiPhoneを選ぶ際に重視するポイントになっている」と語る。
シニア層にとってみれば、ケータイからスマホへの乗り換えだけでも、操作性が変わり、IDやパスワードの設定が求められるなど、相当にストレスのかかることとなる。
スマホを持ち始めると、特殊詐欺に引きずりこもうとするSMSが飛んでくるなど、自分の身は自分で守らなくてはならない。
これまでであれば、新たにアプリをインストールしても、アップルが審査を行っており、個人情報を抜き出すといったプライバシーを脅かすようなアプリが入ることはなかった。
しかし、サイドローディングが認められ、アップルの審査を一度、通ったものの、その後、改変され、ユーザーの個人情報を抜き出すようなアプリが流通してしまったら、どうなるのか。
シニア層であれば、飛んできたSMSを何の疑いもなく開いてしまうだろうし、リンク先が勝手アプリストアであっても気がつくことなく、悪意のあるアプリをインストールしてしまうのではないか。
今後、サイドローディングが当たり前になってくると、シニア層に対して「スマホを使うのは危険なので、なるべく触らない方がいい」というアドバイスが一般化されてしまう恐れだってある。
今後、iPhoneで当たり前のように悪意のあるアプリが流通していくと、キャリアショップではiPhoneを買っていくシニア層に対して、当然のように効果が全くないようなウィルス対策ソフトやオプションを売っていくのだろう。
確かにキャリアショップにとっては「商機」がやってくるのかも知れないが、必ずしもこれが健全であるとは言いがたい。
これまで必要のなかったウィルス対策ソフトを高い値段で購入させられ、金銭的な負担が増すシニア層がいままで以上に出てきてしまうことが、政府のやるべき施策なのか。
国民を危険にさらし、さらに金銭的な負担を強いるサイドローディングの導入は、改めて欧州市場の混乱を判断してから再検討すればいいのではないだろうか。
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