App Store以外のアプリストアが認められても効果なし? 「サイドローディング」議論の行方
デジタル市場競争会議にて、サードパーティーのアプリストアの解放について議論されています。その主な論点となっているのがApple税ともいわれる30%ほどの手数料です。App Storeの審査基準も透明性がなく、手数料と合わせてイノベーションを阻害しているというのがデジタル市場競争会議の意見です。
政府は6月16日、「第7回 デジタル市場競争会議」にて、モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告案を発表しました。
デジタル市場競争会議自体は、デジタル市場に関する重要事項の調査審議などを実施するために2019年10月に第1回を開催。会議は半年〜年1回開催されていますが、ワーキンググループは月1回程度実施されており、6月9日に第51回目が開催されています。
モバイル・エコシステムに関する議論は、このワーキンググループで数年前から議論されていた内容です。「セキュリティやプライバシーを確保しつつ、公平・公正な競争環境を実現することにより、多様な主体によるイノベーションが活性化し、さまざまなサービスが生み出されること、ユーザーがそれによって生まれる多様なサービスを選択でき、その恩恵を受けることを目指す」として、議論が進められていました。
この中では、各アプリストアが自社決済システムの利用を強要していることも問題視されており、今回の最終報告案では、自社決済システムの利用義務付けの禁止や、手数料などを含む利用条件などを公正、合理的かつ非差別的なものとすることを義務付けるなどの提言も行われています。
しかし今回最も注目されたのは、サードパーティーのアプリストアの解放です。悪印象を避けるためなのか、サイドローディングという言葉は使われていませんが、「セキュリティ、プライバシーの確保などが図られているアプリ代替流通経路を、実効的に利用できるようにすることを義務付ける」としています。
Androidでは、以前からサードパーティーのアプリストア、例えばAmazon App StoreやGalaxy Store、HUAWEI AppGalleryなどを利用可能。また、デフォルトでは禁止されていますが、Webからダウンロードしたいわゆる野良アプリのインストールも可能です。
このため、話題に挙がっているのは、主にAppleのApp Storeに対してとなります。最終的な提言では、セキュリティやプライバシーの確保などが図られているアプリストアの参入を認めることを求めるとしており、Webサイトからアプリを直接インストール可能にすることは義務付けないとしています。
ちなみに、アプリストアのセキュリティ確保に関しては、App Storeで配布する(Appleが審査する)ことも検討されています。アプリストアで配布するアプリそのものをAppleが審査するわけではなく、こちらに関してはアプリストア運営側での対応が必要です。
このApp Store以外からのアプリのインストールは、以前から度々話題には挙がっていました。その主な論点となっているのがApple税ともいわれる30%ほどの手数料です。Androidの場合、手数料が嫌ならGoogle Playを使わなければいいという選択もあるのですが、iPhoneでは、App Store以外にアプリの配布方法がなく、開発者は否が応でも手数料を払う必要があります。
App Storeの審査基準も透明性がなく、手数料と合わせてイノベーションを阻害しているというのがデジタル市場競争会議の意見です。
App Store以外からのインストールを可能にすることに関しては、セキュリティが担保できないという意見もあり、Appleもこれを強く主張。以前から、iPhoneはAndroidと比べてマルウェアなどの感染が少ないとアピールしています。ただ、App Store以外からのアプリのインストールを認めるとすぐにマルウェアに感染してしまうというような論調も多くみられますが、既にサードパーティーストアを開放しているAndroidでも一定のセキュリティが確保されていることを考えると、そこまで強く心配することはないのではという気がしています。
公正取引委員会が2023年2月に報告した「モバイルOS等に関する実態調査報告書」によると、Androidの場合、Google Play以外のアプリストアの利用者割合は7.5%と極めて少なくなっています。
また、この中で実施された「モバイルOS等の取引実態に関する消費者向けアンケート調査」でiPhoneユーザーにApp Store以外のアプリストアが利用できる場合、どのような条件であればそのストアを利用したいかも聞いています。その結果は「App Storeよりもアプリの価格が安いなら利用したい」が32%、「App Storeよりもセキュリティが守られるなら利用したい」が34.9%、「App Storeよりも多数のアプリが公開されているなら利用したい」が15.6%という結果でした。
仮に他のアプリストアが利用可能になった場合、「App Storeよりも価格が安いなら」という条件に関しては、手数料がなくなる、あるいは安くなる可能性があるのでクリアできるかもしれませんが、セキュリティに関してはどうしても劣ったものになるのでしょう。「App Storeよりも多数のアプリが公開されているなら」も、実現しそうにはありません。
このような状況なので、Androidの例を含めて考えても他のアプリストアが利用可能になったとしても、App Storeがうまく機能するとは思えず、セキュリティを含めて状況が大きく変わるとは考え難いです。
ただ、App Store以外のアプリストアが解禁された場合、大きく影響を受けそうなのがストリーミング(クラウド)ゲーミング分野です。Appleは、公式にはApp Storeでのストリーミングゲーミングアプリの配布を禁止はしていません。ただし、ストリーミングゲーミングアプリで配信されるゲームに関して、個別にApp Storeの審査を求めています。もちろん、DLCを含めアプリ内課金に関してもAppleの手数料が必要です。
このため、実質的にiPhoneではストリーミングゲーミングアプリが使えない状況になっているのですが、App Store以外のストアが利用可能になるなら、ストリーミングゲーミングアプリをアプリストアとして、さまざまなゲームが配信可能になりそうです。
とはいえ、AppleがApp Store以外のアプリストアを認めるにしろ、それは日本国内のみということになると考えられます。そうなると、十分なアプリ数、サービスが集まらず、魅力的なアプリストアとはならないでしょう。
中途半端にストア解放を強要したところで、ほとんど効果は見込めず、逆に「気に入らないなら他のストアへ」と、Appleの締め付けを強化する結果を招く可能性もありえます。最終的に開発者やユーザーの利益になるよう、目先の規制緩和にこだわらず、それが招く結果も踏まえて議論を尽くしてほしいところです。
関連記事
- App Store以外からもアプリのダウンロードを可能にすべき 政府が方針示す
政府は6月16日、デジタル市場競争会議にて、モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告案を発表した。そこでApp Store以外からのアプリ入手を可能にすること義務付ける方向性を示した。その際、セキュリティを担保して不正アプリを防ぐ必要があるとしている。 - Googleが“Playストア外アプリ”の安全性を担保する方法 「場合によってはアプリを無効化する」
政府が議論を進めるモバイルOSのサイドローディング義務化について、Googleが10日に実施したイベントにおいて、Google PlayのAPAC地域責任者が言及した。Androidは“3つのステップ”でサイドローディングに対応しているという。 - App Storeの有料アプリが値上げ、10月5日以降は最低価格が120円から160円に改定
Appleは10月5日から、App Storeで販売する有料アプリと、アプリ内課金の価格を値上げする。既に改定後の価格表が公開されている。日本での最低価格は従来の120円から160円に引き上げられる。 - AppleがApp Storeの手数料を“半額”に下げる狙い アプリ開発者に与える影響は?
Appleは、11月19日に「App Store Small Business Program」を発表した。2021年1月から、手数料を引いた分の収益が100万ドル(約1億400万円)に満たない小規模事業者の手数料を15%にする。複数のデベロッパーに話を聞きながら、今後の展開を占った。 - アプリストアから消えたフォートナイト――「手数料30%問題」と「力関係の変化」を考える
米エピック・ゲームズの人気ゲーム「フォートナイト」が、突然App StoreやGoogle Playから削除されるという驚きの事態が起きた。アプリに独自の課金システムを導入し、規約違反となったことがその直接的な理由。ここにはアプリストアの手数料に対する根強い不満と、ストア側とアプリ開発者側との力関係の変化がある。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.