政府がアップルに対してアプリストアの開放を義務づけへ――果たして、誰がサイドローディングを実現したいのか:石川温のスマホ業界新聞
読売新聞によると、政府がスマートフォン向けOSにおけるアプリの「サイドローディング」を義務付ける方向で検討しているという。サイドローディングに対する危険性を指摘する声に対して、プラットフォーマーがサイドローディング用のアプリストアを審査することで安全性を担保するという妥協案を示すようだが、安全性にコストを払ってまで独自のアプリストアを運営をしたいという事業者はいるのだろうか。
読売新聞オンラインによれば、政府がアップルのアプリストアに対して、他社サービスも使えるようにアップルに義務づけるとの報道があった。政府のデジタル市場競争本部が、6月中にも最終報告をまとめ、新規則の方向性を打ち出す方針だという。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年6月3日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
アップル以外のアプリストアを認めるという、いわゆる「サイドローディング」の議論は、本当にユーザーのニーズがあるか、甚だ疑問だ。
アプリの決済手数料が高いと言うが、アップルはアプリに対して審査を行い、世界で配信し、時にはアプリのプロモーションを展開している。アプリ開発者に聞いても「安いに越したことはないが、いまの手数料が著しく高いとは思わない」と口を揃える。
審査の甘いアプリストアが登場すれば、iPhoneに保存された個人情報が脅かされる。そんな危険なプラットフォームに、マイナンバーカードの情報を保存しておこうというユーザーはいなくなるだろう。なぜ、政府はこれからiPhoneにマイナンバーカードを載せる気満々にもかかわらず、一方で、iPhoneに穴を開けて危険性を高めることをするのか。
編集部注
マイナンバーカードの電子証明書の搭載で先行しているAndroidスマートフォンの場合、サイドロードされたアプリ(「Google Play」または端末にプリインストールされているアプリストア“以外”からダウンロードしたアプリ)からは端末の電子証明書(を含むセキュアエレメント)にアクセスできない措置を講じています。
政府はひっそりとサイドローディングの実現を進めていたようだが、一部メディアを中心に「サイドローディングが危険だ」といった指摘が高まると、今度は「アップルが他社アプリストアを審査した上で提供する」という妥協案を示してきた。
しかし、アップルに他社アプリストアやアプリの審査を依頼すれば、そこでコストが発生するのは間違いない。結果として、他社アプリストアはコストを決済手数料に上乗せする必要があり、アップルの決済手数料とたいして金額が変わらなくなるのではないか。
そもそも、これからiPhoneに向けて、アプリストアを運営したいという企業が出てくるものなのか。
最も可能性があるのがキャリアかも知れない。かつてのiモードやEZウェブのようなキャリアアプリストアをつくりたいというのは考えられる話ではある。
ただ、キャリアがiOSの中身を熟知したうえで、しっかりと配信を希望するアプリを審査することができるのか。しかも、アップルの「3割」という手数料よりも安価な金額で提供できるものなのか。
アプリ開発者とすれば、多少、手数料が高くても、世界規模で売れる方を望むだろう。国内のキャリアストアでは、販売数は稼げない。それであればAppStoreで世界に向けた配信した方が夢があるというものだ。
政府のサイドローディング議論は本当にどこにニーズがあるのかさっぱりわからない。そもそも、政府の意向に賛同し、iPhone上でアプリストアを提供したいという人は誰なのかもわからない。
一部では「役所の人事異動が7月1日にあるので、それまでに手柄を上げたいから6月中に最終報告をまとめるつもりだろう」とささやかれている。
役所の手柄のために国民のスマートフォンが危険にさらされるなど言語道断だ。
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