公取委が「1円販売」を不当廉売の恐れがあると結論――キャリアは自分たちで自分の首を絞めているのではないか:石川温のスマホ業界新聞
公正取引委員会が、携帯電話代理店が行っている「一括1円」について、実態調査を行った。独占禁止法で禁止されている「不当廉売」の恐れがあるという。総務省もそうだが、通信業界の競争を阻害するような行為は控えるべきなのではないだろうか。
公正取引委員会は2月24日、スマホの「1円販売」などについて実態について調査結果を公表した。1円など極端な値段で売られているスマホに関しては独占禁止法で禁じられている不当廉売になる恐れがあると結論づけている。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年2月25日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
そもそも、スマホやケータイの1円販売は1990年代から横行している売り方だ。かつては端末を安価な価格設定でばら撒き、通信料金収入で回収していた。公取委では、いまでも、端末代金は赤字覚悟で、通信料金によって赤字を補填しているとしている。
ただ、昨今の1円販売は、2019年の改正電気通信事業法によって、総務省が2万円まで割引を認めたのが発端とも言える。2万円まで割り引けるなら、端末価格が2万円になるような低スペックのスマホをメーカーに作らせてしまったのが原因だ。
iPhoneなどの1円販売は、表向きは1円だが、2年後に返却するのが条件で、残債が設定されているという場合が多い。こうした残価設定的な売り方も、総務省が変なルールを作ったからこそ、キャリアがひねり出したと言ってもいい。
すでに楽天モバイルやサブブランドが安価な料金プランを提供しているのだから、端末販売に関するルールはすべて撤廃すべきではないか。
総務省は通信に関するルールとしてユーザーの流動性を上げる「2年縛り」や「SIMロック」「解除料の設定」などの禁止を徹底すればいい。端末販売に関するルールに、管轄ではない総務省が口だしするべきではない。
1円販売は、キャリアが自分たちでやって、自分たちで首を絞めているのだから、好きにやらせておけばいい。そんなの自業自得であり、総務省や公取委が外野から止めてあげる必要も無い。
そもそも、端末と通信が分離されているような前提で総務省も公取委も話を進めているが、実際のところ、端末と通信を完全に分離するなど不可能である。
キャリアのネットワーク仕様に沿って端末は作られているし、逆に端末の仕様に合わせてキャリアのネットワークが調整されることもある。
iPhoneもアップルが勝手に作っているイメージがあるが、5G対応時にはキャリアの5Gネットワークで試験しながら開発を進めたというし、アメリカでeSIMしか対応しないというのも、キャリアとの調整によって実現している。
公取委では1円販売の横行によって、キャリアの通信料値上げにつながりかねないと指摘するが、これだけ電気、ガスなどの光熱費や食品、生活必需品などあらゆるものが値上げになる中で、なぜ、キャリアから「値上げ」という選択肢を奪ってしまうのか。
キャリアやMVNOに自由に競争をさせるのであれば、値下げだけでなく、値上げという道も残しておくべきだ。
今後、値上げをできずに、キャリアが撤退なんてことになったら、寡占状態に戻ってしまう。総務省も公取委も、通信業界にとやかく口出しし、競争を阻害するのはそろそろ控えた方がいいのではないか。
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