異例ずくめのドコモ社長交代 若返りだけでない、前田義晃新社長の手腕に期待すること:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
NTTドコモは5月10日、代表取締役副社長を務める前田義晃氏を社長に昇格させる人事を発表した。前田氏は、2000年にリクルートからドコモに移籍した転職組で、iモード時代から、コンテンツやサービスなどの開発や運営に携わってきた。どちらかといえば、上位レイヤーのサービスを中心に活躍してきた人物で、ドコモの社長としては異例ともいえる抜てきだ。
「コンシューマサービスカンパニー」を発足、就任時の目標はユーザーの不満解消
前田氏の社長就任で、ドコモはスマートライフ領域と呼ぶ上位レイヤーのサービスを、より強化していく形になりそうだ。その組織形態として、ドコモは「コンシューマサービスカンパニー」を新設する。同カンパニーは、前田氏が率いてきたスマートライフカンパニーと営業本部を統合した組織で、決済サービスやコンテンツサービス、ヘルスケアサービスなどが、その下に置かれる。
こうしたサービス、コンテンツを担当する部署だけでなく、オンラインCX部やリアルチャネル戦略部といった、販売やユーザー接点を構築する部署もコンシューマサービスカンパニーの下に入る。いわば“前田シフト”ともいえそうな体制で、コンシューマー向けのサービスだけでなく、コンシューマーとの接点も一体となって運営していく方針だ。
では、前田氏はどのような方針でドコモの経営に臨んでいくのか。同氏は、就任時の会見で、「お客さま起点での事業運営を進めていきたい」と語った。ここで挙げられたのが、「通信品質でのご不満や、サービスの使い勝手などの不満など、1つ1つの声に誠実に向き合って解決していく」(同)ということ。また、「たくさんのパートナーの方とビジネスをしてきたので、それをリスペクトする」(同)という。
真っ先に言及したのが、同氏が得意とするコンテンツやサービスではなく通信品質だったところに意外感があったが、目下、ドコモが解決すべき一番の課題はここにあるということだろう。前田氏はこれまでスマートライフ事業を率いてきたため、「脱・通信を加速させるための就任」と評されることもある一方で、その基盤となる通信サービスを軽視しているわけではない考えを強調したようにも見えた。
筆者も記者会見やインタビューで前田氏から話を聞いたことがあるが、その率直な語り口は魅力的だ。スマートライフカンパニー長に就任した際には、コンテンツサービスがマンネリ化している点を認めつつ、「もっとアグレッシブにアップデートしていかなければいけない分野」と語っている。
金融・決済サービスについても、「決済は頑張っているが、それ以外を十分取り組んできたかというと、全然そんなことはない」と話しており、その後のマネックス証券やオリックス・クレジットの買収につながっている。前田氏は社長就任にあたり、「当事者意識を持ってチャレンジする」ことを自身の強みに挙げていたが、現場感覚やユーザー視点で課題を認識できる力は、社長就任後の強みになりそうな気がした。
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