異例ずくめのドコモ社長交代 若返りだけでない、前田義晃新社長の手腕に期待すること:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
NTTドコモは5月10日、代表取締役副社長を務める前田義晃氏を社長に昇格させる人事を発表した。前田氏は、2000年にリクルートからドコモに移籍した転職組で、iモード時代から、コンテンツやサービスなどの開発や運営に携わってきた。どちらかといえば、上位レイヤーのサービスを中心に活躍してきた人物で、ドコモの社長としては異例ともいえる抜てきだ。
ネットワークへの知見は未知数ながら、サービスの改善には期待も
一方で、前田氏はサービスやコンテンツ分野の出身。ネットワークの開発や維持などに携わってきたわけではないため、通信品質改善にどこまで大ナタを振るえるかは未知数といえそうだ。ネットワークの構築には、周波数政策やエリア設計が複雑に絡み合ってくる。ドコモの歴代社長はこうした技術にも長けていたが、前田氏が同様のかじ取りをできるのかは注目したい点といえる。
コンテンツやサービス、スタートアップとの協業などで成果を上げ、キャリアの社長になった人物というと、KDDIの代表取締役社長CEO、高橋誠氏を思い出すが、同氏も社長就任以降、ネットワークの強化に全力を注いでいる。社長就任時には通信が中核であることを改めて宣言し、Sub-6のエリア拡大やStarlinkとの提携など、さまざまな施策を打ち出してきた。
とはいえ、高橋氏は技術系出身。「僕もどちらかというと上位レイヤーの人と見られているかもしれないが、もとは通信屋」(高橋氏)と語っている。高橋氏は、「グロース領域がこれからすごく拡大していくのは、流れとしてその通り。そこに強い前田さんがドコモの社長になられることは注目していかなければならない」とエールを送りつつも、「ベースは通信」とくぎを刺す。
通信分野での実力が未知数の前田氏だが、サービスやコンテンツは得意分野。通信品質と並んで挙げられていた、サービスに対する不満の声に応える力には期待できる。例えば、ahamoポイ活のように金融・決済サービスと連携した料金プランは、その1つだ。eximoポイ活の投入も控える中、前田氏のカラーをどこまで出せるかは注目点といえる。
他社に比べて出遅れていた金融サービスも、マネックス証券やオリックス・クレジットを傘下に入れ、矢継ぎ早に強化している。こうしたサービスを、d払いなどの決済とどう連携させていくかは、前田氏の腕の見せ所だ。
また、ドコモは通信品質の劣化を早期に検知するため、d払いなどの決済サービスや動画サービスのデータ活用に取り組むようになった。2024年度上期からは、Web閲覧にこれを広げていく。コンテンツやサービス分野の知見が深い前田氏なら、こうした連携がさらに取りやすくなるはずだ。新体制でドコモがどこまで変わるのかには、引き続き注目していきたい。
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