JR東日本が初めての「運賃値上げ」を申請 2026年3月実施予定 4つのポイントをチェック!(2/3 ページ)
JR東日本が、会社設立以来初めての「運賃値上げ」を申請した。消費税の増分を除くと初めてとなる値上げとなるが、そのポイントをまとめていく。
ポイント3:JR他社にまたがる運賃は「通算加算方式」に
JR東日本を含むJRグループ6社では、会社をまたいでも運賃を通算できる制度が導入されている。
元々、この仕組みは旧国鉄が分割民営化される際に盛り込まれた。分割民営化後、JRの本州3社(※5)が完全民営化されることに伴い、国土交通省は2001年に「新会社がその事業を営むに際し当分の間配慮すべき事項に関する指針」を発出し、JR会社法(※6)の適用対象外となる3社を含めてJRグループ間の運賃は通算するように“指導”されている。その後、九州旅客鉄道(JR九州)もJR会社法の適用対象外となったが、その際もほぼ同文の指針が発出されており、現在に至っている。
(※5)JR東日本、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)
(※6)正式名称は「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」で、現在は北海道旅客鉄道(JR北海道)、四国旅客鉄道(JR四国)と日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の3社に適用される
現在、JRグループの本州3社の運賃は電車特定区間を除いて共通だ。一方で、JR北海道、JR四国、JR九州の3社は本州3社よりも“割高”な運賃を適用している。
しかし先述の通り、JRグループの運賃は通算できるようになっている。そのため、運賃の異なる3社にまたがって乗車する場合は「通算加算方式」で運賃を計算する。この方式では本州3社の運賃を「基準運賃」とした上で、以下の手順で運賃を計算する。
- 乗車した区間の営業キロまたは運賃計算キロ(※7)を求める
- 1で算出されたキロ数をもとに、基準運賃を計算する
- 運賃の異なる3社における営業キロ/運賃計算キロを求める
- 2で求めた基準運賃に、3で求めたキロ数に応じた「加算運賃」を足す
(※7)幹線区間の営業キロと、地方交通線区間の「換算キロ」を合計したもの
加算運賃の額は、JR北海道/JR四国/JR九州の各社で異なり、2社以上にまたがる場合はそれぞれの会社において加算運賃を算出する。例えばJR四国の高松駅(香川県高松市)から児島駅~(本四備讃線/宇野線)~岡山駅~(山陽本線)という経路でJR九州の門司駅(北九州市門司区)に至る乗車券を買う場合、運賃計算は以下の通りとなる。
- 合計の運賃計算キロを求める
- JR四国エリア(高松~児島間)の営業キロは44.0km
- JR西日本エリア(児島~岡山~下関間)の運賃計算キロは395.2km(※8)
- JR九州エリア(下関~門司港間)の営業キロは6.3km
- 合計の運賃計算キロ(445.5km)から、基準運賃は7480円となる
- JR四国エリアおよびJR九州エリアにおける加算運賃を求める
- JR四国エリアの営業キロは44.0kmなので330円加算(※9)
- JR九州エリアの営業キロは6.3kmなので、30円加算
- 合計の運賃は、基準運賃に350円加算した7840円
(※8)運賃ルール上、山陽本線(幹線)の岩国~櫛ケ浜間(または両駅を通過する)乗車券を購入する場合、距離の短い岩徳線(地方交通線)経由で乗車したとみなして計算を行うため「運賃計算キロ」となる
(※9)本四備讃線の宇多津~児島間(瀬戸大橋区間)の加算運賃を含む
今回の運賃改定が成立した場合、JR東日本の運賃はJR東海/西日本と異なるものとなる。そこでJR東日本では現行の運賃(≒改定後のJR東海/JR西日本の運賃)を「基準運賃」とした上で、自社区間に「加算運賃」を設定する。加算額は「JR東日本における値上げ相当分」とされている。
ニュースリリースで例示されているものとして、JR東海の御殿場駅(静岡県御殿場市)から国府津駅を経由して自社の大船駅(神奈川県鎌倉市)に至る乗車券の運賃計算がある。その計算手順は以下の通りだ。
- 合計の営業キロを求める
- JR東海エリア(御殿場~国府津間)の営業キロは35.5km
- JR東日本エリア(国府津~大船間)の営業キロは31.2km
- 合計の営業キロ(66.7km)から、基準運賃は1170円となる
- JR東日本エリアにおける加算運賃を求める
- JR東日本エリアの営業キロは31.2kmなので30円加算
- 合計の運賃は、基準運賃に30円を加算した1200円となる
ポイント4:東海道新幹線と東海道本線の一部が“別路線”に
日本における高速鉄道の代名詞ともいえる「新幹線」だが、その名の通り「新しい幹線(鉄道)」として誕生した。そのこともあり、新幹線の多くは運賃上「在来線の別ルート」という扱いとなっている。この扱いに当てはまる新幹線は以下の通りだ。
- 東海道新幹線(東京~新大阪間)
- 東海道本線(東京~新大阪間)の別線として扱う
- 新横浜駅は「横浜駅」、新富士駅は「富士駅」、岐阜羽島駅は「岐阜駅」とみなす
- 山陽新幹線(新大阪~博多間)
- 東海道本線(新大阪~神戸間)、山陽本線(神戸~門司間)、鹿児島本線(門司~博多間)の別線として扱う
- 新神戸駅は「神戸駅」、新尾道駅は「尾道駅」、東広島駅は「西条駅」、新岩国駅は「岩国駅」とみなす
- 九州新幹線(博多~新八代間/川内~鹿児島中央間)
- 鹿児島本線(博多~新八代間/川内~鹿児島中央間)の別線として扱う
- 新鳥栖駅は「鳥栖駅」、新大牟田駅は「大牟田駅」、新玉名駅は「玉名駅」として扱う
- 新八代~川内間は完全な独立路線となる
- 西九州新幹線(諫早~長崎間)
- 長崎本線(諫早~長崎間:現川経由ルート)の別線とみなす
- 武雄温泉~諫早間は完全な独立路線となる
- 東北新幹線(東京~盛岡間)
- 東北本線(東京~盛岡間)の別線として扱う
- 白石蔵王駅は「白石駅」、古川駅は「小牛田駅」、くりこま高原駅は「新田駅」、新花巻駅は「花巻駅」とみなす
- 盛岡~新青森間は完全な独立路線となる
- 上越新幹線(大宮~新潟間)
- 高崎線(大宮~高崎間)、上越線(高崎~宮内間)、信越本線(宮内~新潟間)の別線として扱う
- 本庄早稲田駅は「本庄駅」、上毛公園駅は「後閑駅」、燕三条駅は「東三条駅」とみなす
運賃は基本的に新幹線乗車時も在来線経由とみなして計算される。そのため、上記の区間を含む新幹線の乗車券は在来線経由でも有効で、逆に在来線経由の乗車券は新幹線経由でも有効だ。
ただし、運賃の計算や乗車経路など、例外も多数存在する(説明したいところだが、長くなりすぎるので割愛する)。
運賃ルール上、多くの新幹線は在来線の別線扱いとなっており、新幹線経由の場合でも在来線を経由したとみなして運賃を計算する。ただし、一部の駅で発着/乗り換えをする場合は、その駅に絡む一部の区間を“別路線”とみなして運賃計算を行うことになっている(出典:JR西日本)
先述の通り、JR東日本が運賃を改定すると、JR東海/JR西日本との間に運賃差が生じる。
例えば東京山手線内(※10)と熱海駅の往復を考えた場合、現在(運賃改定前)はとりあえず「東京山手線内→熱海」「熱海→東京山手線内」の乗車券を買っておけば、在来線経由でも新幹線経由のどちらでも利用可能だったが、改定後は在来線(JR東日本)経由と新幹線(JR東海)経由で運賃に差が生じてしまうため、このような取り扱いは難しくなる。
(※10)東京駅から片道101km以上200km未満の乗車券に適用される特別な制度で、運賃計算を東京駅から(まで)とした上で山手線(環状系統)とその内側にある中央本線の東京~新宿間の各駅で乗降可能としている(ただし、東京山手線内に指定されている駅での途中下車は不可)
運賃改定に伴いJR東日本(とJR東海)は東海道本線と東海道新幹線の東京~熱海間を“別路線”とすることとした。これにより、東京(山手線内)~熱海間の普通乗車券を購入する場合は必ず「東海道線(在来線)経由」か「東海道新幹線経由」を事前に指定しなければならなくなる。
ただし、運賃値上げ後も以下の取り扱いは継続される。
- 新幹線定期券(FREX/FREXパル)における在来線(東海道本線)への選択乗車
- 東京~熱海間の新幹線定期券を持っている場合、東京~熱海間の東海道本線も利用できる
- 新幹線停車駅を2駅以上含む在来線の定期券での新幹線乗車
- 東京~熱海間の在来線経由の定期券で、経路に新幹線停車駅が2つ以上含まれていると自由席特急券を別途購入することで新幹線の自由席に乗車できる
- 横浜駅は「新横浜駅」と見なしてカウント
- Suica定期券の場合は、新幹線乗車可能区間について自由席特急券の事前購入は不要(自由席特急料金相当額をチャージしておく必要あり)
- 定期券区間から新幹線を乗り越す場合は、乗り越し区間を含む自由席特急券と、乗り越す区間の普通乗車券を用意すればOK
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