JR東日本が初めての「運賃値上げ」を申請 2026年3月実施予定 4つのポイントをチェック!(1/3 ページ)
JR東日本が、会社設立以来初めての「運賃値上げ」を申請した。消費税の増分を除くと初めてとなる値上げとなるが、そのポイントをまとめていく。
東日本旅客鉄道(JR東日本)は12月6日、国土交通省に鉄道運賃の改定を申請した。改定は2026年3月に実施する予定で、同社が1987年に発足以来初めての“値上げ”となる(※1)。この記事では、本改定のポイントをまとめる。
なお、本記事における「運賃」は乗車券の料金を指す。乗車券以外のきっぷ(急行券/特急券、指定席券や特別車両券(グリーン券)など)の料金は含まない。
(※1)消費税の新設/改定に伴う値上げと、IC運賃の導入時を除く
ポイント1:運賃体系の整理
JR東日本の運賃体系は、大きく分けると「幹線」「地方交通線」「電車特定区間」「山手線内」の4種類が用意されている。これらは同社の前身である国鉄(日本国有鉄道)時代から存在する区分で、大ざっぱにまとめると以下のような位置付けとなる。
- 幹線:人または貨物の輸送が多い路線
- 地方交通線:人や貨物の輸送が少ない路線
- 幹線と地方交通線をまたがって乗車する場合は、幹線の乗車距離と地方交通線の「換算キロ(実際の乗車距離×1.1)」を足し合わせた上で、幹線運賃で計算する
- 電車特定区間:幹線のうち、特に乗客の多い大都市圏の路線/区間
- 現在は「東京」と「大阪」の2種類が設定されている
- 運賃は通常の幹線運賃よりも割安
- 電車特定区間外にまたがる場合は、通常の幹線運賃を適用する
- 山手線内:東京の電車特定区間のうち「山手線(運転系統)」とその内側にある路線
- 運賃は電車特定区間よりもさらに割安
- 乗車駅と降車駅のいずれも「山手線内」である場合にのみ適用
今回の運賃改定では、運賃計算の簡素化を目的に、東京における電車特定区間と、山手線内の運賃区分が廃止され、幹線と地方交通線の2種類に整理される。その代わり、東京の電車特定区間/山手線内の運賃に加算されている「鉄道駅バリアフリー料金」(※1)は廃止となる
(※1)バリアフリー設備を整備するための費用を運賃に上乗せする形で徴収するもの(普通運賃の場合は一律で「1乗車当たり10円」)
先述した通り、電車特定区間の運賃は幹線の通常運賃より割安で、山手線内の運賃は電車特定区間運賃よりもさらに割安だ。そのため、今回の運賃改定では電車特定区間、特に山手線内で完結する運賃の値上げ感が強くなる。
一方で、電車特定区間外で乗車する場合は、区間にもよるが値上げ感はそれほど大きくない。
東京の電車特定区間の図。この図内で完結するように乗車した場合、通常の幹線運賃よりも割安な運賃で乗車できる。山手線内で完結する場合は、さらに手頃だ。今回の運賃改定では、これらの区間で完結する乗車における手頃な運賃が廃止され、通常の「幹線」用運賃に一本化される
電車特定区間/山手線内の運賃を通常の「幹線」運賃に統合することに伴い、当該区間で完結する乗車に対して請求していた「鉄道駅バリアフリー料金」は廃止される。ただし、JR東日本では運賃の値上げ分を活用しつつバリアフリー設備の整備を継続するという
ポイント2:値上げ幅は「平均7.8%」(通勤定期券は値上げ幅大きめ)
今回の運賃改定は、全ての運賃で平均すると「7.8%の値上げ」となるように行われる。具体的には以下の通りの方法で行われる。
- 普通運賃(普通乗車券や交通系ICカードの残高で乗車する場合の運賃)
- 10kmまでは現行の税抜き運賃を4.7%値上げ
- 11kmから600kmまでは賃率(※2)を4.7%引き上げ(601km超の賃率は据え置き)
- IC運賃の設定線区については「きっぷ運賃≧IC運賃」になるように調整(※3)
- 定期旅客運賃(いわゆる「定期券」の運賃)
- 通勤定期運賃は平均で12%の値上げを実施
- 6カ月通勤定期については、普通運賃に対する割引率を最大で約5%削減
- 通学定期運賃は平均4.9%の値上げ
- 割引率は従来通りで据え置く
- 通勤定期運賃は平均で12%の値上げを実施
(※2)1km当たりの運賃
(※3)現行運賃では、ごく一部にIC運賃の方が高額な設定となっている距離帯もある
普通運賃改定の概要。Suicaエリアの100kmまでの普通運賃には従来通り「IC運賃」と「きっぷ運賃」が設定されるが、全ての距離帯でICきっぷの方が割安、またはIC運賃ときっぷ運賃を同額とする調整が行われる
「特定区間」の設定を見直し
通常、鉄道の運賃は乗車距離で決まる。しかし、路線の置かれた環境によっては距離ではなく“区間”で定めた「特定運賃」を設定することがある。特定運賃が適用される区間は「特定区間」と呼ばれ、主に以下の2つの理由で設定される。
- 2つ以上の鉄道会社が1つの線路を共有している場合
- 線路共有区間のみ乗車する場合の運賃は、低廉な方の会社に合わせて設定する
- 他の鉄道会社との競合が激しい場合
- 競合区間について、相手の会社と同額かより安い運賃を設定する
JR東日本の特定区間は全て2つ目の理由から旧国鉄時代に制定されたもので(※4)、同社発足から一度も見直しを実施していない。しかし、会社設立から四捨五入で40年を迎えた昨今、路線網や運行体系の変化によって競合がなくなった、あるいは少なくなった区間もある。
そこで今回の運賃改定に併せて、JR東日本は計30区間ある特定区間のうち、18区間を廃止する方針を示した。残る12区間についても、内方調整(区間の一部廃止や適用経路の見直し)を実施する予定だ。
ただし、同社は特定区間の廃止/内方調整に関する届け出は運賃改定の“認可後”に行うとしており、その詳細は別途告知するという。
(※4)1つ目の理由に近いものとして、常磐線の北千住〜綾瀬駅間もあるが、この区間は東京地下鉄(東京メトロ)の単独区間(千代田線)となるので当てはまらない。なお、この区間で完結する乗車券は、JR東日本を含むJRグループ各社では購入できない(東京メトロの北千住駅/綾瀬駅の自動券売機と、一部駅の定期券売り場でのみ購入可能)
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