ソフトバンクがY!mobileの“全面的な値上げ”に踏み込まなかった理由 板挟みの競争環境で打ち出した戦術:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
大手キャリアが値上げに踏み切る中、Y!mobileの新料金プランは各種割引適用後の月額料金を据え置きとした。PayPayカードやPayPayとの連動性も、より強くなっている。こうした料金設計は、収益性向上と同時に競争力を維持したいソフトバンクの思惑を反映している。
積み重ねと解約抑止の両輪で収益向上、低容量維持で競争力の維持
過半数のユーザーが料金据え置きになるにもかかわらず、なぜコストの増加を吸収できるのか。寺尾氏は「小さな積み上げ」だと話す。例えば、シンプル3のM/Lプランには、実際のデータ使用量が1GB以下だったときの割引がない。また、割引適用前の基本料金が上がっていることもあり、過半数に当てはまらないユーザーが移行したり、新規契約したりすれば、その分だけ収益的にはプラスになる。
割引の増額は、ユーザーがSoftBank光やPayPayカードを契約する契機になる。これは、解約抑止に直結する。寺尾氏によると、3つのサービスを使うだけで、解約率は半分以下になるという。離脱するユーザーが増えれば、純増の拡大に寄与する。解約率が1.5%だとすると、年間で18%のユーザーが抜けていることになるが、これを半分に抑えられれば、その分は丸々ソフトバンクの収入になる。
他社を見ると、特に低容量の料金プランは解約率が高い傾向がある。ドコモは、「irumo」の0.5GBプランを廃止した理由として、「MNPで契約した人の半数が1年以内に転出している」(ドコモ 代表取締役社長 前田義晃氏)としていた。UQ mobileの4GBプランである「ミニミニプラン」も、「50歳以下の方の約半分が1年以内に離脱している」(KDDI 代表取締役社長CEO 松田浩路氏)。
irumoの0.5GBは条件なしで550円に、UQ mobileのミニミニプランもauでんきとセットを組み、au PAYカードで支払うだけで990円になっていた。緩めの条件で、低容量な料金プランほど、サブ回線やMNPの“弾”として使われてしまい、解約が多くなるというわけだ。Y!mobileのSプランはこの2社と比べ、やや制約が多く、短期解約はしづらい構造になっていたが、「少しずつ上がっているのが実態」(同)だった。
とはいえ、低容量プランの廃止は競争力の低下に直結する。より価格の安い楽天モバイルが、契約者数を大きく伸ばしているからだ。Y!mobileのユーザーは、そのほとんどが「SプランかMプラン」(寺尾氏)を契約しており、割合は半々とのこと。売りになっている料金プランをなくしてしまうと、楽天モバイルにユーザーを奪われかねない。
コストの増加に対応した値上げはしたい一方で、追いかけられる立場でもあるソフトバンクは、UQ mobileのように小容量プランを廃止する大胆な料金改定もしづらい。こうした“板挟み”の競争環境にあるからこそ打ち出したのが、解約抑止を図るという戦術だった。同社の社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏が値上げに対して慎重な姿勢を示していたのも、そのためだ。シンプル3には、その考えがダイレクトに反映されている。
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