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ソフトバンクがY!mobileの“全面的な値上げ”に踏み込まなかった理由 板挟みの競争環境で打ち出した戦術石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

大手キャリアが値上げに踏み切る中、Y!mobileの新料金プランは各種割引適用後の月額料金を据え置きとした。PayPayカードやPayPayとの連動性も、より強くなっている。こうした料金設計は、収益性向上と同時に競争力を維持したいソフトバンクの思惑を反映している。

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ゴールドカード促進で経済圏の拡大も、狙いはメインカード

 細かな条件改定によるコストの圧縮と、解約率の低下を加味することで、割引適用後の料金を据え置くことができた格好だが、ソフトバンクグループ全体の経済圏を拡大する種まきもした。シンプル3によってPayPayカードの契約やPayPayの利用を促進し、実際にこれらを使ってもらうことで「GMV(流通取引総額)の拡大を狙える」(同)からだ。

 このGMV拡大のために導入したサービスの1つが、先に挙げたPayPay使ってギガ増量キャンペーン。PayPayの利用回数に応じてデータ容量が付与されるため、特にM/Lプランを契約している人には、決済をここに寄せるモチベーションになる。10GB付与の30回という条件は、「PayPayステップ」で翌月の還元率を0.5%上げるためにも必要になる回数。二重におトクになるため、利用を促進しやすくなる。

 もう1つが、PayPayカード ゴールドの優遇だ。シンプル3では、PayPayカード割が2つに分かれており、ノーマルカードの場合だと330円だが、この額がゴールドカードだと550円に上がる。先に挙げた料金据え置きというのは、ノーマルカードの場合。ゴールドカードの割引が適用されると、シンプル2よりも料金は220円分下がる。クレジットカードの種別によっては、値上げどころか値下げになるというわけだ。

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PayPayカード割の割引額を、ゴールドカードの場合のみ220円増額する

 とはいえ、ゴールドカードにはノーマルカードにはない年会費が1万1000円かかる。220円安くなっても、1年間では2640円。PayPayでの支払いに使ったときの還元率がノーマルカードより0.5%上がる特典まで加味しても、なかなか元を取るのは難しい。一方で、家族3人で使った場合、年間で7920円分の節約になる(※家族カードは年会費無料)。年60万円強、PayPayで支払うことで、年会費と通信料の節約分の差額である3080円を補える。

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ノーマルカードと違い、ゴールドカードには年会費がかかる。割引やポイントで元を取るには、“使う”ことが必要になる。メインカードになりやすい理由だ

 それ以上の支払いがあれば、ノーマルカードを持つよりポイント還元が多くなる。寺尾氏が、「一般的な方はほとんどが複数のカードを持っていて、どれをメインするかの勝負になっているが、ゴールドカードは年会費を払っていただくので、メインカードに近づいていく」と述べていたのは、そのためだ。ゴールドカードの契約を促進して、かつより決済をそこに集中してもらうことでクレジットカード側の収益を稼ぐというのがソフトバンクのグループ全体での戦略になる。

 こうした料金設計は、メインブランドであるソフトバンクにも踏襲される可能性がある。寺尾氏は、「まず(契約獲得の)旗艦となっているY!mobileを固めた上で、ソフトバンクの方をどうするかをやっていく」と語っていたが、Y!mobileで好評であれば、ソフトバンクに導入されることは間違いないだろう。ペイトクと合わせれば、よりシナジー効果も狙うことができるはずだ。シンプル3は、そこに向けての布石を打った料金プランといえる。

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