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KDDI子会社で2461億円の架空取引、なぜ7年間も見過ごされたのか? 社員2人の巧妙な手口と高橋元社長の「懸念」(2/3 ページ)

KDDIグループ会社のジー・プランにて、約7年にわたる2461億円規模の架空循環取引が発覚した。元部長らによる巧妙な隠蔽に加え、親会社の知見不足や管理体制の甘さが長期間の放置を招いた。KDDIは業績を遡及修正し、ガバナンス強化や関係者への法的措置を通じて信頼回復を急ぐ方針だ。

KDDI高橋誠元社長が「あまりにも伸びているので怖い」と懸念

 こうして架空循環取引は規模を大きくして継続されたが、発覚のきっかけになったのは、元KDDI代表取締役社長、高橋誠氏の“気付き”だった。

 2025年2月の経営戦略会議にて、当時KDDI代表取締役社長だった高橋誠氏は、ビッグローブの広告代理事業の業績が大幅に向上したことに対し、コンプライアンス上の懸念を示したという。調査報告書によると、高橋氏はビッグローブの広告代理事業について「あまりにも伸びているので怖い」「通信より大きくなっている。事業として指標で管理していることを見せてほしい。これだけ伸びているといつか何かが起きるかもしれないので注意してほしい」と指摘したという。

 高橋氏の提言を受け、KDDIは2025年度の内部監査で、広告代理事業を監査対象に加えた。その後、2025年10月に、会計監査人から架空循環取引の可能性が指摘され、KDDIは外部専門家を登用して社内調査を開始した。

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 KDDIは2025年11月に、ビッグローブに対して広告代理事業における取引金額を抑えるよう指示を出し、ビッグローブはこれに応じた。これにより、ビッグローブから下流代理店への支払いが抑制され、金額が循環されにくくなる。そして、2025年12月中旬に一部の広告代理店からジー・プランへの入金が遅延したことをきっかけに、a氏が架空循環取引の存在を認めたという。

他の従業員に関与させず、架空循環取引を発覚させない巧妙な工作も

 一連の架空循環取引により、2022年度以前から2025年度まで、2461億円の売り上げ、499億円の総利益が誤って計上されていた。手数料として流出した金額は329億円に及ぶ。架空循環取引は約7年にわたって行われていたわけだが、なぜ、これだけの金額の不正取引が、長年に渡って見過ごされていたのか。

 まず、架空循環取引に関与していたのはジー・プランのa氏とb氏のみで、他の従業員に関与させていなかったことが挙げられる。この2人で事業を独占していたため、他の従業員が広告代理事業の詳細を把握できていなかった。

 架空循環取引が社内で発覚しないよう巧妙な“工作”も行っていたという。例えば、各代理店の取引先が明らかになると、その代理店を介さずに直接取引が可能になり、既存代理店が取引から排除されるリスクが生じる。そのため、「代理店の先にある商流は確認しないのが業界の取引慣行である」と社内で説明し、商流全体を把握されないようにした。また、虚偽の成果レポートを作成する際、成果件数が減少する時期も設けることで、現実味を持たせる工夫もしていたという。


架空循環取引の発覚を免れるための対応

 a氏とb氏による巧妙な隠蔽(いんぺい)工作があったとはいえ、7年もの間、約2400億円もの金額が架空に計上されていたことは驚くべき事態といえる。特別調査委員会は、ジー・プラン、ビッグローブ、KDDI各社の内部統制と子会社管理体制に問題があったと指摘する。ジー・プランは広告代理事業の知見がなく、ビッグローブとKDDIは子会社に対する適切な管理体制やガバナンス機能を構築できていなかったことも原因に挙げる。


特別調査委員会が提示する、広告代理事業と子会社管理における問題点と再発防止策

全体の影響額の約85%がここ2年に集中 KDDI松田氏「痛恨の極み」

 3月31日の説明会では、KDDI代表取締役 CEOの松田浩路氏とKDDI取締役執行役員専務CFOの最勝寺早苗氏が登壇し、グループ会社の不正取引について改めて謝罪した。


謝罪するKDDIの松田社長と最勝寺CFO

 「発覚を免れるための対応を見抜くに至らず、客観的な証拠を得るまでに時間を要したために、全体の影響額の約85%がここ2年に集中してしまった。痛恨の極みだと感じている」(松田氏)


今回の事案について「極めて重く受け止めている」と話す松田氏

 その上で、松田氏は再発防止策について説明した。

 ジー・プランでは広告代理事業がa氏とb氏に属人化してしまったため、不正取引の隠蔽や虚偽の成果レポートを見抜けなかった。取引先に対しては、巨額与信に見合った審査が十分に行われていなかった。今後は業務の属人化を解消し、取引先の与信管理基準を見直す。


ジー・プランは広告代理事業からは撤退するが、業務の属人性を解消する

 ビッグローブは、新規事業に対するリスク感度が不足しており、営業キャッシュフロー悪化に対する検証が楽観的だった。今後は新規事業や事業拡大の際、リスク分析と対策の実効性を向上させる。与信管理や商流全体の把握ができておらず、子会社のジー・プランに対する内部監査が不十分だったのは言うまでもない。今後は取引先や与信管理基準を見直し、モニタリング体制を再構築していく。


ビッグローブは与信管理基準を見直し、子会社の管理体制を改善する

 KDDIの反省点について松田氏は「ビッグローブの事業計画を精査する上で、広告代理事業でのシェアや取引、キャッシュフローの検証が不十分だったと認めざるを得ない」と述べる。KDDIは、ビッグローブやジー・プランの広告代理事業に関わる費用を貸し付けていたが、貸付金額が限度額に達しない場合、その内容が妥当かどうかを十分に検証できていなかった。グループファイナンスの新規プロセスについては改善を実施しており、財務状況のモニタリングの強化も進めていくとする。

 加えて、ガバナンスの有効性を高める企業風土の醸成や、グループ経営戦略の検討も進めていく。形式的ではなく実効性の高い取り組みを目指し、親会社と子会社の枠を超えて「KDDIフィロソフィー」を共通言語とした信頼関係作りを促進する。「子会社にとっても、親元から強い関心を寄せられているかは大きなモチベーションになり、見られていることが強い不正の抑止力が働く」と松田氏。グループ会社とのコミュニケーションを増やすことで、不正防止にも取り組んでいく。


KDDIはグループ会社への貸し付けの審議プロセスを強化する

KDDIフィロソフィーを共有してグループ会社間の信頼関係作りを促進する

KDDIは本事案の実行主体ではなく、監督責任を負うという立ち位置だが、いずれの立ち位置において課題があった

KDDIの通信サービスや次期中期経営計画への影響は「一切ない」

 KDDIは本事案を受け、2022年度から2025年度までの業績を遡及(そきゅう)修正する。影響額は売り上げが2461億円、営業利益が1508億円に及ぶ。本事案によるKDDIの通信サービスや次期中期経営計画への影響は「一切ない」と松田氏は述べる。「厳しい経験を糧とし、自分自身が汗をかいて先頭に立って、より強靱(きょうじん)で一体感のある企業グループへと進化していく」(松田氏)


本事案によるKDDIへの業績影響

 経営責任については、ビッグローブとジー・プランの代表取締役社長などの幹部が退任し、関与したジー・プランのa氏とb氏は懲戒解雇処分としている。KDDIは役員報酬を10~30%、1~3カ月にわたり自主返納する。


主な役員の対応と従業員の処分

 ジー・プランは広告代理事業から撤退し、「今後も再開する予定はない」(松田氏)とのこと。なお、ジー・プランはポイント事業として「Gポイント」を提供しているが、ポイント事業は広告代理事業とは別部門のため、今後も継続する。

 KDDI側は、架空循環取引へ関与した関係者に対し、民事上の損害賠償請求訴訟を提起し、外部流出した金額の回収に努める。刑事告訴も検討しており、警察とも相談しているという。


KDDIは今後、損害賠償請求訴訟を行い、流出金の回収に努める

 ジー・プラン、ビッグローブ、KDDIにおいて、a氏とb氏以外で架空循環取引を認識していた者はおらず、3社いずれも、組織的な事案ではないことが確認されている。

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