モバイルブロードバンドの死角

 このようなシナリオの中では,ユーザーニーズの視点やコンテンツプロバイダの視点があまり考慮に入れられていない,といわざるを得ない。しかし実際にモバイルブロードバンド市場が立ち上がるか否かは,当然のことながらユーザーニーズをきちんと満たしていけるかどうかにかかっている。また,そのユーザーを下支えするコンテンツプロバイダが思わず参入したくなるようなスキームを用意しなければ市場の拡大は難しい。その観点に立った時,現在描き出されているモバイルブロードバンドのシナリオには,大きな死角がいくつか横たわっている。

遅過ぎる次世代サービスの普及ペース

 例えば,NTTドコモが掲げている「FOMA」は,サービス導入から3年後,2004年の段階で500万人の加入者を見込んでいる。シェア的にはNTTドコモに大きく水をあけられていたKDDIのcdmaOneでも,加入者500万人という数値はサービス開始から1年10カ月で達成したのにもかかわらずにである(3月5日の記事参照)。

 この3年間で加入者数500万人という数値は,今の段階から“これからはモバイルブロードバンドビジネスの興隆だ”と声高に叫ぶには,あまりにも遅いペースだといわざるを得ない。またサービスエリアに関しても,各キャリアとも莫大な設備投資をかけなければならないとはいえ,この1〜2年はエリア限定のサービス提供になる(5月30日の記事参照)。この普及ペースの遅さとサービスエリアの限定は,リッチコンテンツを提供していきたいコンテンツプロバイダにとっての大きな痛手だ。モバイルブロードバンド市場の立ち上がり期に,大きなマイナス要因をもたらすことになる。

ユーザーニーズとのミスマッチング

 これまで見てきた通り,ユーザーがブラウザフォンに求めてきたニーズは,非常に限定的,かつ現実的なものであった。携帯メールしかり,暇つぶし的コンテンツしかり,出会い系モバイルサイトしかりである。こういった状況になってしまったのは,非常に携帯性の高いモバイルにもかかわらず,コンテンツプロバイダがその時々のシチュエーションに対しての価値訴求が行えず,結局“いつでもどこでも”的な発想でしかコンテンツを訴求できなかったことが大きな要因として考えられる。

 そのような現状があるにもかかわらず,モバイルブロードバンドが語られる時,ユーザーがどのような状況でリッチコンテンツを利用するのかを想定していないことが多く,単にリッチコンテンツが今後急速に拡大していく際のコンテンツ配布ツールとしてモバイルを捉えていることが,往々にして見られる。

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 ここにキャリアを中心としたモバイルビジネスに関わるプレイヤーが描くコンテンツ像と,ユーザーとの大きなギャップが生じる。無論,リッチコンテンツの普及拡大を全面否定するわけではないのだが,ブロードバンドに対する過剰な期待感だけで今後のモバイルコンテンツビジネスの将来像を描ききるのはあまりに危険だ。

コンテンツプロバイダへの更なるプレッシャー

 先に見てきたように現状,モバイル向けコンテンツプロバイダは“lose”スパイラル構造ともいえる,非常に辛い戦いを強いられている。この現状のビジネス環境の中,彼らにとってモバイルブロードバンドの波は,ハッピーな潮流なのであろうか。

 リッチコンテンツでの課金はこれまで以上の収益性を獲得できそうだが,それ以上にマイナス要因が働く可能性が高い。さらなるシステム投資の必要性,コンテンツ作成のための技術力向上の必要性,リッチコンテンツ権利料獲得のためのコスト拡大,これまでには想定されなかったような力のあるコンテンツプロバイダの参入など,数えていけばきりがない。

 またユーザーへの普及ペースも前述したように遅々としており,ユーザーからのリッチコンテンツに対する料金単価は上がっても,マーケット自体の拡大はまだ先であるため,なかなか収益に結び付きにくい状況が容易に想像できる。コンテンツプロバイダにとって,モバイルブロードバンドの流れは,事業そのものの根幹をも揺るがしかねない諸刃の剣的な捉え方をするのが妥当なのであろう。

“モバイルバブルの崩壊”?

 このようにして見ていくと,崩れつつあるWin-Win関係の上で成り立っているモバイルインターネットビジネスの現状という鍋に,モバイルブロードバンドの潮流という素材を現状語られている状態のまま放り込んでしまうと,どのような料理が仕上がるかは想像に難くない。2000年に訪れたインターネットバブルの崩壊ならぬ,“モバイルバブルの崩壊”というガス爆発を引き起こす危険性が高い。

 特にコンテンツプロバイダは,せっかくここまで作り上げてきたモバイルコンテンツビジネスという市場そのものと,そこで苦労して囲い込んできたユーザーを一気に手放してしまうことになりかねないのである。今こそコンテンツプロバイダを始めとしたモバイルビジネス関連プレイヤーは,客観的な経営判断をしていく必要があるだろう。

 しかしながらこのような岐路に立たされた中,モバイルビジネスの次世代展開の軸を“ブロードバンドコンテンツの提供”に据えるのではなく,囲い込んできたユーザーを基点に,ほかのリアルビジネスやITビジネスと絡めたマーケティング的視点に据えようとし始めている事業者も出てきた。つまりモバイルコンテンツ完結ビジネスではなく,いつでもユーザーが携帯しているモバイル機器をいかにビジネスツールとして活用できるか,といった視点で次世代ビジネス展開を考えているのである。

 その視点を持った上で初めて,“ブロードバンドコンテンツを提供するのが適切か否か”,という冷静な判断が必要になってくる。ターゲットとなるユーザーに適したサービス・コンテンツは何か,その時にモバイルブロードバンドコンテンツを提供することは有用か否か。そのような冷静な視点でモバイルブロードバンド展開を考えられるプレイヤーが増えていけば,“モバイルバブルの崩壊”は回避できるかもしれない。

 今,モバイルインターネットビジネスは大きな岐路に立たされているのである。

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[イエルネット 杉村幸彦,ITmedia]

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連載バックナンバー
▼ 第1回「到来する? モバイルバブルの崩壊」
▼ 第2回「見誤るな! モバイル時代のユーザーの捉え方」
▼ 第3回「どこへ行く? モバイルコンテンツビジネス」
▼ 第4回「成功の鍵は? モバイルマーケティングのキモ」
▼ 第5回「見極めよ! モバイルとマスの効果的マーケティング連動」
▼ 第6回「捉えよ!モバイルマーケティングの全体像と今後の方向性」

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