「MediaFLO」周波数獲得なるか──総務省がVHF/UHF帯利用の提案を募集
総務省は、2011年の地上アナログ放送停波後にVHF/UHF帯を利用するシステムの提案を募集し始めた。メディアフロージャパン企画の出方が注目される。
総務省は3月27日、地上アナログ放送が2011年に終了することを受けて、放送終了後に空くVHF/UHF帯の周波数を利用してどのようなシステムを提供すべきか、提案の募集を始めた。
対象となる周波数は、90M〜108MHz(1〜3チャンネル)、170M〜222MHz(4〜12チャンネル)および710M〜770MHz(53〜62チャンネル)の周波数帯。2011年7月25日以降(710M〜770MHzは2012年7月25日以降)に、サービス開始を計画または想定しているシステムの概要、必要な周波数帯と周波数幅などの情報の提出を求める。
メディアフロージャパン企画が狙う? 700MHz帯
ここで注目したいのは、KDDIとクアルコムジャパンが設立したメディアフロージャパン企画の存在だ(2005年12月22日の記事参照)。同社はKDDIが80%、クアルコムジャパンが20%出資する企画会社で、日本において「MediaFLO」を用いたサービスを提供する可能性などを検討している。
MediaFLOは、2006年内に米国で商用サービスを開始する予定の携帯電話向け放送技術(2005年12月2日の記事参照)。ワンセグ(ISDB-T)やDMB、DVB-Hなどと並ぶ、第4の携帯デジタル放送ともいわれる。QVGA(320×240ピクセル)/30fpsのH.264ビデオストリームのほか、aacPlusのオーディオストリーム、事前に配信した動画を好きなときに再生できるクリップキャスティング、そしてIPデータキャスティングなどを提供する予定で、米国では716M〜722MHz帯の6MHz幅を用いてサービスを行う。
今回提案を募集しているUHF帯は、まさにこの700MHz帯が対象。クアルコムジャパンにしてみれば、米Qualcommが開発を進めているMediaFLO向けのコンポーネントが、あまり手を加えることなく活用できる周波数であり、なんとしても獲得したいだろう。メディアフロージャパン企画を通し、積極的に関与していくと思われる。
提案が即周波数獲得につながるわけではないものの、将来の事業化を見据え、存在を強くアピールしておきたいところだ。実際、mobidec 2005では、クアルコムジャパンの松本徹三会長が710M〜722MHz帯の周波数を使ったMediaFLOサービスの可能性について言及している(2005年12月1日の記事参照)。
使い勝手がいい周波数だけにライバルも多い
もちろん、電波は周波数が低いほうが使い勝手がいい(2004年11月4日の記事参照)ため、この700MHz帯で周波数獲得を狙う事業者は多い。722M〜770MHzに関してはすでに携帯電話事業に割り当てられる方針が示されているうえ、高度道路交通システム(ITS)やWiMAXなども、700MHz帯を狙っている状況だ。
VHF帯の帯域確保を狙う地上デジタルラジオ事業者の中には、「どこでもいいので周波数を割り当ててもらいたい」と考えている関係者もおり(2004年11月15日の記事参照)、どのように割り当てられるかは全く分からない。
ただ、「MediaFLOは周波数利用効率が高いため」(松本氏)放送事業者や携帯キャリア、その他のサービスを提供予定の事業者などと周波数の取り合いになっても、勝ち抜く自身はあるとしている。
日本市場でMediaFLOは立ち上がるのか
仮に700MHz帯の周波数が獲得できたとしても、サービスが開始できる2012年は今から6年も先の話。2006年4月1日から本放送を開始するワンセグと比べると、出遅れ感があることも否めない。また、そのころには携帯向け放送に関する状況も変わっている可能性がある。
日本市場でMediaFLOを展開する上でのビジネスモデルも不透明だ。放送局に対する外資規制があるため、クアルコムジャパンは日本で放送事業を営む会社に20%以上出資することができない。米国で行っているように、自社で主導権を握って事業を進めるわけにはいかないのだ。このため同社は、直接運営には関わらず、技術提供のみを行う方針だが、現在正式にパートナーシップを結んでいる企業はKDDIのみ。ソフトバンクもMediaFLOを利用した放送事業に乗り出す意向を持っているが(2月1日の記事参照)、正式な発表は行っておらず、どのように関わってくるか注目される。
メディアフロージャパン企画が周波数獲得へ向けてどのようなアクションを見せるのか、またクアルコムジャパンやKDDIがどのような動きを起こすのか、注視していきたい。
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