新規参入、モバイルWiMAX、FMC、そして新サービス──2007年の携帯業界の動きは?:2006年の携帯業界を振り返る(4)(2/2 ページ)
2006年の携帯業界を振り返る年末特別企画の最終回は、2007年の携帯業界を大胆予想。新規参入、FMC、モバイルWiMAXの展開に始まり、キャリアの動向を通信ジャーナリストの神尾寿氏とケータイジャーナリスト石川温氏に予想してもらう。
キャリアの動きとモバイルWiMAXにも注目
石川 2007年のことで挙げるとしたら、「モバイルWiMAX」がどうなるかも興味のあるところです。
神尾 本当に実現できるのか、ということでね。
石川 そう、そこも含め。実現するのか、ということもあるし、どの事業者に2.5GHz帯が割り当てられるのかっていうことも、モバイルWiMAXが成功する、しないに大きく関わってくると思うので、そこは注目しておいたほうがいいと思っています。
ITmedia 実際に周波数を割り当てられるのは、2〜3社だといわれていますね。
神尾 おそらく2社、(他社への)ホールセール義務の条件付きが落としどころですね。モバイルブロードバンドの意義ってことを考えると、周波数はまとめて「どーん」と渡した方が利用効率を考えてもいいですから。複数の回線事業者が乱立するより、インフラ投資は集中させて、むしろホールセール条件を整備させた方が(ビジネス的に)面白いと思う。
ITmedia MVNOは実際、離陸するのでしょうか。日本通信は息巻いていますが(2006年10月の記事参照)。そんなところも含め、神尾さんはどう見ますか?
神尾 来年は、実は色々と見所があるかなと思ってはいるんです。最初の見所は当然、春商戦。春商戦の結果によって、その後のMNPに影響がどういう形で出るかというのが決まりますので。そういう意味でも、最初の正念場は春商戦でしょうね。
その後に来るのは端末メーカー冬の時代。端末メーカーの勝ち組・負け組みが、はっきり出るだろうなと考えています。負け組みは、今度こそ本当に淘汰されるかもしれない。合従連衡が進んで、どこかのグループに入れ込まれるという可能性はあるので、国内端末メーカーのグループ化がさらに強くなるということがあるでしょう。
注目のキャリアということでは全キャリアが注目ではあるんですが、一番の注目はやはりドコモとauでしょう。特にドコモは2006年の失敗を糧に、春商戦でどう戦い抜けるか、というのがまずは注目です。ドコモが春商戦でauの動きを封じられるか、それともauが勝ち戦を確実にするか。ここがポイントです。
新規参入は、ホントにみんな、暖かい目で見守ってあげようよ、ということでしかないんですが、ただ、音声サービスにはできるだけ手を出さないほうがいいと思っています。エリアのことを一番うるさく言われるのが音声サービスなので、そこは気をつけてほしいなと。データ通信で今までできなかったことをやってほしいとは思っています。
ただ、新規参入組に残された時間は結構少ないんですよ。モバイルWiMAXが急速に普及したら、極端な話、彼らの存在意義が問われてしまいますから。ということで、新規参入組はゆっくりとしか成長できないし、急ぐと大変なことになって失敗するんですけれど、外的要因が「成長を待ってくれない」可能性も考えられる。綱渡りでサービスの定着と、地歩の確立をしなくちゃならない。
石川 難しいだろうなあ。
FMCの定義を変えるべき
神尾 FMCに関して思うことの1つに、電話のFMCをやって意味があるの? ていうことがあるんですよ。固定とモバイルのコンバージェンスといっても、何と何を融合させるのかというのを、もう一回考え直したほうがいいと思います。
例えば私は、ネットサービスとのコンバージェンスはウェルカム。つまり、ネットサービスを経由してパソコンと携帯で同じ利用環境が得られる――これは昔のユビキタスと同じですが、そっちに期待しますね。電話サービスで固定電話と携帯電話の番号が1つになっても、実はあまりうれしくない。むしろPCで使っている「Skype」や、ほかのインスタントメッセンジャーサービスが、ボイスチャットも含めて“そのまま”携帯電話で使えるようになってくれた方が、コンバージェンスのメリットを感じる。
石川 FMCの理想像に無理がありますよね。KDDIなんて、外で受けたテレビ電話が、そのまま切らずに家の中で使えるようになる、みたいなことを言っているんですよ(2006年2月の記事参照)。
ITmedia わざわざそこまでする必要があるのか、ということですよね。
2007年への提言──ビジネス向け、ネットサービス連携での携帯利用を
ITmedia 2007年の展望などはいかがですか? 業界に対する要望でもいいです。
神尾 2007年はどうしてもコンシューマー市場が冷え込むので、新しい市場開拓はやって欲しいと思います。法人市場やビジネスでの携帯利用を促進することですね。今までは音楽やゲームがフォーカスされてきて、仕事で携帯の機能はあまり活用されてこなかった。通話とメール以外のもっと役立つ端末機能や役立つネットサービスがどんどん出てきて、仕事でもっともっと携帯を活用して利用率が上がっていけばうれしいなと思います。ビジネスユーザーの中には「通話とちょっとメール」くらいのユーザーがたくさんいる。彼らのARPUを引き上げる取り組みは、iモード登場以降ずっと続けられてきたコンシューマー向けに比べて手薄だと感じるのです。
ITmedia まだまだ、やるべきことはたくさんあるということですね。
神尾 まだまだ、というか、できていないことの方が多いです。例えば、私は今、スケジュールを携帯に入れて、家に帰ると「iSync」を使ってケーブル接続してMacの「iCal」に転送しているんです。でも冷静に考えると、iCalやGoogleカレンダーは同じiCalender方式を使っているから、単純にiCalender方式でネット経由でシンクロさせてくれればいいわけですよ。
石川 そうそう、あれができると便利なんですよね。
神尾 端末のスタンドアロン機能で、ネットにつながっていないものっていっぱいあるので、そういうのを見えないところでネットにつないでいって、ネットサービス連携型をどんどん作ってほしい。
石川 携帯電話にはせっかく無線機能が載っているんだから、なんでケーブルをつながなきゃいけないんだ、ってことですね。
神尾 Bluetoothを載せないっていうなら、せめてそのくらいやれ、っていいたくなりますね。そうすると定額制の加入率だって上がるし、万々歳ですよ。auは最近、ネットサービス連携を真剣に考えているようですし、Googleとも提携しましたから、(Googleの)フルサービスをau携帯電話で取り込んだらどうか、と思います。それをやってくれたら、コンシューマー市場向けのLISMOよりもインパクトがあるし、斬新だと思うんですけどね。
石川 そうですよ。新規加入者ももっと取れるでしょう。
神尾 iモードの登場以降、今まで同じ「コンシューマー市場」という方向を掘っていたから(新規ビジネスについては)掘りつくした感があるんですが、違うところに穴を掘ろうと思えば、意外とまだ掘っていない場所がある。携帯のカレンダー機能などは、その1つの例でしょう。
石川 Windows Mobileのような、ああいった路線じゃなくて、普通の携帯でもっとカレンダー機能を強化させればすごく便利だし、使い勝手もいいものができるような気がしますね。
神尾 そうなんですよ。私、「D903i」のカレンダー機能を使っているんですが、結構いいですよ。待受画面にスケジュールを出せるし、よくできていると思うんですよ。あと、最近はメールアドレスもなんで1個だけなの? と思い始めました。複数使わせてくれよ、と。あと、ドコモはメールの転送くらいサポートしろ、とかね。
石川 auはできますね。
神尾 ドコモは発想の原点がショートメールの世界なんです。最近はWebメールの世界が急速に発展してきていますから、いろいろなエッセンスを取り入れて欲しいですね。
石川 電話屋の発想なんですよね。
ITmedia そのあたりはぜひ期待したいところですね。みなさんどうもありがとうございました。
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