「我々は安物のキャリアにはならない」──イー・モバイル、新規参入への強い意気込み:Interview(2/2 ページ)
来る3月31日、いよいよ携帯電話業界に新規参入を果たすイー・モバイル。「ケータイのブロードバンドに革命を起こす」と宣言する同社の意気込みを、代表取締役社長の種野晴夫氏に聞いた。
通信インフラも「品質重視」で構築する
安物にはしないという姿勢は端末だけではない。ユーザーから直接見える部分ではないが、通信インフラも品質を重視して構築していくという。
「我々のネットワーク(エリア)は、最初は狭いんですけれど、非常に品質はいいんです。ここは自信を持っています。ネットワークの品質は端末と対になってキャリアのイメージを左右しますから、ここは重視しています。
イー・モバイルの計画では初年度で約30万契約の獲得を目指していますが、それらのお客様がEM・ONEやノートPCによるインターネット接続を(定額で)お使いいただいても十分に満足していただけるだけのネットワークを構築します」(種野氏)
ここでも、“利用料金は安くても、サービスは安っぽくしない”というポリシーを貫く。これまでスマートフォンやノートPC向けの完全定額サービスは、利用アプリケーションの想定やコントロールが難しく、トラフィック予測や局所的な負荷増大に対応するのが難しいとされてきた。一定以上のサービス品質を維持するには、キャリア側の柔軟かつ迅速な対応が欠かせない。
「我々は、サービス開始当初からスマートフォンやノートPC向け定額を想定してネットワークを設計しています。しかし、当然ながら、これから本当のトラフィックがどうなるかは運用してみないとわからない部分があります。いろんなお客様がいらっしゃいますからね。(ユーザーの)使い方や分布によっても、ネットワーク側の負荷は変わってくる。もちろん、それに応じて設備を増強するなど対応はしていきます。ネットワーク評価のためのツールもそろっていますし、(サービス品質の維持が)“難しい”とは思っていません」(種野氏)
イー・モバイルはこれからサービスエリアの拡大期に入るが、面エリアの拡大をしつつも、既存エリア内のユーザーやトラフィックが増大すれば、エリア内の設備を増強する「品質向上」をしっかりと行うという。面エリアの拡大ばかりが優先され、既存エリアのサービス品質がなおざりにされることがないというのは、ユーザーにとってうれしいところだ。
また、イー・モバイルではスマートフォンやノートPCで利用するアプリケーションに制限をかけず、すべてに定額制を適用する。Skypeなどのインターネット電話やYouTubeのような動画配信などにも、利用制限や帯域制御はかけられていない。しかし、これはキャリアとして“様子見”をしている段階でもあるようだ。
「今は(特定のアプリケーションやサービスの)利用制限は考えていません。しかし、もしそれ(特定のトラフィックの多いアプリケーション)が問題になってきたら、利用制限をかける可能性はあります。今はサービス開始時期ですからね、最初から“あれをしてはいけない、これは使えない”といった制限をしたくありません。できるだけお客様に自由に使っていただきたい。
また、我々は固定系のブロードバンド通信事業者でしたから、最終的にトラフィックがどのあたりで落ち着くのかといった(予測の)ノウハウがあり、ネットワーク側もそれを踏まえて設計しています。一部のマニアックなお客様が(トラフィックを増大させる)特殊な使い方をすれば、問題になるかもしれませんが」(種野氏)
パワーコンシューマーから将来は法人を狙う
イー・モバイルのサービスは高速・定額のデータ通信から始まるが、当初はエリアが限られることもあり、「まずはパワー・コンシューマー層をターゲットにする」(種野氏)方針だ。
「もちろん将来は法人市場にもフォーカスしたいと考えています。しかし、法人市場にアプローチするのには時間がかかりますからね。まずは法人の中にいる個人ユーザーを狙います」(種野氏)
現在の市場状況を見ても、ウィルコムの「W-ZERO3」やPC向けデータ通信契約の大半が個人契約であるなど、法人のデータ通信市場はこれから開拓される状態にある。「いずれは法人向けデータソリューション市場が立ち上がるが、まだ時間がかかる」(種野氏)という考えだ。
「EM・ONEでアプローチするスマートフォン市場は、これから急成長が見込める分野と考えています。欧米では急速にスマートフォン市場が拡大していますが、日本のビジネスシーンでも広く使われるようになるでしょう。
一方、データ通信カードの市場ですが、こちらは個人情報保護法の施行以来、一時的に伸びが鈍化していましたが、(情報漏洩防止)技術が向上したことで再び成長すると考えています」(種野氏)
またデータ通信分野に特化し、パワー・コンシューマー向けのラインアップという現況は、販売チャネルの面にも影響している。周知のとおり、現在同社の販売チャンネルは家電量販店とオンライン販売が中心だ。
「データ通信系は説明商品になりますので、その点からスキルのある家電量販店の方がお客様にきちんと説明できる。ですから今のところ、家電量販店をメインに(販売チャンネルを)展開しています。
むろん、音声サービスが始まり、端末ラインアップ数が増加してユーザー層も拡大すれば、『イー・モバイルショップ』のような専売店網の展開も考えられます」(種野氏)
モバイルでもADSLの時のようなインパクトを
新規参入キャリアであるイー・モバイルが、携帯電話市場に今後どれだけのインパクトを与えるかはまだ不分明だ。しかし、新たなサービスやビジネス、市場の可能性が増えることには大きな意義があるだろう。
「我々はモバイルで、ADSLと同じ高速・定額を実現します。いろいろなお客様に、ぜひ試していただきたいと思います」(種野氏)
3月31日、イー・モバイルは始動する。その日は、すぐ目の前である。
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