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なぜ“溶けかけた飴”なのか──デザイナー、深澤直人氏が語る「INFOBAR 2」

初代モデルのとがったイメージとは対照的に、丸みを帯びたラウンドフォルムで登場したのが「INFOBAR 2」。デザイナーの深澤直人氏が、「neon」ユーザーの芥川賞作家、平野啓一郎氏との対談の中で、INFOBARセカンドモデルのデザインプロセスについて話した。

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 4年ぶりに「INFOBAR」の新モデルとしてお目見えした「INFOBAR 2」。初代モデルのイメージを残しながらも、そのボディ形状はすっかり“角が取れた”ものになり、親しみやすさや懐かしさを感じさせる端末へと進化した。

 キャリアから「明らかに進化したと分かる形で出したい」という要望を受けたデザイナーの深澤直人氏は、どんな思いでINFOBAR 2をデザインしたのか。芥川賞作家、平野啓一郎氏と深澤氏の対談から、その一端がかいま見える。

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「INFOBAR 2」。カラーはSILVER、MIDORI、NISHIKIDGOI、WARM GRAYの4色

電子機器は進化の過程でオーガニック化に向かう

Photo 初代「INFOBAR」、「INFOBAR 2」のデザインを手がけたデザイナーの深澤直人氏。ほかにもau design project端末「neon」「W11K」のデザインを担当

 深澤氏は“進化”したINFOBARに、携帯電子機器の進化を重ね合わせ、それが新しいINFOBARの形につながったと振り返る。「電子部品は四角くできていて、それを構成して作ると、電子機器も四角っぽいものになる。時代が進んでそれ(部品)がもっと細かくなって細胞化が進むと、電子機器はオーガニックな人に近い形になる」(深澤氏)。

 機械が人の形に近寄ってきたことを表現するのにちょうどいいと思ったのが“溶けかけた飴”だった。「なめているうちに四角い飴の角が取れてきた感じ……それは、体の一部(舌)によって削り取られて、自然にできあがった形。使い込んでいくと、テーブルの隅が丸くなってくるのに似ている」(深澤氏)。人間によって丸くなった形の表現がINFOBAR 2のデザインのベースになっており、これが端末の持つ親しみやすさにもつながっている。

 平野氏はINFOBAR 2を見たとき、経年変化の中でモノの運命を見ていくような感覚を覚えたと話す。「“人と交わるには角がありすぎる”状態から、なくなってしまう状態の途中の“ここ”という感じがINFOBAR 2にはある」(平野氏)

 深澤氏が目指したのは、「機械と人間のちょうど間にいるような、インタフェースの中間にいるような感じ」。しかしオーガニックに寄りすぎると「きもちわるいものになりがちで、拒否反応が出てくる」という難しさがあったという。

デザインのヒントは、人が“さりげなくすること”の中にある

Photo 深澤氏デザインの「neon」を愛用する芥川賞作家の平野啓一郎氏

 INFOBAR 2の大きな特徴として挙げられるのが、端末の触り心地のよさ。発表会にも「手に持ってしっくりとくる感じにとても感動しました」(女優の仲間由紀恵さん)、「触るとすごさが分かります」(INFOBARのCMを担当するクリエイティブディレクターのタナカノリユキ氏)、「“携帯は身につけているアイテム”ということを心得ている。触り心地がいい」(ロンドン デザイン ミュージアムのディアン・スジャク館長)というコメントが寄せられるなど、折り紙つきだ。

 この手になじむフォルムは、深澤氏の「作り手は、みんながすでに考えていた感覚を代弁して表現する立場」という姿勢が生み出すものだ。「ユーザーが手にしたとき、“こんな感じが欲しかった”と思うような、ユーザー自らが選択して自然に近づいていくような知覚を作っていくことがぼくらの仕事。ユーザーが思う“こんな感じ”は、実はこれまでにはなかったものだったりするわけだけども、そう言ってしまうような」(深澤氏)。「人が何となくやってしまうことをつきつめると、そこに1つのフォルムが見えてくる」(平野氏)

 平野氏は、こうしたユーザーニーズをすくい上げるのは、とても難しいことだという。「いろいろなコミュニケーションの中に、実はこういうフォルムは潜んでいるはずだが、それを探り当てることは凡人にはなかなかできない。それを見つけて形にするだけでなく、プラスアルファのワクワク感がある製品に仕立てるのが、深澤氏らしさ」(平野氏)

 深澤氏は、ユーザーの感覚に根ざしたデザインのヒントは、人が“さりげなくすること”の中にあると話す。「人が無意識の状態でやってしまってることに興味があって、そこにはめこんだほうが、モノが素直にとけ込んでいくのではないかと考えたりする。自然にやることの行為の断片に、その“人となり“みたいなものがでてくることがある。デザインはそこまで考えた上で、非常に客観的な立場をとっていなければいけないということ」(深澤氏)

 作り手は得てして「可能性のバリエーションを全部そろえ、その中からチョイスしてしまいがち」だと平野氏。しかし、そうして作られたものは、人間から遠い感じのものになり、使う側が引っかかる部分がなくなると指摘する。「人が使ってるモノは、人間から出発してバリエーションが考えられる。そこから離れて作られたモノは、いくらコンセプトとして面白くても、毎日接し続けるものとしては遠い感じがする」(平野氏)

 人はモノに対して“これこそ探していたもので、しっくりくる”という感覚を抱くことがある。これは「あるモノを通じて、つながっていない人間関係がつながること」(深澤氏)であり、製品開発の中では“この人は、こういうことを考えて作っていたんだ”というところがないとつまらないというのが深澤氏の考えだ。

INFOBAR 2は、深澤氏が考える「コミュニケーション時代のスタンダード」

 INFOBAR 2は、おしゃれな人や若者に向けた端末だと捉えられがちだが、深澤氏は携帯電話がコミュニケーションツールのスタンダードになる中の、1つの普遍的な提案だと考えている。「キーが大きくて見やすく、お年を召した方でも受け入れられる。ある種のマーケティングによってセグメント化した層に当てようとやっているわけではなく、1つの基準を出しているということ」(深澤氏)

 携帯電話の世界は「今まで“すごい”といっていたものが、あっという間に普通になる」(深澤氏)というような、すさまじいスピードで進化を続けている。深澤氏は、こうした中で今後の携帯のあり方について適正な回答を出すのがデザイナーの仕事だという。「未来はなかなか読みきれないが、今後の進化にも期待してほしい」(深澤氏)

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