その時代に最適なポインティングデバイスを――「W53S」の「+JOG」誕生の秘密:“ジョグ復活の真相”を開発陣に聞く(2/2 ページ)
一部のソニエリユーザーから、熱烈な支持を集めているジョグダイヤル。+JOGを搭載したauの「W53S」は、そんなジョグダイヤル派のユーザーにとってまさに“待望”の1台だ。これまでのジョグとの違いや、W53Sならではの機能を中心に開発陣に話を聞いた。
素材感にこだわったインハウスデザインのStyle-Upパネル
W53Sのもう1つのコンセプト「カスタマイズ」については、Style-Upパネルを100種類ラインアップしていることから、ソニエリが+JOG並みに注力していることがうかがえる。Style-Upパネルは、ソニー・エリクソンのインハウスデザインによるものが50種類、ディズニー、Tokyo Collection、World Creatorsなど外部クリエーターとコラボレートしたものが50種類用意されている。
本体とStyle-Upパネルのデザインを担当したデザイナーの兼田氏は、「コラボレートしたパネルは印刷したものが多いので、ソニー・エリクソンのパネルは素材感にこだわり、中でしかできない表現にこだわった」とパネルのコンセプトを話す。革、ラメのような素材や、ラインストーンやエンボスを施したもの、2枚重ねで奥行きを出したものなど、多彩なパネルがそろう。「革にエンボスをつけたのは初めて」(兼田氏)とのことで、芸術作品のようなパネルが目立つ。
パネルのデザイン自体は何度か経験があったので、あまり苦労はなかったそうだが、これだけの数のパネルを短期間で作っていくことが大変だったという。「当初は100種類ほど集め、柄がかぶらないようにかなりアイデアを出しました。デザインは本体よりもパネルのほうが時間がかかりましたね」(兼田氏)
このStyle-Upパネルと連動した待受画面も用意しており、Style-Upパネル購入者はパッケージ裏のQRコードから専用サイトにアクセスしてダウンロードできる。また、W53S購入者全員が無料でダウンロードできる「EZケータイアレンジ」も、メーカーサイト「SonyEricsson@ez」で配信されている。
W53Sでは中身のカスタマイズにもこだわり、EZケータイアレンジの素材を6種類プリセットしている。「着せ替える楽しさを知ってもらおうと思い、これまでプリセットコンテンツは2、3種類しかなかったのですが、今回は数を増やしました」と斉藤氏。「EZケータイアレンジは、バリエーションを増やしていろいろな方向に散らすのが効果があります。シュールなネタ、こてこてのキュートなもの、デザイン性のあるものなど、バリエーションを重視しました」(冨岡氏)
このほかに、サブディスプレイをカスタマイズできる“遊び”の要素も追加された。EZケータイアレンジと連動しているわけではないが、本体を閉じたときに表示されるグラフィックを10種類内蔵している。「有機ELというデバイスを入れるにあたって、何か面白いことをできたらと思い、採用しました。アニメーションはメーカーサイトからダウンロードすることもできます」(向井氏)
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全体のデザインは「親しみやすさ」と「使い勝手のよさ」がコンセプト。「見た目も全体に柔らかく、丸くて角のない握りやすいフォルムを実現させました。本体を開ける際に、サイドに溝があるので指がかかりやすくなっています」と兼田氏。ダイヤルキーにはW51Sでも好評だったタイル状のキーを採用しており、指の腹にぴったり当たるので、つめが長い女性でも快適に操作できるだろう。
カスタムメニュー、デコ絵つくーる、モバイル辞書――新機能も充実
「カスタマイズ」がW53Sのキーワードということもあり、通常のメインメニューのほかに、12の項目を登録できる「カスタムメニュー」も用意した。ソニー・エリクソンの端末には従来から「マイセレクト」というショートカットがあるが、「マイセレクトはあまり使わないけど時々設定を変えたくなるショートカットを集めたもの。カスタムメニューは自分好みのメインメニュー」(斉藤氏)だという。「KDDIからのリサーチの結果をもらい、よく使われている機能を選びました」(斉藤氏)
「ジョグのメリットはメールが使いやすくなることが大きい」(斉藤氏)ため、従来機種では数10個だったデコメールテンプレートを150種類プリセットした。パネルと連動した素材はないが、新規で作ったテンプレートは100種類にものぼるという。「本当はもっとたくさん作ったのですが、その中から選りすぐりました」(斉藤氏)
撮影した写真、文字、イラストなどを切り出してオリジナルの絵文字を作成し、デコレーションメールの文中に挿入できる「デコ絵つくーる」も搭載された。この機能を利用できるのは、現行機種ではW53Sだけだ。「新しいメールの楽しみ方を提案できればと考え、搭載しました。顔写真を使ってもいいですし、地図やサインなども簡単に作れますよ。ユーザーさんから要望があれば、もっと力を入れていこうと思います」(冨岡氏)
ツールは「モバイル辞書」が追加された。使用しているのは旺文社の辞書で、国語辞典、英和辞典、和英辞典の3つの辞書を利用できる。さらに、オンライン辞書も用意されている。「モバイル辞書は日常的に使うものですが、オンライン辞書は、日々更新している新語でも検索できる辞書なので、より詳しく、新しいものを調べたいときに使っていただければと思います」(斉藤氏)
一方で、EZ・FMやATRACファイルの再生機能は、W53Sには搭載されていない(ただしスピーカーはステレオを採用)。これについては、「W53SはAV機能を狙った端末やなんでも入っている端末と違い、ポイントを絞って機能を選んだ」(冨岡氏)ためだという。
W53Sに続く端末は、今後どうなっていくのだろうか。この点を考えるには、2007年から2008年にかけて変わりつつある、ケータイ業界の大きな流れをとらえる必要がある。まず、総務省指導による料金体系の見直しにより、端末を長期間使うニーズが増えていること。「これに対応するためにメーカーができることは、着せ替えや中身のカスタマイズなどで、ユーザーが長く使っていけるようにすることです」(冨岡氏)
もう1つが、端末プラットフォームの共通化。共通プラットフォームは端末の開発期間を短縮するなどのメリットがある一方で、メーカー間の差別化が難しくなっているのも事実で「ポインティングデバイスに注力して開発していくことで、ソニエリらしさを感じてもらえれば」というのが狙いだ。
「『(内外の)カスタマイズ』と『(独自の)ポインティングデバイス』を兼ね備えたW53Sは、スタンダードモデルながら差別化に成功した象徴的なモデルとして提案できた」と、冨岡氏は胸を張る。音楽やAV機能への特化は、たしかに差別化手法としては分かりやすいが、スタンダードモデルとして他機種との違いを明確に打ち出せたW53Sこそ、これからの時代に広く求められる携帯の1つの形なのかもしれない。
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