無線と固定のポートフォリオはほぼ完成している――Ericssonのベリエンダール氏:Mobile World Congress 2008
NECと仏Alcatel-Lucentが合弁会社の立ち上げを発表するなど、通信インフラ市場の再編が進んでいる。モバイルブロードバンドがさらなる高速化に向かう中、モバイル通信インフラ最大手のEricssonはどんな戦略で臨もうとしているのか。マーケティング担当副社長のヨハン・ベリエンダール氏に聞いた。
スウェーデンの通信インフラ大手として知られるEricssonは、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2008」の同社ブースで、携帯端末を使ったLTEのデモやテレビソリューションの展示などを通じて最新技術を披露した。
同イベントの会期中に、NECと仏Alcatel-Lucentが合弁会社の立ち上げを発表するなど通信インフラ市場の再編が進む中、Ericssonはどんな戦略で激変期に臨もうとしているのか。同社マーケティング担当バイスプレジデント兼CMO(最高マーケティング責任者)、ヨハン・ベリエンダール(Johan Bergendahl)氏に聞いた。
ITmedia ネットワークインフラ業界が大きく動いています。Ericssonの戦略について教えてください。
ベリエンダール氏 ネットワークインフラは固定と無線で大きく異なります。無線分野では、われわれはGMS時代から確固たる地位を確立しており、3G以降はモバイルブロードバンドとしてHSPAのアップグレードを進めている段階です。
固定通信分野では現在、テレビや動画がアップグレードを促進しています。これらは帯域とキャパシティを要求するアプリケーションです。歴史を振り返ると、固定で起こったことは無線でも起こります。
Ericssonではテレビや動画を次世代ネットワークの長期的な成長要因と見ており、このニーズに応えるために不足している技術やサービスは何かと考え、ポートフォリオを作ってきました。
インフラ面では、バックボーンネットワークのキャパシティを補強するために、英Marconiを買収し、固定分野では、次世代技術のGPON(Gigabit capable passive optical networks)技術を持つ米Entisphereを買収しました。GPONはFTTHの主力技術となります。日本や中国では一般的ではないかもしれませんが、中国では今後GPONが注目されるでしょう。
サービスレイヤー面では、コアネットワークからアクセスネットワークを見ると、アップグレードの対象はコンシューマー寄りのエッジ部分になっており、ルーティング技術が重要になります。そこでわれわれは、米Redback Networksを買収しました。Redbackは優れたエッジルーティング技術を持っており、インターネットと通常のデータストリームを合わせられます。最後に、テレビネットワークをエンドツーエンドで提供するために買収したのが、ノルウェーのTANDBERG Televisionです。エンコーダをはじめ、コンテンツの作成から配信まで幅広い技術と知識を持った企業です。
マルチメディアと無線は、ともにIPに移行しています。テレビやビデオストリームをプッシュする技術は最後の部分が異なるのみで、後は同じです。この4社の買収により、われわれの無線と固定のポートフォリオはほぼ完成したといえます。
似たようなポートフォリオを持つ大企業同士が合併すると統合に苦労しますが、われわれは小型企業を補完的に買収したので、統合がスムーズに進みました。
ITmedia 固定側の取り組みを教えてください。
ベリエンダール氏 固定側ではビデオルーティングではナンバー1、GPONではナンバー2か3、端末とサービスを問わない“フルサービスブロードバンド”ではナンバー1です。
ITmedia マルチメディアがなかなか離陸しないといわれています。市場をどう見ていますか
ベリエンダール氏 市場の動きは確かにスローペースです。これは、メディアや通信事業、ITなどさまざまな業種が融合しており、それぞれのビジネスモデルが衝突しているためです。
アーティストが新しい音楽アルバムを作成すると、最初に大きな報酬をもらうのか、小さな決済を重ねていくのかは業界によって考えが違います。ビジネスディストリビューションやビジネスモデルが確立されていないのであって、技術が課題ではありません。参加している企業は協調なのか競合なのかがまだ、あいまいです。
現在は音楽が少しずつ動き始めたところでしょうか。テレビもそろそろ動き始めると思います。一度動き始めるとあっという間でしょう。消費者は期待とともに新しいサービスを待っていますから、Ericssonは楽観しています。
Ericssonは、サービス、メッセージング、テレビ/オーディオ配信、プリペイドとポストペイドの課金などさまざまなビジネスモデルを実現する技術ポートフォリオを揃える戦略です。
ITmedia 今年のMobile World Congressのテーマの1つがLTE(Long Term Evolution)です。LTE分野でのEricssonの取り組みを教えてください。
ベリエンダール氏 LTEのデモは昨年の3GSMでも行いました。商用サービスは、2009年にスタートすると予想しています。この分野を推進することを公に発表している通信キャリアはNTTドコモと米Verizonの2社で、ドコモはLTEでEricssonを採用すると発表しています。
しかし、GSMや3G、HSPAの例で分かるように、マス市場に向けた離陸は数年後になるでしょう。大規模な実装がはじまるのは2010年、2011年ごろからでしょうか。
2008年はモバイルブロードバンドの年だと思っています。3Gは携帯電話だけと誤解していましたが、われわれは中国Lenovoと提携し、ノートPCにHSPAモジュールを搭載することになりました。このように、モバイルブロードバンドに対応したノートPCは、3年後には総出荷台数の50%を占めるようになると予想しています。
ITmedia WiMAXをどのように見ていますか?
ベリエンダール氏 よくWiMAXとLTEが比較されますが、誤解があります。これはWiMAXが4Gと喧伝されたことから市場の混乱を招いたことが理由で、ITUはWiMAXを4Gではなく3G標準として承認しているのです。WiMAXはキャパシティを見るとHSPAと同レベルで、LTEはまったく異なるものです。
WiMAXは固定側の無線技術であり、Wi-Fiの延長や置き換え用途に位置づけられます。ほとんどの通信事業者はGSMや3G、HSPAに多額の投資を行っており、自然な進化の先にあるのはLTEでしょう。WiMAXが登場しても、この資産を捨ててWiMAXを実装するとは思えません。
ITmedia 日本市場をどう見ていますか?
ベリエンダール氏 日本市場は、固定、無線ともに自国ベンダーが強い市場です。無線では、Ericssonは幸いにも以前からNTTドコモとよい関係を構築しており、研究開発での協力体制ができていることに加え、LTEでの採用も決まっています。ソフトバンクモバイルとはボーダフォン時代から関係がありますし、新規参入のイー・モバイルもEricssonを採用しています。
ITmedia 第4四半期はマネージドサービスが好調でした
ベリエンダール氏 サービス事業は急成長している分野です。Ericssonは当初からサービス関連にも注力しており、新規参入者よりもメリットがあります。
差別化はスケールの強み、コスト効果です。Ericssonが製品で持つ技術力や実力はサービスでは実行力として証明されています。
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