iPhoneからPNDまで──「NAVITIME」の拡大戦略:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
今や携帯電話の重要な機能の1つとなったGPS。そのGPSを活用するナビサービスを、古くから手がけてきたのがナビタイムジャパンだ。競合サービスも登場し、競争環境が厳しくなった2008年、同社はどのような成長戦略を描くのか。ナビタイムジャパン大西社長に聞いた。
独自で構内地図を制作、屋内ナビにも注力
また最近の新機能では、駅の構内でもルートを案内する「駅構内ルート」も力を入れている分野だ。将来的な“屋内ナビ”の重要性については、前回のインタビューでも述べられていたが、それが着実に形になってきた格好だ。
「駅構内ルートの対応は、関東・関西・中部の主要12駅からスタートしました。このサービスでは、ユーザーが(構内を)歩きながら『何が見えるか』という目印が大切なので、ナビタイムの開発陣が実際に(駅を)歩いて調べているのです。例えば新宿駅の場合、300通りのルートについて実地検証しました」(大西氏)
道路や住宅地図の場合は、複数のデジタル地図が販売されている上にGPSで位置情報が得られる。しかし、屋内はGPSが使えないので、歩行者の視点に立った精度と情報量を持つ地図が必要だ。このような歩行者ナビ用の屋内デジタル地図は外部から調達できず、また鉄道会社も用意していないため、ナビタイムが独自に制作している。「今後は駅構内ルートの対象駅を地下鉄駅などにも拡大していく」(大西氏)予定だ。
「屋内の場合、ナビゲーションの範囲が(建物内の)三次元になるので、ルートパターンがとてつもなく複雑になります。我々が独自に地図を制作し、(屋内ナビを)開発したのも、この立体構造におけるナビの難しさが理由にあります」(大西氏)
また、屋内では当然ながらGPS信号が受信できない。そのため自分の現在地を表示してのリアルタイムナビができないという課題もある。ナビタイムは、2008年2月に大阪の阪急三番街で行われた地下街におけるGPSナビゲーション実験にも参加しているが、GPS再送信による屋内ナビでは「滑らかな移動」がいまだに実現できていない。
「屋内での位置情報をどのように取得するかは、今後の課題ですね。例えば、照明器具に埋め込むような装置で位置信号を送信できるものは開発されています。でも、既存のケータイのデバイス構造を変えずに、屋内でも位置情報が受信できるような仕組みができるといいと思っています」(大西氏)
屋内での位置情報取得は今後の課題であるが、現在、自動車/歩行者ITSの両方で実用化が検討されている可視光通信の応用など“技術の芽”は見え始めている。
「将来的な技術動向を見据えながら、まずはナビゲーション用の屋内地図の拡充を図っていきます。まずは主要駅からですが、増加する大規模な複合化商業施設の地図作成も考えています。
また屋内のナビで考えますと、『歩行者』『車いす』『ベビーカー』など移動特性に最適化したルート案内をする仕組みも必要になってきます。こちらは今年2月に豊田市で実証実験に参加しましたが、今後も屋内地図やルート(アルゴリズム)側の整備を進めていきます」(大西氏)
グローバル展開を視野に「iPhone」にも対応
昨年1年間の動きを見れば分かるとおり、NAVITIMEはマルチプラットフォーム化にもとても積極的だ。ドコモ、au、ソフトバンクモバイルの主要3キャリアはもちろん、ウィルコムやイー・モバイルにも対応。さらにWindows MobileやSymbian OSを搭載したスマートフォン環境への対応も進めている。NAVITIMEの拡大戦略は、今年どれだけ進むのだろうか。
「スマートフォンへの対応は、国内市場はもちろんですが、海外展開という点で重要なので積極的に行っています。少し背景を説明しますと、(2008年の)4月3日からNAVITIMEのサーバシステム側が完全に統合されまして、端末環境や利用地域による違いがなくなりました。クライアントのアプリさえ用意すれば、(NAVITIMEは)マルチプラットフォームかつグローバルで利用できるようになるのです」(大西氏)
この統合効果の好例となるのが、北米市場向けのNAVITIME開始だ。今後は2008年中に対象エリアを欧州やアジアに拡大するが、それもシステム側の統合効果で、スピーディかつ効率的に行えるという。
「地域ごとにサービス受容性の違いはありますが、システム側は地図の用意も含めてグローバル対応をしておきます。それぞれの地域で市場環境が整ったら、すぐにサービスを開始できるようにしておくわけです。クライアントアプリの多言語対応も進めていまして、当面の目標では15カ国語に対応したいと考えています」(大西氏)
今後の端末側の対応では、現在のWindows MobileやSymbian OS、BlackBerryに加えて、LinuxやAppleの「iPhone」にも対応する方針だ。
「現在、iPod touch向けのNAVITIMEはWebアプリ方式で対応していますが、(iPhone/iPod touchの)アプリケーションソフトウェアの提供も行います」(大西氏)
AppleのiPhone/iPod touchでは、サードパーティ製アプリケーションを直接ダウンロードできる「App Store」が用意される予定になっており、これはグローバルで展開される計画だ。つまり、iPhone/iPod Touch用のNAVITIMEは国内市場はもちろん、多言語化すればそのまま海外市場にも展開可能になる。
PND市場には2008年中に進出する
NAVITIMEは当初、歩行者ナビからスタートし、現在は「EZ助手席ナビ」「ドライブサポーター」という形でクルマ向け携帯GPSナビも提供している。一方で、自動車市場を鑑みると、現在のカーナビのトレンドはサーバー連携による「古くならない地図」の実現。さらにグローバルでは小型・安価なPND(Personal Navigation Device)の市場が急拡大しており、その波が日本市場にも押し寄せている。
ナビタイムは、このPND市場にも進出すると大西氏は話す。
「まだ具体的には申し上げられませんが、PND分野には参入します。現在の(携帯向け助手席ナビの)ドライブサポーターは(携帯電話上でのサービスであるが故に)ドライバーが運転中に利用することはできません。また携帯電話では画面が小さいという制約もありますが、PNDならばこの弱点が解消できます。PNDなどクルマ向けのNAVITIMEは、今年、積極的に拡大していく考えです」(大西氏)
また、これらクルマ向けNAVITIMEの拡大にあわせて、道路地図の更新頻度やコンテンツの拡充、クルマ向けのルート検索エンジンの改良などにも注力するという。現時点で詳細は明かされなかったが、NAVITIMEのPND市場への参入、さらにクルマ向けサービスの拡大は今年の注目分野になりそうだ。
ユーザー視点・クオリティ重視で優位性を保つ
携帯電話市場のビジネストレンドは「ネットとリアルの連携」に急速にシフトしてきており、その流れの中でGPSとナビゲーションは重要な位置を占め始めている。ナビタイムがサービス強化とグローバル展開を推し進める一方で、国内だけでなく海外の競合他社との競争も激しくなるだろう。勝算はあるのか。
「(他社との競争では)従来どおり、『ユーザー視点でよいサービスを作る』姿勢で臨んでいきます。特に重視しているのはサービス品質で、社内の品質保証部門の充実には力を入れています。
また、もう1つの我々の強みは、(開発の)『外注は一切しない』ところですね。サービスの企画・開発からデータセンターの構築・運用、品質保証、サポートまですべて自分たちの手でやっています。これは高いサービス品質の実現と、ユーザーからのフィードバックを次の開発に生かす上で(競争)優位性になっています。
(携帯GPSナビは)サービスですので個々の機能はマネできます。しかし、本質的な良さ、クオリティの部分は実は簡単にマネできない。経験やノウハウの蓄積が重要なのです。このクオリティには自信があります」(大西氏)
携帯GPSナビの揺籃期から市場の創出に努力し、ユーザー視点で総合型ナビゲーションの発展に努めてきたナビタイム。同社のサービスは国内市場でのマルチキャリア/マルチプラットフォーム化を経て、海外市場やPND市場など新分野に羽ばたく。日本を代表する“サムライナビ”「NAVITIME」が、今年どれだけ飛躍するのか。期待をもって見守りたい。
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