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各キャリアの個性がはっきり──ケータイ夏の陣を斬る神尾寿のMobile+Views(3/3 ページ)

例年よりやや遅めの発表会シーズンが一段落し、携帯大手3キャリアの2008年夏商戦向けモデルが出そろった。端末とインフラの力で勝負するドコモ、端末・サービス・販売モデルの足並みがそろい攻勢に転じるau、そして女性をターゲットに勢力拡大を図るソフトバンクの3つどもえの戦いが始まる。

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周到に勢力の拡大を図るソフトバンクモバイル

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ソフトバンクモバイルの2008年夏モデル。上段左から923SH、824SH、823P、825SH、821N、824P、下段左から824T、821N GLA、820N、823T、921P

 端末や分かりやすい料金プランの魅力で勢力を伸ばし、純増シェアNo.1が指定席になった感のあるソフトバンクモバイル。同社の夏商戦ラインアップは、ずばり「女性層をターゲットにしたもの」(ソフトバンクモバイルの孫正義氏)である。

 詳しくはリポート記事に譲るが、新製品12機種のうち、女性向けと位置づけられるのは8機種。しかも、いずれもデザインがよくて質感が高く、防水機能の搭載や、ドコモで女性の利用比率が高いNEC製端末も用意するなど、周到に商品企画が練られたものばかりだ。一方で、性能・機能面は控えめであり、他キャリアの今期モデルではミドルレンジにまで広がったVGA液晶までばっさりと切り捨てられた。女性が好むデザインや質感、機能には十分にこだわりつつ、そのほかの部分ではしっかりとコスト削減が施されている。よい意味で“メリハリ”が効いているモデル群である。

 女性層については孫氏自らが「うちは女性層に弱い傾向がある」と力を入れた理由を語ったが、ここに舵を大きく切った背景には、もう1つの“語られなかった理由”がある。そして、その伏線は今年の春商戦に張られていた。

 ソフトバンクモバイルは、今年の春商戦において学生層の獲得に向けて基本料やパケット料定額制の最低価格が0円となる「ホワイト学割」を投入。これにより学生の新規契約者獲得で優位に立っただけでなく、「ホワイト学割で獲得したユーザーの多くは、メールや(音声定額適用外となる)他社通話の利用量も多く、結果としてARPUの平均は予想以上に高かった」(関係者)というのだ。

 また、ホワイト学割の加入時の傾向として、「店頭では友達同士で加入する、または友達に付き添ってきてソフトバンク(モバイル)を勧めるといった光景がよく見られた」(販売会社幹部)という。コミュニケーションを媒介とした連鎖性や同調性が、学生層の獲得時に好循環として現れたのだ。

 この“実績”を踏まえれば、学生層と同じく連鎖性や同調性が強く期待できて、しかも生活における携帯コミュニケーションの重要性の高さから、一定以上のARPUが期待できる女性層をソフトバンクモバイルが狙うのは、むしろ当然といえる。端末作りやサービス開発も手慣れてきて、デザインや質感で“ケータイの目利き”である女性たちにアプローチできるようになってきた。ソフトバンクモバイルは、満を持して女性層を狙ってきたと言える。

 サービス面を見渡すと、こちらも“ソフトバンクらしさ”が出てきたと感じる。特に筆者が注目したのは、「新デザイン絵文字」と、「AQUOSケータイ 923SH」に搭載された「Wikipedia検索」「Yahoo!地図」との連携機能だ。

PhotoPhotoPhoto 左が新デザインの絵文字。新機種から順次対応する。中央はWikipedia検索にも対応した辞書機能、右がYahoo!地図との連携機能

 まず前者は、携帯電話のベーシックな機能である絵文字を見直し、デザイン性や親しみやすさを増したものだ。ともすればレガシーな要素機能として見落とされがちな絵文字を、コミュニケーションにおいて大切なものと目配りしたことは高く評価できる。一方、後者の「Wikipedia検索」「Yahoo!地図」との連携は、ネットサービスを携帯電話で使いやすく融合する好例といってもいいだろう。こうしたサービス分野にまで“ソフトバンクらしさ”がでてきたところに、昨年1年の急成長を経て、同社の商品企画や開発体制に余裕がでてきたと感じる。

2008年に描かれる「携帯ビジネスの未来」

 こうして出そろった夏商戦の端末・サービスを見渡すと、各キャリアの戦略や方向性の違いが、かなり色濃く表れている。今年後半から来年にかけては、2010年以降の新たなモバイル市場に向けた変革期であり、ちょうど端境期にあたる。

 各キャリアがどのような方向性で、2010年以降を目指すのか。また、ユーザーはどのキャリアが描く未来を強く支持するのか。今年の夏商戦、そして次の冬商戦の見どころはそこにある。

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