「電話」以外の提案力で携帯キャリアに差をつける――ウィルコム 土橋匡氏:ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)
音声定額やデータ定額をいち早く導入し、法人市場を牽引してきたウィルコム。しかし携帯キャリアも相次いで定額を導入し始めたことから、苦しい戦いを強いられている。次世代PHS「WILLCOM CORE」の導入を目前に控えた今、ウィルコムはどのような戦略で法人顧客をつなぎ止めようとしているのか。同社副社長の土橋匡氏に聞いた。
「電話」以外の提案力で携帯キャリアに差をつける
ITmedia 現在の法人市場は、ハンドセット(電話機)を使った「電話サービス」が主体になっていますが、WILLCOMではスマートフォンや組み込み分野など、かなり多種多様なサービス形態にも取り組んでいますね。このあたりの戦略についてお聞かせください。
土橋 そこは我々が、ひと言で法人市場といってお客さまの「業種・業態」にあわせた提案を心がけていることと結びついています。例えば食品・流通業界では、原価上昇で厳しい状況にありますが、そこに(WILLCOMのソリューションで)電子POPのような仕組みを提案して、お客さまの売り上げがあがるようにご協力する。こういったソリューション提案は、今後さらに重要になると考えています。
ITmedia 電話のサービスはどうしても「コスト」と見られてしまう部分がありますが、データ通信の活用は導入企業の「本業貢献」にもなりますね。
土橋 そのとおりです。実際の法人のお客さまも、コスト削減はもちろん大事だけれども、それ以上に売り上げ拡大につながるモバイルソリューションの提案をしてほしいという声は多くあります。今後の法人向けビジネスは、こういった法人顧客のみなさまの細かなニーズまで対応していかなければなりません。
ITmedia なるほど。今後の法人市場の拡大においては、キャリアの「提案力」も重要になりそうです。
土橋 コンシューマー市場もそうでしたが、最初は契約回線数を追う時代になるんです。しかし、その後には付加価値が重要になる時代が来ます。ウィルコムは(携帯電話キャリアよりも)時代の変化の先を行く戦略をとってきたわけですが、今後重要になる法人市場においても、“携帯キャリアの一歩先を行く”形でしっかりと獲得していきたいのです。
WILLCOM COREだからできる、新たな法人サービス
ITmedia ウィルコムの将来において、重要な役割を果たすのが次世代PHSの「WILLCOM CORE」です。こちらと法人ビジネスとの関係はどのようになっているのでしょうか。
土橋 ウィルコムの全体的なビジネスとしては、複数のカテゴリーでそれぞれ成長していく「アルプス型」のモデルを考えています。この中で法人市場をかんがみますと、現在はデータ通信分野の競争力が、他社に比べてやや弱い。すべての(法人向けのサービス)分野でWILLCOM COREは重要なアップグレードパスですが、まずは「データ通信」が主要な用途になってくるでしょう。
ITmedia 法人向けデータ通信も、携帯キャリアが注力してきたところですね。特にドコモとイー・モバイルが躍進しています。
土橋 現時点で我々は(データ通信分野で)劣勢にあります。しかし、我々は2000年から法人向けデータ通信定額サービスを提供してきたノウハウがあります。ですから、(WILLCOM COREの時代には)ここを劇的に変えていきますよ。今はまだセキュリティの観点から企業のモバイル通信の活用が限られていますが、生産性拡大のためには絶対に(モバイル通信の利用・活用が)必要になります。ここはノートPCやスマートフォンを筆頭に、さまざまな形で変えていきます。
ITmedia 今後の流れをみますと、企業ユースでは特にシンクライアント的なデータサービスの活用が重要になりますが、そう考えると現在のHSDPAでも速度が足りません。しかし、次世代PHSの時代になれば通信容量が増えますので、ここで「企業のデータサービス活用」に新たな展望が開けるかもしれません。
土橋 そういった(シンクライアント型の)モバイルサービスが成長する時代には、WILLCOM COREのような大容量の通信インフラが必要になります。ここでのウィルコムの強みは、現行PHSの時代から実効速度が下がりにくいマイクロセル型のネットワークを作るノウハウがあることです。さらにWILLCOM COREは上下対称で(端末から基地局への上り回線でも下り回線と同等の)高速データ通信が可能で、伝送遅延も小さい。それらはサーバとのやりとりが増えるシンクライアント型サービスの時代において有利な点になるでしょう。
WILLCOM CORE時代にむけた夢と現実
ITmedia これから2010年にむけて、ウィルコムは次世代PHSのローンチなどビッグイベントを控えています。それらも踏まえた上で、2010年にむけたビジョンをお聞かせください。
土橋 我々には「次世代PHS」がありますが、あたりまえですけれど、これはサービスが始まるまではお金を生みません。ですから、経営的にみると財務体質のバランスを取りつつ、次世代(のWILLCOM CORE)を始めなければならないという、とても厳しい局面にあります。
我々は夢を持って次世代を始めなければなりません。しかし、現実としてビジネスの持続性も重要になります。そこで法人市場向けのビジネスでは、WILLCOM COREをにらんでさまざまなソリューション提案をしていき、次世代がローンチした際にはスムーズに、より高度なサービスに移行していける体制を作っていきます。
ITmedia 現行PHSで法人向けソリューションを増やすことが、次世代PHSの潜在顧客を増やすことにつながる、ということですね。
土橋 そのとおりです。WILLCOM COREでは「モバイルでできること」が大きく広がります。その時代に向けて、法人ソリューションの市場をしっかりと広げていきます。
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