アナログのアプローチで感性に訴える――「ガッキ ト ケータイ」が目指す新たな世界:iPhoneとは真逆のアプローチ(2/2 ページ)
au design projectの最新コンセプトモデルは、ヤマハとのコラボレーションから生まれた「楽器ケータイ」。楽器とケータイのコラボはケータイのあり方をどう変えるのか。端末開発を担当したヤマハデザイン研究所の田中聡一郎氏に聞いた。
ITmedia Band in my pocketは、アナログとデジタルの両立が絶妙です。
“楽器のエッセンスをコンパクトにおさめて、取り替えることで楽しむ”というテーマで作ったのがBand in my pocketです。
トランペットのアタッチメントは、実際のトランペットを必要な部分だけにして、“それでも演奏できたらすてきだな”と思って作ったところ、意外と楽しめたんですね。
トロンボーンのアタッチメントは、冗談で言っていた“電話をかけてきた相手に言わせたセリフをトロンボーンの管のスライド操作で変化させると面白い”という話から生まれたものです。これを“トーンを3上げて、2落とす”みたいなキー操作でやると面白くないのに、トロンボーンのように操作できると、けっこうやってしまったりするんです。
つまみが付いているアタッチメントは、シンセサイザーのノブをイメージしています。音を変えたりするのはボタンやキーでやるより、アナログのほうがコントローラブルになるだろうと考えました。
ケータイはデジタルとアナログをうまく両立させられるところが面白いんです。例えばベースは弦が1本だけで、音程を変えるのはダイヤルキーやスイッチに任せる。“弦をはじくところ”でアナログな雰囲気を出すということです。それで充分プレイしている気持ちになったりするんですね。
アナログな作法や操作感、インタフェースをあえて抽出してデジタルと合体させる――。こうしたハイブリッドが、新しい道具のあり方を作ってくれるのではないかと思います。一見、ジョークに見えるけれど、シリアスにそんなことを考えて作っていました。
ITmedia 楽器のインタラクションはケータイのそれを変えられるのでしょうか。
田中氏 今、ケータイで便利なインタラクションは何かと考えたときに、例えばタッチパネルのようなものがあると思うんですね。機能に合わせてスクリーンが入れ替わって、ボタンも必要なところにそのつど出てくる。そこに触れるだけで反応するのは便利です。
でも一方で、これは私の仮説ですが、“ケータイに愛着を持ちたい”とか“使って気持ちいい”ということを実現するには、ひょっとしたらタッチスクリーンを使わない別のソリューションのほうがいいんじゃないかと思ったわけです。
楽器には“この使い心地のよさで、ずっと使いたくなる”といったきっかけがいっぱいあって、それが直感的な操作になり、深い表現力につながります。それをケータイに置き換えたら面白いのではないでしょうか。
そうすると、ケータイが“表現のツール”になるかもしれないし、“この押し心地じゃないとだめだから使い続けたい”ということにつながるかもしれない。そんなことを考えてコンセプトモデルを開発していました。
今、iPhone 3Gが話題になっていますが、今回のコンセプトモデルはその“アンチテーゼ”とまでは言わないものの、真逆のアプローチといえるかもしれませんね。「不便に思えるような弦を使わせていて、でもそれ自身には価値のあるタッチがあり、それはタッチパネルでは表現できないことだよ」というのを、それぞれの端末に込めています。
ITmedia 今回のコンセプトモデルの開発が、今後の楽器作りを変えていくと思いますか。
田中氏 これまでは「楽器の問題は可搬性だ」と思っていたところがあったのですが、解決の糸口が見つけにくかったんですね。楽器の場合、“メソッドを変えてはいけないだろう”とか、“いい音はフルサイズでないと出ないだろう”と思いこんでいるところがあるんです。
でも、今回のコンセプトモデルでいえば、例えばBand in my pocketのトランペットはその考えを変えるきっかけになったかもしれない。このアタッチメントは本物に忠実な3つのピストンバルブを付けた以外は全部そぎ落として、マイクを通じて入力する音を管楽器の音に変換する部分はケータイ側に任せています。それでもトランペット吹きにとって、かなり深い表現ができたりするわけです。これは“シンプルでも、奥深い表現ができる”ことを示すサンプルになるかもしれないですね。
デジタルの世界が当たり前になったところで、今回のようなアプローチをすると、“楽器をプレイする”という本質的な楽しみについて考えたり、“小さくてもプレイは維持できる”ということを改めて実感できたりと、いろいろなものが見えてきます。それは今後のいい見本になるでしょうし、理想型であると思いたいですね。ジョークのように見えて、“けっこうできることは深い”ことが伝わればいいかなと思います。
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