総務省の谷脇氏、携帯業界の“官製不況”説に反論:mobidec 2008(2/2 ページ)
2008年は、端末メーカーにとって苦しい1年となった。買い替えサイクルの長期化が端末販売の不振を招き、メーカーの再編や撤退も相次いだ。こうした事態を“官製不況”とする声に総務省の谷脇氏が反論。改めてオープン化の本質について説明した。
販売奨励金廃止とは言っていない
活性化プランに関する最大の誤解として谷脇氏が挙げたのが、「総務省が販売奨励金を廃止するよう事業者に求めた」とする見方だ。成約に応じて端末1台あたり3〜4万円程度の奨励金が事業者から販売代理店に支払われていたことで、契約者は安く端末を購入できていたが、頻繁に端末を買い替える人の端末代をそれ以外の人が間接的に負担しているこの構造を、活性化プランは問題視していた。
谷脇氏は、総務省が各事業者に求めたのは「端末の価格と通信料金を明確に切り離してほしい」ということであり、「販売奨励金をなくすようにお願いしたという事実はない」と強調。取引する上で、物やサービスの正しい価格が示されているのは当然のことであり、消費者に本来の端末価格を明示することが必要であるとの考えは強いものの、「販売奨励金=悪」といったとらえ方はしていないことを説明した。
また、現在では各社とも2年間の継続利用を前提とした契約形態を中心に据えるようになったが、これについても谷脇氏は「期間付き契約ができるのかできないのかかが不明確な部分があったのに対し、『別にいいですよ』と申し上げたのであって、縛り契約の導入をお願いしたわけではない」とコメントし、「2年縛り」は総務省の意向ではないかという見方を否定した。
SIMロックは依然として「問題」
各社が端末価格と通信料金の分離に動いた一方で、谷脇氏が「現在においても残っている問題」と指摘するのが、端末にかけられているSIMロックである。現在、携帯電話事業者4社はいずれも、端末と契約者情報のひも付けにSIMカードを使用しており、SIMカードを別の事業者の端末に差しても、基本的に端末は動作しない。モバイルビジネス研究会ではこれを問題視し、契約者が自由に端末を選択できるようにするべきとしている。
谷脇氏は、かつてレンタルのみだった携帯電話機が1994年に売り切り可能となった時点から、その背景には端末の流通をオープンにしていく意向があったと話す。「メーカーや事業者は、それぞれいろいろな販売ルートで端末を独自に売っていくことが望ましい、ということで自由化が行われた」(谷脇氏)。しかし、現実には事業者による販売が主流になり、オープン化に向けて端末のレイヤーと通信サービスのレイヤーを分けるためには「原則としてSIMロックは解除する方向で今後検討していかなければならない」と、谷脇氏は指摘した。
しかし、各キャリアの独自サービスを前提に開発された現行端末は、SIMロックを解除しても通話とSMS程度の機能しか互換性はない。また、SIMロックがなかったとしても、現状でSIMカードを交換できるのはFOMA端末とソフトバンク3G端末の間のみで、KDDIとイー・モバイルは通信方式や周波数の違いから自社端末しか使えない。このため、谷脇氏も「今すぐにSIMロックを解除するというのは、やや乱暴な議論かもしれないと考えている」と話す。
将来的に解除する方針であることは変わらないとしながらも、「そのタイミングについては慎重に検討していかなければならない」とし、実際にSIMロックがなくなるのは、「各社の通信方式がLTEにそろう頃になる」との見方を示した。
端末販売の不振には「冷静な議論を」
端末販売台数が落ち込んでいる理由としては、「新スーパーボーナス」「au買い方セレクト」「バリュープラン」といった各社の新料金プラン導入後、端末価格の割高感が強くなったことがよく挙げられている。谷脇氏も「確かに、端末の買い替え頻度が従来に比べると落ちてきているのは事実。新たな料金プランが入ったことが、現在の端末販売の動向に与える影響はある」と述べ、それを認める。
しかし、「ただ、冷静な議論が必要だろうと考えている。端末機能の成熟化、現行の景気の状況なども含めて、料金プランの是非は、これからも冷静にレビューを続けていく必要があるのではないか」(谷脇氏)とも付け加え、現時点でこの施策に対する評価を固めるのは時期尚早と見る。
谷脇氏はほかにも、MVNOの新規参入を促進するために策定し、改正を重ねてきた「MVNO事業化ガイドライン」が一定の機能を果たし、日本通信とドコモとの間でネットワークの相互接続が行われたことや、事業者の承認を得た「公式サイト」とそれ以外のサイトとの間でユーザーの利用意向に大差がなくなってきたことを紹介。総務省としては、端末と通信サービスの分離、MVNOとMNOの関係の透明化、認証・課金といった従来事業者が独占してきたプラットフォームの開放などを通じて、「引き続き垂直統合もOK、加えて水平分業も可能な仕組み」(同)を作るべく、環境を整備すると強調した。
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