守りを固めたドコモ──KDDIの巻き返しはあるのか:2008年の通信業界を振り返る(1)(4/4 ページ)
ジャーナリストの神尾寿氏と石川温氏を迎え、2008年の通信業界を振り返る恒例の年末対談。第1回目は「新ドコモ宣言」で守りを固め、2009年以降に大きな飛躍を図るNTTドコモと、苦しみながらも巻き返しを図るauを取り上げる。
端末とサービス、販売方式に一貫性を
石川 「Walkman Phone, Xmini」もねえ……。
神尾 あれがキワモノっぽく見えちゃうところが、今のauの問題なんですよ。XminiもiPod shuffle的な端末なので、ユーザーが選びやすい環境を作っておけば、Xminiは素晴らしいコンセプトだと思うんです。でも、そうならないのは、サービスや販売プラン、ユーザビリティの一貫性が足りないんでしょうね。私は正直、あのXminiを2年割賦で買わせるのはひどいと思いますよ。QRコードすら読めませんからね。
あれを「メインの1台にしてください」といって、2年間しばるのはやっぱり問題があります。あれは少し安めの値段で、一括でしか売らないとか、そういう形にしないと。そして、スタンダードなモデルと使い分けるのを前提にする方が、ユーザーとしては納得しやすいと思います。
石川 大丈夫ですよ、“シンプル一括”で、すぐ安く買えるようになりますから(笑) まあ、SportioもXminiもそうですが、もしかすると通話機能がなくてもいいのかな、というくらいのモデルですよ。そういった2台目需要を喚起するようなものがあってもいいな、という気がしますね。
神尾 それこそ、サーバで連携して、自分のアカウントに対して複数の端末が紐付くような、つまり、iTunesに対して複数のiPodがシームレスにつながるような世界観を、auだからこそ作れよ、と言いたいです。
石川 今回の冬モデルなら、「Woooケータイ W63H」「EXILIMケータイ W63CA」「AQUOSケータイ W64SH」はPCにつないでデータ通信をしても定額で使えるじゃないですか。例えば、あの3機種でイー・モバイルやウィルコムの市場に切り込んで、片やXminiで「通話はできませんが、それで契約数を増やして低いARPUを稼ぎます」みたいなことができたとしたら、「他社にはなかなかできないよね」ということになったのに、一方は料金が高いし、もう一方は中途半端な端末だし、というのが残念だなと思いました。
神尾 auは、この状況下でドコモを上回ることは不可能なので、その中でどうやって自分たちのビジネスを拡大していくのかを考えた方がいい時期だと思います。先日の記者会見で、(取締役執行役員常務 コンシューマ事業統括本部長の)高橋誠さんが「5000万、6000万契約を狙いたい」といった発言をしていましたが、それはドコモの市場シェアを奪った上での5000万、6000万である必要はないんです。新しい使い方を提案して、実質的アカウント数として5000万、6000万契約に相当するようなユーザーを取ればいい。
携帯電話業界の中で取り合うのではなくて、新規市場の中で取ればいい、という発想もアリなわけです。ドコモのマーケットを狙うのではなくて、auが率先して新規市場を狙っていく、開拓していくというスタンスこそ、auらしいんじゃないかと思います。昔のauが持っていたチャレンジャー精神に近いものなのかな、と思うんですよね。変にドコモに対抗したり、ソフトバンクモバイルに危機感を持ったりしているから、おかしくなると思うんですよ。
石川 まあ、二番手の宿命ですね。
神尾 立ち向かっても、すぐ踏みつぶされるから最大手には絶対勝てない、かといって下からは突き上げられるで、悲しい中間管理職のようになっていますね。このままズルズルやっていると、一番苦しいでしょうね。
MediaFLOとISDB-Tmm
石川 今後、KDDIがらみでいうと、「MediaFLO」がどうなるのかな、というのは気になるところです。ソフトバンクモバイルがドコモと同じ「ISDB-Tmm」に方向転換したことで、またW-CDMAとCDMA2000のときと同じ状況になったわけですよ。それを考えると、はたしてMediaFLOにこだわって独自性を発揮していくのか、あるいはまた方向転換していくのか、今後のKDDIの姿勢を見る上で大きなポイントだと思います。
神尾 MediaFLOを使う/使わないの選択肢もありますが、MediaFLOを使ってISDB-Tmmと同じことをやったら、auは確実に負けるわけです。MediaFLOを使うのであれば、しかも大所帯でやらないのであれば、「自分たちは他社に絶対できないことをやるぞ」という気概でないと勝ち目はないかもしれません。ISDB-Tmm陣営は所帯が大きいし、どこか一社がリーダーシップを取るような一枚岩ではないから、絶対に動きは鈍くなります。auは、良くも悪くも少数派なので、だからこそできるフットワークの軽さを見せていくべき。マイノリティの戦略を徹底していった方が、むしろいい形になるんじゃないかと思います。
石川 2つの方式が採用されるならば、auは両方見られるような端末を作ってしまえば、面白いと思いますね。KDDIはISDB-Tmmを使わないとは一言も言っていないし、推進団体「ISDB-Tマルチメディアフォーラム」のメンバーでもあります。それなら両方見られるようにすればいいんです。ほかのキャリアで見られるのはもちろん見られるし、MediaFLOも使えばこんなこともできますよ、ということが展開できるとちょっと面白いかな、という気がします。
神尾 そうですね。一応、標準は押さえつつ、プラスαというスタンスをとってほしいですね。BREWアプリの仕様みたいに、独自路線に進み過ぎちゃってダメなものもいっぱいあるので。アプリは、JavaはJavaできっちり対応すればいいのに、と思いますけどね。Qualcommのチップで動かないわけではないんですから。
石川 将来的に、CDMAが使えてWiMAXが使えてLTEが使える、という端末を出してしまえば、それでいいわけですからね。
神尾 標準規格の上手な使い方を、もうちょっと学んでほしいなという気がしますね。ちなみに石川さんはいつまでauの不振が続くと思いますか?
石川 う〜ん。来年は、どのキャリアも好調とか不振とかは、ないんじゃないかと。だって、どう考えてもユーザーは動かないじゃないですか。
神尾 ユーザーは動かないし、キャリアもアグレッシブな顧客獲得のプランを打ち出しにくい年ですよね。各社とも次の投資を控えているし、一方で財務改善をしなくてはいけないし。でも、一方で、水面下では次の施策をやっていますからね。来年は準備期間なんですよ。みんなストレッチ体操をしている時期なので、表立っては動かないけれど、2010年以降に向かっての布石を水面下で打ってまわる、という感じですね。
(第2回「ソフトバンクは本当に好調なのか、イー・モバイル、ウィルコムの今後は」へ続く)
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