2009年、ドコモは「オープンOS」を支援する──NTTドコモ 辻村清行副社長:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
垂直統合型の「iモード」は、これからも進化を続ける。一方で、水平分業型の「オープンOS」の世界も並立し、発展していく。ドコモはその両方に深く関わり、支援していく──。NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏は、2009年のドコモの戦略をこう話した。
ドコモが「オープンOSを支援する」理由
── そして年が明けて2009年となるわけですが、そこで最初に注目しているのが「サービスプラットフォームの変化」です。ドコモは1999年にiモードをスタートし、今年ちょうど10周年を迎えます。
昨年末に投入した「iコンシェル」や「iウィジェット」はこれまでのiモードプラットフォーム上に導入されていますが、一方で、新時代に向けた布石でもあります。ドコモのコンテンツ/サービスプラットフォームに対するスタンスは、今後どのように変化していくのでしょうか。
辻村氏 これからの大きな変化を先にお話ししますと、今後はLTE(スーパー3G)をベースにした「クラウドコンピューティング型」のサービスにシフトしていきます。そして、もう1つ大きな変化が、オープンOSをベースにした(ソフトウェアや端末の)「PC化」が起こると考えています。
今後は、AndroidやWindows MobileなどのオープンOSの上に、多様なアプリケーションが展開されるようになります。ここに(将来的には)ウィジェットや行動支援型サービスを投入していきます。今までのiモードから「いかに広げるか」ということをきっちりとやっていかなければなりません。(まずはiモードに導入した)iウィジェットやiコンシェルは、次につながっていくものと位置づけています。
── 今のiウィジェットやiコンシェルは「既存のiモードを拡張するもの」として展開されていますが、コンセプトとしては、ドコモが考える次のコンテンツ/サービスプラットフォームの世界を見据えたものである、と。
辻村氏 そのとおりです。今、私が考えているビジョンをお話ししましょう。
まず、既存のiモードの進化は、これからも続いていきます。iモードというのは非常に完成された、垂直統合型のインフラです。その一方で、オープンOSの上で広がっていく新しい世界は、基本的に水平分業型のモデルです。私は、この2つは将来も並立していくと考えています。
なぜなら、携帯電話が置かれた制約された利用環境においては、「ケータイに適したコンテンツ」や「ケータイに適したUI」は確実に存在します。ですから、携帯電話に特化されたサービスの一群としてのiモードは、今後も存在価値があり、進化していく必要があります。
一方でオープンOSの世界は、PC的であり、インターネット的なサービスやコンテンツの価値をモバイルに広げるということで、こちらも重要性が増していきます。水平分業のオープンな世界もまた、進化していかなければなりません。
今後のキャリアビジネスにおいて重要なのは、この2つが並立し、共存していく環境を作ることです。
-:── iモードは日本の社会インフラにまで成長しており、ここではドコモが主導権を握っています。一方で、オープンOSをベースにした水平分業の世界では、キャリアは通信のレイヤーを担うことが中心となります。その上で、ドコモはさらに水平分業・オープンな新市場で、コンテンツやサービスの主導権を取る考えはあるのでしょうか。
辻村氏 (オープンOS・水平分業の)新たな世界はこれから発展する分野なので、ドコモがどこまで主導権を取れるかは分かりませんけれども、この分野においてもコンテンツ/サービスの「コア(核)」を担う1社でありたいと考えています。通信インフラという重要な「土管」の部分を担わせていただいた上で、より「スマートな土管」になりたいのです。
そのための素地は、ドコモには多くあります。例えば、認証課金システムや位置情報システムなどを我々は持っています。キャリアとして所有している知見がありますので、これをベースにしてオープンOSの時代をどのように生きていくのかを考えています。
── ドコモの持ち得るリソースを使って、オープンOSの世界も支援していく。iモードの世界と同じく、強く関わっていくということでしょうか。
辻村氏 ええ。私個人も、オープンOSの世界はこれから非常に発展すると思っています。なぜなら、オープンOSのエコシステムでは、アプリケーションやコンテンツに多くの人が関われるのです。しかし、iモードのエコシステムは、iモードのOSの上にアプリケーションを一体で作っていますから、どうしても事業者提供型になってしまいます。(iモードは)携帯電話の利用環境ではとても使いやすいのですが、参加者の広がりという点では限界もあります。
一方、オープンOSでは、多くの参加者が多くのアプリケーションを提供しますから、(これまでの携帯電話よりも)ソフトウェアやサービスの切磋琢磨が起こりやすい。今までよりもさらに多くの人が、“モバイルのアプリケーションとして何がいいのか”と試行錯誤しながら参加できます。人々の智恵が集まるわけです。そういう世界はiモードとは別軸で、すごく発展していくポテンシャルがあります。我々の(携帯電話)業界が、次の時代に発展していく1つの起爆剤になるのではないでしょうか。
── オープンOSは今、多くのプラットフォームがエコシステム競争を繰り広げています。ドコモとしては、これらにフラットな立ち位置で参加し、支援していくというスタンスですね。
辻村氏 支援し、発展を促していきます。携帯電話業界は変化を恐れず、進化していかなければなりません。また、その進化を促すことが、結果的にドコモの利益につながってくるのです。
携帯電話が低価格化/普及品化し、まず何よりもお客様がワクワクしなくなってしまったら、携帯電話業界にとってはマイナスなんです。(スマートフォンも含めた)ケータイに多くのアプリケーションが乗り、いろいろなユーザーインタフェースが実現して、新しい使い方が次々と生まれてくる。より多くのユーザーに、「ケータイって楽しい」と思っていただくことが、ドコモだけでなく、この産業全体の発展につながります。そういう意味で私は、オープンOS型の新しいビジネスモデルに興味がありますし、我が社にとっても重要なドメインだと考えています。
(続く)
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