サービス開始から5年、おサイフケータイはどこへ行く?:神尾寿の時事日想(2/2 ページ)
2009年、おサイフケータイは登場から5年目という節目の年に入った。個人ユーザーの7割以上が所有し、利用できる場所も日本中に広がった今、おサイフケータイの課題とは。また次の5年の展望についても考察する。
おサイフケータイ、次の5年の注目ポイント
「5年後には、生活インフラになる」――“おサイフケータイの父”と呼ばれた夏野氏の言葉は、あれから5年後の今、まさに現実のものになろうとしている。
おサイフケータイの普及率はインフラと呼ぶに十分なレベルに達しており、利用範囲は急速に拡大した。おサイフケータイをすでに利用している人にとっては、もはや“生活に欠かせないツール”になっている。
一方で、この5年でおサイフケータイの“解決すべき課題”が洗いだされたのも事実だ。
例えば「使いやすさ」。これは登場当初から指摘されていた課題だが、おサイフケータイは“利用時はかざすだけ”と使いやすい一方で、利用前にICアプリ導入や初期設定が必要で、そこが使いやすさを損なっていた。この5年で、リーダー/ライターからのICアプリ導入支援(参照記事)や、「ICお引っこしサービス」(参照記事)など機種変更時のサポート体制が整ったが、それでもなお、携帯メールや携帯カメラと比べると利用のハードルが高い。また、ICアプリの起動が遅い・面倒といった課題も残されたままだ。おサイフケータイの利用率をさらに拡大するには、より使いやすいサービス環境の構築が必要だろう。
NFCへの対応で“インターナショナルおサイフケータイ”は実現するか
携帯電話ビジネスの次の10年を見据えれば、おサイフケータイそのものの進化も重要になる。
詳しくは、NTTドコモ副社長である辻村清行氏の新年特別インタビューで語られているが、ドコモは今後、「グローバル市場との連携」と、オープンOSを採用したスマートフォンなど「オープンプラットフォーム」を重視する新たな戦略に舵(かじ)を切る。ソフトバンクモバイルやイー・モバイルも同様のスタンスであり、今後の携帯電話ビジネスでは、“ガラパゴス化しない先進性”が重視される。日本市場のニーズに合わせつつ、グローバル市場も視野に入れる必要が出てくるのだ。
翻っておサイフケータイを見れば、今はまだ「日本独自のサービス/インフラ」という枠の中だ。次の10年におサイフケータイが生き残るには、スマートフォンへの対応と、グローバル市場との連携性確保が最重要課題になる。
ここでの注目は「NFC(Near Field Communication)」だ(参照記事)。NFCはISOで国際標準化された近接無線通信の規格であり、今後、携帯電話をはじめ様々なデジタル機器でグローバルに採用されていく。NTTドコモとソニーはNFC Forumに参加し、モバイルFeliCaの技術仕様がNFCで標準化されるべく活動をしている。また、ソフトバンクモバイルとKDDIは独自にMasterCard PayPassをベースにしたNFCケータイの実証実験を実施している(参照記事)。
→「インターナショナルおサイフケータイ」も夢じゃない――ソニー
→NFCケータイはFeliCaを揺るがすか 「スマートポスター」の実験が日本で始動
NFC時代のおサイフケータイがどうなるかは、まさにいま実現に向けた取り組みが行われている段階であるが、日本・アジアで普及している「モバイルFeliCa」と欧米市場で普及している「MIFARE(マイフェア)」の両方が共存し、既存のインフラも利用できる形での移行が実現すれば、そのポテンシャルはとても大きい。日本のモバイル産業にとって、次の10年は海外進出が重要なテーマになっているが、“FeliCaを用いたケータイ連携サービス”での実績は、日本勢の競争優位性の1つになる可能性もあるだろう。
FeliCaはアジア中心に広がった日本発の規格なので、全世界に端末を発売するメーカーの携帯には載りにくいという事情がある。写真はノキアの「Nokia 6212 classic」(左)。ソニー製のFeliCaリーダー/ライター「PaSoRi」は、最新バージョンでNFCに対応した(右)
2004年のサービス開始から5年。日本の携帯電話市場のインフラにまで成長したおサイフケータイは、サービス利用率をさらに高められるか。そして、次なるNFC時代に世界に羽ばたけるのか。
2009年はおサイフケータイにとって、節目の年になりそうだ。
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