ブライトスター買収で見えてくる孫社長の世界戦略――カギは「エンドユーザー向けファイナンス」か:石川温のスマホ業界新聞
スマートフォン向けゲーム開発のフィンランドSupercellと米モバイル端末卸売大手のBrightstarの買収を立て続けに発表したソフトバンク。孫社長の狙いは何なのか。
今週、ソフトバンクによる大型買収が2件、明らかになった。
10月15日、ソフトバンクとガンホー・オンライン・エンターテイメントがフィンランドに拠点を置くモバイル端末向けゲーム事業を展開するスーパーセルを15.3億ドル(約1515億円)で取得すると発表。
さらに19日には携帯端末の卸売り事業を展開するアメリカのブライトスターを12.6億ドル(約1247億円)で子会社化すると発表した。
スプリント買収後、急速に世界展開を進める孫正義社長だが、ゲームコンテンツという上位レイヤーと、端末流通という足回りを抑えることで、着実にグローバルキャリアとしての地位を築こうとしているように見える。
スーパーセルはゲームアプリ「Clash of Clans」及び「Hay Day」を提供し、「AppStore」トップセールスランキングでそれぞれ137カ国と96カ国で1位を獲得。2013年2月から8月の7カ月間、AppStoreのゲームカテゴリーにおいて、売上げで1位となるなどの実績を持つ。
孫社長がすごいのは、過去の失敗をモノともせず、果敢に攻めているという点だ。ゲームに関しては、2010年に当時、飛ぶ鳥を落とす勢いであったジンガと合弁会社を設立し、日本におけるソーシャルゲーム事業を展開しようと「ジンガジャパン」を設立するも、見事に大コケしている。世界で流行っているものを日本で展開しようと出資したが、今回は日本ではなく、グローバルでの展開。「ゲームは水物」といわれ、最近、日本でのGREEの凋落っぷりはすさまじいものがあるが、孫社長ならきっとスーパーセルを手にして、今度こそは世界を席巻するようになるのだろう。
ガンホーもスーパーセルもいまのところは「一発屋」にしか見えないが、同じく一発屋の「スギちゃん」を記者会見イベントに頻繁に起用する孫社長、本当に一発屋が好きなんだと思う。
個人的に注目しておきたいのがブライトスターのほうだ。
ソフトバンクのリリースによれば、ブライトスターは、移動通信分野に特化した世界最大の卸売会社で、メーカーやキャリア、小売業者など、移動通信分野に多彩なサービスを提供。端末やアクセサリー類の卸売り、端末の物流、在庫管理、端末の保険、買い戻し、下取り、マルチチャンネル販売及びエンドユーザー向けのファイナンスなどに及ぶ。50カ国市場に拠点を構え、125カ国以上でサービスを提供しているという。
当然のことながら、ソフトバンク、スプリント、ブライトスターを組み合わせることで、巨大な調達力を手にすることになる。端末やアクセサリーなどをまとめて調達できれば、それだけコスト効果も見込めることは間違いない。
特にiPhoneのアクセサリーは、世界中で流通できるため、グローバルの規模で調達できるメリットは計り知れないだろう。
しかし、ソフトバンクのリリースを読んでいて気になったのが、ブライトスターが手がける「エンドユーザー向けファイナンス」という言葉だ。リリースにはその1行しか書かれていないため、具体的な内容は判断できないが、仮にソフトバンクが日本で手がける「割賦販売」の仕組みを世界中で展開できるようになると、それはそれで恐ろしい状況になりそうだ。
ソフトバンクは、日本では割賦で販売した債権を証券化して現金化しているのは有名な話だ。このスキームをブライトスターにも持ち込み、世界中で展開できるようになれば、グローバルな規模で資金調達が可能となる。わざわざ世界のキャリアを買収しなくても、販売網さえ抑えてしまえば、ソフトバンクが得意とする資金調達スキームをグローバルで展開できる。日本と世界では端末の買い方が違うため、すぐに割賦販売を世界中に展開できるとは限らない。しかし、ブライトスターを手中にしたということは、ひょっとすると、スプリントを買収する以上に、孫社長とソフトバンクによる「シナジー効果」が期待できるのかも知れない。
ブライトスターのチャネルで、世界中で端末を割賦販売で売り、債権を証券化。その資金を元に新たな買収を続けていく。あくまで憶測の話だが、孫社長なら充分にあり得るスキームと言えるだろう。
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