通信業界を揺るがす「サブブランド問題」の論点:MVNOの深イイ話(1/3 ページ)
総務省の有識者会議では、サブブランドが主な検討項目だと報じられています。サブブランドとは一体何で、MVNOとの関わり合いは今後どうなっていくのでしょうか。
2017年末から、総務省が新たな有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を立ち上げました。この検討会では、「大手携帯電話事業者とMVNOとの間の同等性の確保」「MVNO間の同等性の確保」が検討事項として上がっていますが、メディアではサブブランドが主な検討項目だとも報じられているようです。それでは、サブブランドとは一体何で、MVNOとの関わり合いは今後どうなっていくのでしょうか。
サブブランドとは
企業が製品やサービスを市場に出すとき、ブランドは必要不可欠なものです。消費者は、そのブランドによって製品やサービスを認知し、購入して消費していくことになります。1つの企業が多くのブランドを持つことは珍しいことではありません。例えばファッション業界や飲食店業界、ホテル業界など、消費者の嗜好(しこう)が年齢や性別やその他の理由により多様な業界では、各消費者グループに合わせたさまざまなブランドにより、製品やサービスが訴求されています。
このように1つの企業が複数のブランドを持つ場合をもう少し詳しく見ていくと、企業が製品やサービスのグループごとにブランドを分けるケースは非常に多く、例えば「霧ヶ峰」と聞けば三菱電機のエアコンだなと多くの消費者が認知しますが、この場合は「霧ヶ峰」が親ブランドである「三菱電機」のサブブランドと呼ばれます。この「霧ヶ峰」は消費者へ製品をアピールするためのサブブランドであり、親ブランドと組み合わせて使われます。
サブブランドを親ブランドからあえて切り離してマーケティングすることで、同じカテゴリーの製品やサービスが、それぞれ全く異なるセグメントをターゲットにしているものであると消費者に強くアピールすることもあります。例えばトヨタ(親ブランド)とその高級車サブブランドである「レクサス」のケースがそうです。このように、企業が多様なブランドを活用することで、より広範な消費者へ認知してもらうサブブランド戦略は、多くの企業によって行われています。
通信業界でも、サブブランド戦略は決して珍しいものではありません。筆者の所属するIIJでは、法人向けサービスでは企業名をそのまま使ったIIJをブランドとしていますが、個人向けサービスでは「IIJmio」という(似てはいますが)異なるブランドを活用しています。NTTドコモは高齢層向けの携帯電話に対し「らくらくホン」というサブブランドを付けることで認知を非常に高めました。ただ、今回問題になっている「サブブランド」は多少これらとは異なります。
通信業界を揺るがす「サブブランド問題」
今、通信業界で問題となっているサブブランドとは、ずばり「Y!mobile」と「UQ mobile」の2つです。この2つは同じカテゴリーとしてひとくくりで話されることも多いのですが、Y!mobileとUQ mobileは内情が全く異なります。Y!mobileは、MNO(移動通信事業者)であるソフトバンクが自ら提供しているサービスですが、UQ mobileはMNOであるKDDIが提供するサービスではなく、KDDIの連結子会社であるUQコミュニケーションズが提供するサービスです。このKDDIとUQコミュニケーションズの契約関係は、卸電気通信役務契約によるMNOとMVNOの関係です。
これら2つのサブブランドの何が問題視されているのでしょうか? 2つのサブブランドは、いずれも格安スマホとして、テレビCMや交通広告、店舗などで非常に多くの露出が行われており、消費者からの認知が急速に進んでいるように思われます。また、ITmedia等のメディアにおいても、その通信速度は他のMVNOとは一線を画すことが多く記事となっています。
このため、格安スマホを提供してきた他のMVNOからは、そのように高額なプロモーション費用や設備投資がおよそ実現不可能な水準であるとして、サブブランドと他のMVNOで公平な競争条件が成立していないのでは、という疑念が先日開催された総務省の検討会で示されました。
なお、UQ mobileがKDDIのサブブランドに当たるかは議論の余地があります。総務省の資料では、Y!mobileとUQ mobileについて、前者は「サブブランド」と表していますが後者は「MNOのグループ会社であるMVNO」と書き方を分けています。この記事では、ビジネスモデルの違いに言及する場合を除き、UQ mobileについても「サブブランド」としてY!mobileと同列に扱います。
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