モバイル市場の「あるべき姿」とは? 総務大臣政務官 小林氏と野村総研 北氏に聞く(1/3 ページ)
総務省で開催された「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を踏まえ、4月に報告書が公開された。この検討会の真の狙いはどこにあり、モバイル市場の「あるべき姿」とは? 総務大臣政務官の小林史明氏と、野村総合研究所の北俊一氏に聞いた。
2017年12月から4月に渡り、総務省で開催された「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を踏まえ、4月に報告書が公開された。この報告書を踏まえ、キャリア各社やMVNOに対する要請が出される。テーマによっては省令やガイドラインが改定されたり、新規でガイドラインを策定したりと、より厳格な枠組みが設けられることもある。【訂正あり】
当初はMVNOの“不満”の声が大きかったことから、「サブブランドつぶし」との観測も飛び交ったが、ふたを開けてみると、大きな規制につながるような結論は少なかった印象もある。例えば、サブブランドが接続料で優遇されているのではというMVNO側の疑念に対しては、検討会で同条件であることが明らかになった。結果として、報告書では、直接的な規制を設けるのではなく、「MNOグループ内の『ミルク補給』を検証」と述べるにとどまっている。
一方で、ドコモ、au、ソフトバンクに対しては、2年契約に対する注文が多くついた。契約満了時に25カ月目の料金と解約料の両方を支払わなくて済むように料金制度改定を促したり、更新の有無による格差を縮小するように求めたりと、2年契約そのものをなくすのではなく、より緩和するような是正を求めている。また、端末の値引き販売に関しては、MNOからの事実上の指示を業務改善命令の対象にするなど、“抜け穴”をふさぐガイドラインが制定される。中古端末の流通促進も3本柱の1つになった。
サブブランドつぶしという言葉が先行していたが、結論を見ると、特定の数社に直接的な規制を加えるのではなく、あくまで競争条件として差になっているところを埋めていこうとしているようにも見える。しかも、接続料算定の公平性といった大きな枠組みから、MNPのWeb手続き、MNOの迷惑メール対策といった細かな制度に至るまで、内容は網羅的だ。検討会を傍聴していた筆者も、行政機関や有識者が集まって話し合うテーマにしては、“細かすぎる”のではと思ったほどである。
では、この検討会の真の狙いはどこにあり、モバイル市場の「あるべき姿」をどう考えているのか。検討会の開催を提起した総務大臣政務官の小林史明氏と、検討会での議論を有識者としてリードした野村総合研究所のコンサルティング事業本部パートナー 北俊一氏へのインタビューから、その答えを探っていきたい。
サブブランドつぶしの意図は全くない
―― まず、検討会の狙いや趣旨をどう捉えているのかをお聞かせください。
小林氏 私はもともと通信会社に勤めていて、法人営業をやりながら、代理店とも関わってきました。モバイル業界は元いた分野ですから、意見交換する機会も多くありました。2017年8月からは政府に入りましたが、(政務官に)なる前から、MNOとMVNO、MVNO同士それぞれに不満がたまっている状況があり、一度、全てをテーブルの上に出して整理した方がいいのではないかと思っていました。その場を作り、あとは有識者に議論してもらうというのが私の役割です。
どの政策分野でもそうですが、基本的にフェアな状態を作ることが大切です。「MNO対MVNO」と捉えられがちですが、全ての関係性の中で公平であることが重要です。検討会では事実ベースでご報告いただき、それぞれに方向性を出すことができたと考えています。
北氏 総務省の有識者として初めて参画したのは2005年ぐらいで、菅総務大臣のころです。「ICT国際競争力会議」があり、その後「モバイルビジネス研究会」が開催されましたが、今回の検討会も、この流れの中の1つだと捉えています。(モバイル業界は)消費者からの相談、苦情が多い業界でもあります。これをどう減らしていくか。いろいろな要素があり、1つ1つを解いていかなければなりません。公正競争の確保も、その大きな流れの中にあると考えています。
―― 報道では、サブブランドつぶしといわれていたこともありましたが、報告書を見ると、必ずしもそうではないような印象を受けました。
小林氏 そうですね。そういう意図はまったくありません。「MVNO対サブブランド」も、関係性の中の1つです。確かにMVNOに来ていただき、しゃべっていただくと、そこ(サブブランドへの不満)は出てきますが、それ以外の小さいながら重要なテーマもあります。例えば迷惑メールの話もそうですが、これは大きなMVNOだけでなく、小さなMVNOからもアンケートを取って出しました。実は、これは私がお願いしてやったものです。
―― 逆に、UQ mobileだけが接続料を優遇されているのではという疑惑も晴れました。
小林氏 それぞれのプレーヤーが同等条件でやりたいと思っていて、それをきちっと見ていくことに変わりはありません。ヒアリングをやったときには、(UQ mobileは)MVNO側に自分たちがMNOから借りているのと同じ金額で、よりスピードが出ているのではないかという疑念がありましたが、サブブランドも同じ条件でお金を出していることが分かりました。一方で、(親会社の)体力の問題でより多くの資金を投じられるという「ミルク補給」も明確になっています。ここはある種透明化していくことで、構造的な問題が解決してすっきりしたと思っています。
―― ただ、親会社が子会社に資金提供するミルク補給は、ビジネスでは一般的で、他のMVNOも親会社は十分規模がある印象も受けます。ここに歯止めをかけるのは難しいのではないでしょうか。
北氏 今回はそこまで踏み込むことはできず、まさに新しく検討会を立ち上げて検討される部分になります。どんなビジネスでも、新規事業は既存事業の利益を充当して、何年後かに黒字になるように設計されています。ただ、その話と同等性や、フェアな競争環境をどう作るかは別な話です。残念ながら、後者に関してはルールがまったくない状況で試合が行われています。MNOは電波を割り当てられる必要があり、限られたプレーヤーしか参入できません。ですから、ここはできるだけフェアにしていく必要があります。
―― 先ほど小林政務官がおっしゃっていたように、細かな話も多かったことを覚えています。ここまで細かな話を、検討会でする必要があったのでしょうか。
小林氏 小さなものから大きなものまで、です。ヤンマーのCMみたいですが(笑)。(報告書の中にも)事業者がやる気になればできるものはたくさんありましたが、あの場に出てこないと(誰にも)言われませんでした。キャリアの方からご自身で「端末値引きをやめたい」とお話をしていたのが印象に残っていますが、ああいう場で言っていただかないと、先に進まないこともあります。
細かいことまで一掃したのは、何とも言えないアンフェアな状況で、お互いに文句を言い合っているモバイル業界の競争環境から、新しい料金体系や事業者連携などを工夫して競争するステージに上ってほしかったからです。
北氏 一見、MVNOを守るように見えたかもしれない検討会でしたが、実は逆だと思っていて、MVNOにとっては言い訳ができなくなります。小さなものから大きなものまで苦情があったので、そこをクリアすれば、あとは創意工夫で経営努力になります。それで負けたら、潔く撤退するという状況を作ることにもなりますからね。
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