送金を身近に リアルカードで決済シーンも拡大 「Kyash」の戦略を聞く:モバイル決済の裏側を聞く(3/3 ページ)
個人間送金と決済の両方ができる「Kyash(キャッシュ)」をご存じだろうか。同サービスでは、送金にまつわるハードルを下げ、よりお金の移動を“滑らか”にすることでキャッシュレス化を支援する。同社の鷹取真一社長に、Kyashが目指す世界を聞いた。
キャッシュアウトの仕組みにも取り組む
他にKyashのビジネスモデルで面白いと思うのが「前払式支払手段業者」登録という部分だ。いわゆる「プリペイド」型のサービスで、利用者が口座に“チャージ”し、これを買い物や各種サービスに利用する。iTunesなどのオンラインサービスなどを想像してもらえればいいだろう。必要最低限のユーザー情報提供でサービスが利用開始できるのも、この部分に由来する。
Kyashでは当初の送金サービスに加え、Visaとの連携によりオンラインとリアルの両方での店舗決済できるという「出口」が用意されている。ただし、チャージした金額を“現金”として引き出すという「キャッシュアウト」の仕組みには対応しておらず、この点のみが一方通行となっている。
一方で、LINE Payなどが行っているのが「資金移動業者」としての登録だ。形態としては銀行サービスに近く、本人確認が必要ではあるものの、有償で銀行口座などへの払い出し、つまりキャッシュアウトの仕組みが利用できる。もっとも、この本人確認の部分がネックでLINE Pay利用のハードルを上げてしまっているわけで、痛しかゆしの関係ではある。
キャッシュレスが進んでいるといわれる北欧や中国では、各種モバイル送金・決済サービス利用開始にあたって現地発行のIDや銀行口座登録が必須な他、最近送金サービスが開始されたApple PayやGoogle Payでも本人確認の仕組みが簡易的ではあれ実装されており、避けて通れないのかもしれない。とはいえ、鷹取氏も現状の仕組みで満足しているわけではないようで、「スケールアウトするうえでの優先順位の問題」ということで、まずは入り口のハードルを下げることに注力し、後々キャッシュアウトの仕組みにも取り込んでいく方針だという。
10代に響いた「初めてのVisaカード」
間口を広くすると同時に、日本ではまだあまりなじみのない「モバイルで送金」というサービスの認知も重要になる。
「『送金』は身近なものであるにもかかわらず、みんなは『送金』という言葉で送金を行っていないのです。割り勘やイベントでの集金など、なじみのある行為で『送金』と呼ぶ人はいません。決済では『ショッピング』とかいろいろ表現があり、プロモーションのためにさんざん考えましたが、送金でそのような言葉は思いつきませんでした。行動変容や習慣を変えていくものであり、そして思ったときに思った分だけ動かせる汎用(はんよう)性や自由度があることで使ってもらえるわけで、それを知ってもらい、広げていきたいと思います。もちろん、使い方をこちらから提案することも行いますが、逆に想定の先にある使い方で、われわれがユーザーに教えてもらうようなこともあります」(鷹取氏)
過去に行ったキャンペーンの例では、「スマートランチ」の名称で、オフィスの同僚同士が食事に行ってまとめて会計を行い、それを後で割り勘する使い方を提案していた。混雑時の個別会計は時間がかかる上、店舗にお断りの札が出ていることもあり、Kyashの仕組みを有効活用しましょうというわけだ。一連のキャンペーンを経て統計をとったところ、20代や30代での利用が多いことが分かったという。当初は10代が少なかったものの、後にコンビニや銀行チャージに対応したことでこうしたユーザー層も増えてきた実感があるという。
10代に響くキャンペーンとして、「初めてのVisaカード」という形でのアプローチが有効だったようだ。これは、20代以上では既にクレジットカードなどを保有している確率が高く、Kyashはバーチャルカードとリアルカードともに2枚目以降となりやすい。一方で10代はカードを保有しておらず、Kyashをきっかけにカードを買い物に積極活用するようになるようだ。リアルカード発行前は、コンビニチャージしたKyash Visaカードを使ってオンラインでiTunesカードを購入し、コンテンツやアプリ購入に充てるといった使われ方がみられたという。
後で請求額が判明する携帯電話のポストペイド型のキャリア課金に比べ、プリペイド方式のKyash Visaカードの方が利用金額を把握しやすいという理由があるからだ。2%還元などの仕組みもあり、一度Kyashを使い始めると定着率は高いとのことで、このように青田買いではないが、カードを使い始めのユーザーを取り込んでしまうという戦略は非常に有効なようだ。
10代のような若年層を捕まえるメリットはもう1つある。コミュニティーが固定化されやすい社会人層に比べ、学生などが含まれる10代や20代前半の層では、プライベートからゼミ、サークル、趣味の世界まで所属するコミュニティーが多い傾向がある。そのため、Kyashを宣伝する意味でのバイラル効果が高く、よりサービス利用が伝搬しやすいという。数値的な目標は特に示していないものの、「送金」という仕組みで経済圏をまわしていくうえで、最低限100万のような単位は必要ではないかと鷹取氏は述べており、20万ダウンロードの先を目指している。
海外展開も視野に
今後の話題だが、間もなく正式スタートするGoogle Payとの連携でQUICPayが利用可能になると、利便性が大きく向上する。Visa payWaveのようにEMV Contacless(もしくはNFC Pay)の仕組みへの対応を鷹取氏に聞いたところ、「現状ではまだ使える場所が少ない」との理由で検討課題ではあるものの、当面は非接触決済についてQUIC Payとの連携を先行させたようだ。
最近増えているQRコード決済についても「規格統一が望ましい」という意見こそ持っているが、Kyashとして決済サービスの提供や加盟店開拓に乗り出す意図はなく、あくまでVisaのネットワークを活用する方針だという。ただ、今後もしQRコード決済の利用が広がり、十分に加盟店開拓が進んだ事業者が出てくるようであれば、そこで連携する選択肢というのも当然出てくると同氏は述べている。
この他、「海外展開は早晩やっていきたい」と鷹取氏は付け加える。とはいっても、例えばタイで突然「Kyash始めました」というのではなく、日本からの海外送金など、クロスボーダー送金のような仕組みを目指しているようだ。日本人が海外に行った際、Kyashを経由して現地で現金の引き出しを行える仕組みなども考えているという。当面はアジア方面で、こうしたクロスボーダー送金も「日本への出稼ぎ労働者の本国送金」のような、現時点で需要の多いサービス領域を狙う。
後は給与振り込み先にKyashを利用してもらうことで都度チャージの必要がなくなり、より銀行口座の仕組みに近づいていくアイデアもあるようだ。いずれにせよ、Kyashを起点に入り口と出口のサービスを次々と拡充させ、「より小回りの利く銀行」を目指していくようになるのかもしれない。
最後に鷹取氏に「なぜ社名が『Cash』ではなく『Kyash』なのか?」と質問したところ、「どの国の言葉でも『キャッシュ』と発音してもらえるように工夫した」との返答だった。既にこの時点で世界展開が視野に入っていたのかもしれない。
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