なぜオンラインだけでなくリアル店舗も? 「Amazon Pay」コード決済導入の狙い:モバイル決済の裏側を聞く(3/3 ページ)
アマゾンジャパンが「Amazon Pay」でリアル店舗決済に参入した。もはやオンラインコマースの世界では同社抜きでは語れないというほど存在感を増したAmazonだが、なぜリアル店舗まで決済を広げたのか。Amazon Pay事業本部 本部長の井野川拓也氏に話をうかがった。
リアル店舗決済は現状日本だけ 他国は?
ところで、多くの方は意外に思うかもしれないが、このリアル店舗版Amazon Pay、実は現在は日本だけで提供されるサービスとなっている。この理由について井野川氏は「たまたま」だと話す。
米国ではAmazon Booksやモールにあるポップアップ店舗といったAmazon運営店舗、そしてCalvin Kleinのようなアパレル事業者と組んで設置したポップアップ店舗など特殊な業態に限られている。しかも決済はQRコード方式ではないため、その意味でも日本の事例は特殊なのだろう。
Amazonでは完全なグローバル運営ではなく、各国の事情に応じた展開が行われている。米国では臨時店舗が中心だが、普通の小売店のような永続的に営業しているタイプの店舗でのAmazon決済サービス導入は日本初だという。井野川氏によれば、クレジットカードやデビットカードが普及している欧米に比べれば日本ではまだ現金の利用比率が非常に高く、小銭やお金の管理といった現金を取り扱う負担が店舗側にある。
こうしたなか、店舗側の要望もあり、決済手段を増やす方向を模索していたところ、今回のリアル店舗版Amazon Payを含むNIPPON PAYとの提携の話が持ち上がったようだ。決済手段が限られるということは、すなわち潜在顧客の取りこぼしにもつながり、先ほどの博多廊のコメントにもあった「インバウンド需要の取り逃し」という不安もある。Amazonとして、こうした問題に対する回答がAmazon Payというわけだ。
もっとも、今後提供の仕組みの変化や展開地域拡大の可能性については井野川氏も否定していない。中小小売店向けのサービス展開ではNIPPON PAYに一任するという方針に変わりないが、今後大手チェーン等のPOSレジ市場を開拓するにあたっては、QRコードだけでなくバーコード表示にも対応し、POSレジに接続された赤外線スキャナーで読み取れる仕組みを提供するなど、先行他社に追随する形で加盟店開拓に乗り出すことも検討しているという。
POSタブレットへの対応や欧米での展開についても、話が進んでいるという。ただ米国での事例が顕著だが、ここではAlipayやWeChat Payのような中国系決済サービスの加盟店開拓がほとんど行われておらず、QRコード決済普及の空白地帯になっている。恐らく、今後も急激に増える可能性は低いとみられ、各社ともにどのように市場開拓に乗り出すのか思案している段階だ。
米国と他国の温度差について、井野川氏は「Alexaに対する関心の高さ」がその差になって表れていると分析する。スマートスピーカー元祖といわれるAmazon Echoの初代モデルが米国市場に投入されたのは2014年11月初旬のホリデーシーズン商戦だ。それが瞬く間に話題を呼び、現状の「まわりを見ると音声アシスタント付きスピーカーだらけ」という状況に至っている。
Echo販売で先んじた米国では普及台数も多く、それこそ家に何台ものEchoが存在するという状況で、日本でも発表されたEcho Showのような大型ディスプレイ付きスピーカーも先行販売されている。ゆえに米国民ならびに米Amazon自体も「Voice Commerce」と呼ばれる音声を使ったコマース事業に非常に関心を持っており、音声で買い物が可能なさまざまな「スキル」の提供が行われている状態だ。
もっとも、Voice Commerceは従来までPCやモバイル端末を使っていた買い物が音声に置き換わったものであり、ユーザー体験の拡張にすぎない。リアル店舗という側面では、米国ではオーガニックスーパーのWhole Foods Market買収の他、Amazon Goのようなレジなし店舗といった業態が存在しており、日本とはまた市場構成が異なっている。いずれにせよ、QRコードを使ったリアル店舗版Amazon Payというのは、日本の決済事情を反映したローカル事業といえる。
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