海外のキャッシュレス事例にみる、日本の決済に必要なもの:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/3 ページ)
2019年以降、日本のキャッシュレス市場はどう変わるのか。またどうあるべきなのか。海外のキャッシュレス導入事例を挙げつつ、日本にキャッシュレスに必要なもののヒントを探りたい。海外では、日本では見られない、ユーザー視点のユニークな取り組みが多い。
外国人を門前払いにしてはいけない
中国でのモバイル決済は外国人には優しくない。そもそも外国人はAlipayやWeChat Payアカウントを持ちにくい。交通系ICカードにチャージするには現地銀行口座をひも付けられるが、外国人は比較的大きな駅の有人窓口に並び、現金を渡してチャージしてもらわないといけない。という具合に、現地の電話番号や銀行口座を持たない外国人は、キャッシュレスでは門前払いになってしまう。
一方で、最近はAlipayやWeChat Payの中国外進出が目立ち始めているが、これらサービスが目指すのは「中国人のための加盟店の獲得」だ。MastercardやVisaといった比較的世界中で通用する国際ブランドのカードを持たない中国人にとって、銀聯カード対応店舗と現地通貨のキャッシュが頼りだ。だがAlipayやWeChat Payが普段持ち歩いているスマートフォンでそのまま使えればより便利になる。
Silkpay創業者兼CEOのAnnie Guo氏によれば、中国人は外国に行くと銀聯やモバイル決済サービスのアクセプタンスマークを探して安堵(あんど)し、実際にサービスのアイコンを見かけることで「我が国のサービスが広く受け入れられている」と誇りと自尊心が満たされているとも指摘する。もちろん、AlipayやWeChat Payが自ら外国でユーザーを獲得するという希望もあるだろう。だが金融は常に規制と各国政府の思惑に縛られた世界であり、実際に日本でAlipayの国内進出が断念させられたように、加盟店開拓よりもさらにハードルは高い。
なぜ中国でモバイル決済が人気なのか。特に理由の2番目にある「Patriotism(愛国心)」「Proud(誇り)」に注目。中国外でAlipay、WeChat Pay、銀聯といったアクセプタンスマークを見かけると、安心と同時に自尊心が満たされる傾向があるという
もし日本がインバウンドを合言葉にキャッシュレスを進めるのなら、アカウント登録を要求する“閉じた”サービスは向かない。中国や周辺国のインバウンド需要をカバーするのなら、AlipayやWeChat Payとの提携を発表しているPayPayやLINE Payが選択肢になるだろう。それよりも広くカバーするならカード決済が現実的だ。
北欧では、「クレジット/デビットカード」「店舗独自のアプリ決済」、Swishなどの「送金・決済サービス」「現金」の主に4つの支払い手段が存在し、多い店では全てを受け入れ、小規模な店舗でも少なくとも2つの方式には対応する。外国人はカードか現金しか選べないが、ほとんどの店でカードが使えるので問題はない。
しかもフィンランドを除く北欧3カ国では、それぞれスウェーデンクローネ、デンマーククローネ、ノルウェークローネと国独自の通貨を持っており、外国人が短期滞在のために現地通貨を入手するのは煩わしい。数百円程度の少額決済でも、カードで全て済ませられるならそれに越したことはない。
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