IIJはなぜ音声特化の「ケータイプラン」を提供するのか? 「eSIM」とのつながりも:MVNOに聞く(3/3 ページ)
IIJmioが、音声通話とSMSに特化した「ケータイプラン」を2月1日に開始した。データ通信が主流のMVNOで、なぜあえて音声通話向けのSIMを提供したのか? そこには、サービスインを控えるeSIMとの、隠れたつながりもあるという。
eSIMの配布方法は?
―― eSIMはQRコードを店頭で渡したり、ネットで配信したりとさまざまな配布方法があると思いますが、どういう方法をお考えでしょうか。
佐々木氏 最初のローンチは恐らくWebになると思います。まだ端末が限定されているので、一般の方がお店で買ってしまって、後になって「使えない」と言われてしまうのは嫌なので、最初はWeb限定で、検索などで来られた方が適切にご契約いただけるようにすることを考えています。その上で、端末の広がり具合やエンドユーザーのニーズを見ながら、スマートフォンの売り方も含めて開発していかなければならないと考えています。
eSIMはキャリアにとってゲームチェンジャーで、われわれとしてはその本質をきちんと理解することが大切です。プラスチックSIMの置き換えはあくまで最初の段階で、そこからどんな売り方や利便性があるのかは、手探りになります。
矢吹氏 大きい言い方になりますが、eSIMはよく知っている人にすると合理的で便利なものです。その合理性や利便性を普及させるのが最初の段階になります。まずはそこをしっかり作り、それがきっかけとなってベンダーさんやデバイスメーカーさんが追従してきてくれれば、eSIM化は加速していきます。MVNOの使命の1つは値段を下げることですが、もう1つは新しいものを作ることで、そこにはトライしていきたいですね。
―― IIJはMVNEとしての事業規模も大きいと思いますが、他のMVNOにeSIMを提供する可能性はあるのでしょうか。
矢吹氏 将来的に考えるテーマだとは思っていますが、なにぶん、今はマーケットが見えません。まずはわれわれのローンチが先で、そこからですね。ビジネスモデルも少し変わってくるので、提供方法は慎重に考えています。
―― 貸してほしいという声は多いのではないでしょうか。
矢吹氏 取りあえず貸してほしいという声は多いですが、まずはうちがやってからと言っています(笑)。うまくいくのか分からないので、やってみて考えてからですね。MVNEとしてやること自体はそんなに難しくはないと思います。
eSIMは月額プランを提供したい
―― 現状、「Japan Travel SIM」として訪日外国人観光客向けに提供しているサービスをeSIM化して、日本に来る前に契約してもらうということはお考えですか。
矢吹氏 議題には上がっていますが、ちょっと優先順位は低いですね。海外で直接販売する事業者に販売した方が物流も簡単で、コストもかかりません。
佐々木氏 中国ではeSIMに規制があり、プロビジョニングサーバを中国に置かなければならないため、iPhoneも中国版はeSIMに非対応です。ただ、訪日外国人の中国人比率は高いのが難しいところです。
Japan Travel SIMも出したときは日本の方に多く買っていただけました(笑)が、われわれとしてはできれば月額契約で使っていただきたい。それもあって、eSIMに関しては、マンスリープランで出していきたいと考えています。
矢吹氏 仮に来日中の短い間に使えないと、そこで評判が悪くなってしまいかねません。ですから、提供するとしてももっと安定してからですね。
―― 先ほどiPhoneやAndroidスマートフォンのお話はありましたが、PCやタブレットはいかがでしょうか?
矢吹氏 Surfaceもそうですし、PCやタブレットはしっかりやっていきたいと思います。eSIMとはちょっと違いますが、チップ型のSIMカードにエアで書き込むことはどんどんやり始めています。
―― 法人向けだと、どんな利用シーンが考えられそうでしょうか。
佐々木氏 書き換え可能で、キャリアロックインを回避できるのがeSIMのメリットです。自動車メーカーさんがよく言われているのが、同じモジュールを積んで、仕向け地に合わせて中身を書き換えるというようなユースケースです。ただ、M2M向けは一部にキャリアの設備が入ってきて、切り替えるのが大変です。
コンシューマー向けはLPA(Local Profile Download)と呼ばれるロジックで端末側がキャリアを選択するだけでいいのですが。数百円で作らなければいけないものでそれができるのか、そもそも安く作るものにキャリアロックインの回避が必要なのかというところは手探りですね。
取材を終えて:eSIMは音声特化SIMとの相性がいい
ケータイプランは月額920円と維持費が安価で、縛りも大手キャリアより緩いため、海外赴任するビジネスマン向けという利用シーンはありうる話だと思っていたが、eSIMと組み合わせて使うことも想定していたところには意外感があった。確かに、データ通信のみで、しかも手軽に契約できるeSIMは、音声通話に特化したSIMカードとの相性がいい。eSIMが正式にサービスインした際には、その両方を組み合わせたプランやキャンペーンが出てきても面白いのではないかと感じた。
矢吹氏と佐々木氏が語っていたように、eSIMはケータイの契約の在り方を変える可能性を秘めている。佐々木氏の言葉を借りるなら、それは「ゲームチェンジャー」だ。実際、筆者もiPhoneで海外キャリアのeSIMを契約してみたが、非常に簡単で、現地のショップに行く手間や時間もかからない。そこに対してIIJが今のうちから布石を打っておくのは、大手キャリアと差別化を図る意味でも正しい戦略なのではないか。夏ごろのサービスインを期待したい。
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