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「分離プラン」でスマホは安く買えなくなる? 元ケータイショップ店員の視点

分離プラン導入で、スマホは安く買えなくなってしまうのでしょうか。元店員の視点から販売施策を考察してみます。

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 1年を通じて最も携帯電話が安く買える、台数も売れるといわれている春商戦ですが、2019年は特に現場に熱気があふれている様子。

 現場に立つ、かつての同僚に話を聞くと「『分離プラン』報道からの駆け込み需要がすごい」といいます。

 分離プランは、端末代金と通信料金を分離しようという総務省主導の案で、3月5日には法案として国会に提出もされました。

 特定の料金プランに加入で端末代金を大幅割引──こんなキャンペーンが今後できなくなるのではないかという報道や不安心理が、3月の商戦にも反映されているようです。

 分離プラン導入で、スマホは安く買えなくなってしまうのでしょうか。元店員の視点から販売施策を考察してみます。

「一括1円」はもう終わり?


売場店頭に掲示された「一括1円」のポップ

 分離プラン導入により終了する可能性があるのが、いわゆる「一括1円」です。

 これは他社からMNPでの転入時に指定プランに加入することで、機種代金の大幅な割引を受けられたり、場合によってはさらに通信料金からも毎月の割引が受けられたりするものです。

 新しい機種を安価に購入できるため、以前から人気のあるキャンペーンです。以前は「一括0円」のようにもうたっていましたが、総務省の規制などの影響で今ではこのように「1円」と表記する場合も多いようです。本質はあまり変わらないように思いますが。

 一方でこうしたキャンペーンは、端末と料金プランをひも付け、指定プラン外へのプラン変更に高額な解除料を設けたり、割引期間や解除料のかからない期間が分かりづらかったりすることが、分離プラン導入以前の問題とされていました。

 また、割引は「買い替え」を前提としているため、買い替えないユーザーはこの恩恵を受けられません。

 買い換えないユーザーは割引を受けられず、高い通信料を支払い、そのお金を原資として買い換えるユーザーを割り引くことに不公平感があるというのも、ここ数年の料金や割引への批判にもなっています。

 分離プランは要するに、こうした「縛り」や「指定プラン加入」による分かりづらい割引方法をやめようという案です。これによって、ドコモは「月々サポート」「docomo with」(指定端末購入を条件とした通信料金の割引)、「端末購入サポート」(一定期間の利用継続と指定プラン加入を条件とした端末代金の割引)が今後提供できなくなります。

 ドコモは分離プランに沿った新プランを発表することも示唆しています。これらの理由から、いわゆる「一括1円」は、2019年3月を最後に姿を消す可能性があるのです。

分離プランでどう変わるのか

 上記のように一括1円のようなキャンペーンが難しくなると、本体代金は必然的にあまり割り引かれず、今より高額の支払いが必要になるものといわれています。

 分離プランが盛り込まれた電気通信事業法の改正案では本体代を割り引くキャンペーンを禁止こそしていませんが、前述の通り通信料を原資とするような、指定プランへの加入や一定期間の拘束を条件とした割引は実施できないため、本体代を今のように実質や一括で安くして販売することは難しくなるでしょう。

 一方、本体代とは逆に、通信料は割引の原資とする部分をそのまま通信料の値下げに利用できるため、今までよりも安い月額で提供できると考えられます。

 本体代の(相対的な)値上がりと、通信料金の低廉化で、トータルコストとしては現在と大きく変わらないとしても、不思議ではありません。

 分離プランは、スマホにかかるトータルコストを安くするものではなく、あくまで「携帯料金」の内訳である「端末代金」と「通信料金」を明確にするものだと見ておくべきです。

 しかし、「この機種は10万円です」といわれるのと「10万円ですが、実質5万円です」と言われるのでは後者の方が購買意欲をそそる見せ方であり、高額なフラッグシップモデルに人気が集中していることも考えると、分離プランに切り替わってからしばらくの間は買いづらいと感じる人が増えるものと思われます。

KDDIとソフトバンクは分離プラン導入済み でもまだ終わらない大幅割引

 KDDIは2017年に導入した「auピタットプラン」から、機種購入・指定プランの加入を条件とする「毎月割」のスマートフォンへの提供を終了しています。

 また、ソフトバンクも2018年9月以降、「ギガモンスター+」など新料金プランの提供に伴い、旧プランおよび「月月割」の提供を終了し、NTTドコモに先駆けて分離プランとして提供を開始しています。

KDDIソフトバンク 分離プラン導入後も、大幅割引を続ける2社

 分離プランを導入しているKDDIとソフトバンクは、3月の商戦にどのように対応しているのでしょうか。大幅割引をあきらめ、高額な端末価格を提示しているのでしょうか。

 どちらも家電量販店の店頭ポップを確認する限り、MNPでの契約に対し10万円近い還元や割引を提示したキャンペーンを実施しています。

 店頭で話を聞く限り「データプランは定額制でも段階制でも可」「通話定額の有無も選んで頂いて大丈夫です」とのことなので、特定のプランへの加入を強制とする割引などには該当しません。

 もちろん、毎月割や月月割も発生せず「機種購入を条件とした利用料の割引」でもないため、分離プランとして提供されているとも考えられます。

 この状況は、上記で述べた「一括1円が終わる可能性」とは反しているもののようにも見えます。それでも、筆者は今後このような大幅割引が行われなくなる可能性は大いにあると考えています。

 ドコモが分離プランとして、通信料金を抑えた新プランを出した場合、他2社も追随するでしょう。こうなったとき、通信料が低廉化する分、やはり端末代金からの大幅割引は難しくなるのではないでしょうか。

「格安SIM」の危機感

 分離プラン導入後、大手キャリアの通信料が安くなった場合、存在が脅かされるともいわれているのが「格安SIM」(MVNO)です。

 音声通話が可能で、データ通信量が約3〜5GBの格安SIMの月額料金は2000円前後。

 大手キャリアの通信料が同様の条件で4000〜6000円程度とすると、ここから仮に4割下がれば、格安SIMとの料金差は大きく縮まります。

 格安SIMは「安い代わりにキャリアに比べ通信速度が遅い」などのトレードオフが必要ですが、用途や予算として速度よりも通信料を抑える方を優先したい人には適しているプランを展開しています。

 そこに大手キャリアが値下げした料金プランを提供開始すると、わずかな価格差でサービス内容に差はなく、通信も高速。これは格安SIMにとって危機だといえます。

 大手キャリアの通信料が高いとの不満から、ここ数年で市場を広げた格安SIMにとって、分離プランは脅威に映ります。

滑り込むか否か

 分離プランの厳格化以降、ドコモがどのようなプランを提供してくるか、現時点でははっきりと分からないため、2019年度以降の市場がどうなっていくかは未知数です。

 しかしここまで述べてきたように、今まで通りの買い方ができない可能性も考慮した方がいいでしょう。

 もし利用中の機種が古くなっているのであれば、この年度末の混雑した携帯売り場に突撃するのも価値がある選択肢かもしれません。

ライター:迎悟

キャリアショップも家電量販店も併売店も経験した元ケータイショップ店員。携帯電話が好き過ぎた結果、10年近く売り続けていましたが、今はライター業とWeb製作をやっています。

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