「世界にすぐに追いつける」が「盛り上がるまで数年かかる」――日本における5Gの展望:新経済サミット TOKYO 2019(1/2 ページ)
楽天の三木谷浩史社長が代表理事を務める新経済連盟が、6月20日に「新経済サミット(NEST) TOKYO 2019」を開催。ITジャーナリストの石川温氏と楽天モバイルのタレック・アミンCTOが登壇し、日本における5Gの展開について語った。
楽天の三木谷浩史社長が代表理事を務める新経済連盟が6月20日、「新経済サミット TOKYO 2019」を開催。その中で行われたトークセッション「5Gのインパクト―次世代規格による破壊的イノベーション―」において、楽天モバイルのタレック・アミンCTO(楽天の副社長を兼務)、VR(仮想現実)配信プラットフォームを提供しているTexelのアミール・セゲブCEO(共同創業者)が登壇。モデレーターを務めるITジャーナリストの石川温氏と共に、5G(第5世代移動体通信システム)の動向について意見を述べた。
日本は5Gですぐに追いつき、追い越せる
セッションではまず、石川氏が5Gの特徴や世界での展開状況を説明した。
5Gは「高速大容量」「超低遅延」「多端末接続」という3つの特徴があるが、5G通信サービスの提供が始まっている国や地域では、まず高速大容量化が進んでいる。
その次に進むと思われるのは、自動車の自動運転を実現する鍵の1つとなる超低遅延化。多端末接続についてはIoT(モノのインターネット)での活用が進むと見られる。
これら3つの特徴によって、産業が変わるとの期待が高まっている。
5G端末については、先日Qualcommの担当者が来日して記者会見した際の資料を引用(参考記事)。この1年で世界で75以上のデバイスが登場することを紹介した。
日本ではまだ始まっていない5G通信サービスも、米国や韓国がいち早く提供開始したことも紹介した。サービスが始まっている国や地域では、スマホやルーターなどの端末をメーカーが販売していて、一般ユーザーも5G端末を買える状況になっている。
日本では、NTTドコモが9月20日に開幕する「ラグビーワールドカップ」のタイミングでプレサービスを開始するとアナウンス。2020年春には大手4社が5Gの商用サービスを始める予定となっている。
世界と比べて日本の5G開始は遅れるが、石川氏は「5Gはこれから10年、15年、20年使う規格。長いスパンで見ると日本は決して出遅れてはいない」との見解を示す。
海外ではとにかく5Gの電波を吹く(≒通信サービスを開始する)ことを重視する傾向が強いが、日本ではキャリアがさまざまなパートナーと組んで5Gの活用事例の創出に取り組んでいる。「活用のための準備は万端になっていると思う。サービスが始まってしまえば、あっという間に世界に追いつき、追い越すと思う」と語った。
また、石川氏は6月中旬に米シカゴでVerizon Wirelessが提供する5G通信サービスを体験したエピソードも紹介。Verizonショップ内で「Galaxy S10 5G」と「Galaxy S10+」の2台で通信速度を比較したところ、5Gで通信するS10 5Gの下り通信速度は500Mbps超。4Gで通信するS10+と比べて約10倍の速度で通信できたという。ただし、Verizonでは5Gでも上り通信は4Gを使うので両者に有意な差はない。
アップロードこそ現状では同じ速度だが、下り通信速度の面で「5Gは速い」ことを実感できたという。
屋外では、Amazonプライム・ビデオの動画をダウンロードしてみたという。ドラマ8話分、トータルで2.7G〜2.8GBのデータ量を「かなりサクサク」ダウンロードしたそうだ。「自宅の光回線で同じドラマをダウンロードしてみたが10分くらいかかった。5Gのポテンシャルは相当高い」(石川氏)。
なお、シカゴでは信号機の上に5G基地局を設置していることもあるそうだ。基地局を複数のキャリアで共有していることもあるという。日本でも電柱を共有する実証実験が行われており、街中をエリア化するための工夫がなされている。
5Gでは、一般企業がそのネットワークを活用していかにサービスを提供するかが重要とされる。その面白い事例として、石川氏はJALとKDDIによる「タッチレス搭乗ゲート」を取り上げた。28GHz帯の電波を真上から、搭乗ゲート内のみに当たるように吹き、搭乗券の情報が入った5G端末を持っている人はタッチレスでゲートを通ることができるというものだ。
30GHz帯、あるいはそれに近接するいわゆる「ミリ波帯」は扱いが難しい電波だといわれいるが、石川氏は「5Gのこういった活用の仕方で、今までにない生活スタイル、いままでにないサービスを提供できる可能性もある」と期待を語った。
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