7pay騒動から見えた、モバイル決済の懸念 生き残るために必要なものとは?:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(3/3 ページ)
不正利用が発覚した「7pay」の問題が収束する気配が見えない。セブン社内でも混乱が続いているようで、セキュリティ対策と顧客サポートの両面で手が回っていない印象を受ける。この7payを含む「コンビニPay」と、銀行が提供する「銀行Pay」を含めた、モバイル決済全体の課題を整理する。
モバイル決済にまつわる3つの懸念
今後のモバイル決済、特に○○Payの世界を考えるうえで3つの懸念がある。
1つは、特定商圏のみをターゲットとしたアプリがどこまで受け入れられるかだ。今回の例でいえば、コンビニPayがそれに該当するが、それ以外にも地域通貨的なもので「投入した資金を特定地域のみで環流させる」ことを目的としたものも該当する。地域通貨の場合はユーザーの移動範囲も限られており、実際にほとんどの店舗で利用できるなど相応のメリットが存在するならば問題ない。
だがコンビニPayのように特定チェーンのみでの利用に限られる決済手段の場合、決済ツールとしてはあまり活用されず、クーポン利用などが中心になると予想する。またスケールしないビジネスでは、各社が掲げているビッグデータ活用も機能しない可能性が高い。
2つ目の懸念は、自社サービス拡大のために他社サービスの活動を阻害する行為だ。例えば、日経ビジネスで原隆氏がレポートしているが、ゆうちょ銀行がモバイル決済を提供する他の事業者との接続に際し、高い接続料を要求しているという話がある。
○○Payのモバイル決済サービスでは、銀行口座経由でユーザーに利用金額をチャージしてもらい、これを支払いや送金に充てる仕組みが構築されている。その際、口座数1億2000万という日本の人口とほぼ同規模の巨大シェアを持つゆうちょ銀行は格好の提携相手であり、実際に広く活用されてきた。
だがレポートによれば、既存と新規問わず接続料を大幅に引き上げたことが報告されている。ゆうちょ銀行では「ゆうちょPayへの誘導を目的とした施策ではない」と否定しているものの、筆者も4月以降に接続料が上がったという話を聞いており、「これまでの一方的に接続先として資金を吸い上げられる関係ではなく、これをビジネスとして成り立たせつつ、ゆうちょPayも盛り上げていく」という意図があるのは確かだろう。
長い低金利時代が続く中、金融機関の収益源は限られつつあり、特に体力の弱い地方銀行を中心に存続の危機が叫ばれている。これはゆうちょ銀行も例外ではなく、今後似たような形で各行が接続料や手数料を引き上げる形で収益源とし、結果としてモバイル決済市場の盛り上がりを阻害する可能性がある。
3つ目は、今回の7payのようにセキュリティが甘い、あるいはアプリとしてのコンセプトや完成度が低いものが増え、利用者離れを起こす懸念だ。ネガティブニュースが連日報じられる形で「モバイル決済は危険」という情報が拡散されることは、キャッシュレス普及施策を掲げる国にとってもマイナスでしかない。
同様に、これまでモバイルアプリ戦略への取り組みが弱い金融機関が銀行系Payで大量参入することで、セキュリティ上の問題を抱えている、あるいは使い勝手の悪いアプリや機能性の低いアプリが大量に市場投入されることを考えれば、これらに触れたユーザーがモバイル決済に関して悪い印象を抱いてもおかしくはない。
モバイルアプリは誰でも作れるという意見をたまに聞くが、真に安心安全で便利なアプリを提供しているベンダーはそれほど多くない。ノウハウなしで乗り切れるほど甘い世界ではないからだ。参入自体は容易な市場ではあるが、実際に生き残れるかは別の話だ。事業者は自身のビジネスのコアがどこにあるかを認識しつつ、目指すべきターゲットに本当に必要なものを提供してほしい。
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