J-Debitの仕組みをスマホで 「Bank Pay」の狙う市場と戦略:モバイル決済の裏側を聞く(1/3 ページ)
2019年秋のサービス開始を予定している「Bank Pay」は、「J-Debit」の推進団体としても知られる日本電子決済推進機構(JEPPO)が提供するサービスだ。Bank Payは「既にあるシステムをスマートフォンに拡張」「各金融機関が提供しているアプリやサービスとの連携」を特徴としている。JEPPOがうたう「オールバンクのスマホ決済サービス」とは?
スマートフォンを使った「○○Pay」の決済サービスが乱立しているが、筆者は「インターネットサービス事業者系Pay(LINE Pay、楽天ペイ、PayPayなど)」「携帯キャリア系Pay(d払い、au Pay)」「独立系Pay(Origami Payなど)」「流通系Pay(ファミペイ、7payなど)」のように参入事業者が属する分野ごとに区分けすることが多い。消費税増税に伴うポイント還元施策が始まる2019年10月1日を前に、各社の参入ラッシュが続いているが、この中でも最後発でやってくるのが「銀行系Pay」となる。
銀行系Payとは、いわゆる既存の金融機関がスマートフォン決済分野に参入して提供する決済サービスだ。「ゆうちょPay」のインタビュー記事も掲載しているが、このゆうちょPayも銀行系Payの1つとなる。より正確には、GMOペイメントゲートウェイ(GMO-PG)がOEMとして提供している「銀行Pay」に属する1社となる。
銀行Payは、参加する金融機関各社が互いの加盟店を相互開放することで決済ネットワークを広げるサービスで、GMO-PGが提供するのはその相互接続のためのゲートウェイと手数料分配システムだ。基本的には決済に特化したサービスであり、それ以上の機能は各社が独自のアプリをいかに改良するかにかかっている点にも特徴がある。
これとは別に、銀行系Payと呼ばれるサービスが大きく2つある。1つはみずほ銀行が提供する「J-Coin Pay」で、これは同社が出資する「pring」の決済・送金システムをそのままみずほ銀行のユーザーに適用したものだ。銀行Pay同様に、加盟店ネットワーク拡大に意欲を見せており、複数の銀行口座との連携と全国規模での加盟店獲得を目指している。銀行Payとの大きな違いは送金機能を標準搭載していることで、送金特化型のアプリであるpringの特徴(とユーザーインタフェース)を引き継ぐことで実現した。
そして今回紹介する「Bank Pay」は、この両者とも異なる3つ目の銀行系Payサービスとなる。
「Bank Pay」をリリースする日本電子決済推進機構(JEPPO)では、同サービスについて「オールバンクのスマホ決済サービス」とうたっている。銀行PayがIT投資に積極的な地方銀行やゆうちょ銀行、J-Coin Payがみずほ1社を中心としたメガバンクといった構成なのに対し、Bank Payはメガバンクから地方銀行まで最大1000以上の銀行口座連携をうたう巨大サービスとなる。サービスインは2019年秋を予定している。
日本電子決済推進機構は国内初のデビット決済システムとして登場した「J-Debit」の推進団体でも知られているが、この仕組みを実質的にそのままスマートフォン決済に持ち込んだのが「Bank Pay」だ。今回お話をうかがった廣崎善啓氏はJ-Debitの設立にも関わり、金融機関やそのユーザーが安心して利用できる決済サービスを提供することを目標にBank Payの準備を進めている。
将来的に前述2つの銀行系Payを含む形で、一大ネットワークを構築することがBank Payの狙いだと同氏は説明するが、まだ具体的な姿が完全には見えてこないBank Payとはどのようなサービスで、どういった世界を目指すのか。
「銀行口座の活性化」がそもそもの狙い
とかく「囲い込み狙い」と評価されることの多い○○Payの世界だが、Bank Payの場合は「既にあるシステムをスマートフォンに拡張」「各金融機関が提供しているアプリやサービスとの連携」をうたっており、どちらかといえば閉じた世界に別のフレームワークを提供し、その風通しをよくする性格を持っているといえる。
スマートフォン決済で狙う市場も明確で、「5000円未満で皆さんが普段使いしている現金が主流の市場」(廣崎氏)となっている。実は、これはもともとJ-Debitが狙っていた市場である一方で、なかなか広まっていなかった市場でもある。
理由はいくつか議論されているが、その1つは少額決済を行うには手数料がやや高いという問題があったようだ。そのため、加盟店ネットワークの広がりにも限界があった。最終的に、こうした問題を少しずつつぶしていった上で、金融機関がスマートフォン向けの決済サービスとして利用できるBank Payにたどり着いた。
廣崎氏によれば、もともとの構想は「銀行口座の活性化」にあるという。近年でこそ銀行不要論のような議論が出てきているが、「お金の預け先としてやはり銀行は安心」という信頼性の高さがサービス提供の下地になっている。
現在は買い物からキャッシュアウトなどATMの操作にまつわる部分まで、カードが主流だが、今後はこれがスマートフォンで置き換わる可能性も見据えている。Bank Payの世界では銀行自身がイシュアであり、同時に決済の窓口となるアクワイアラになる。
イシュアとなるのは1000行だが、実際に加盟店開拓を行うのはそのうちの140社程度。日本電子決済推進機構は加盟各行の会費で運営されているが、各種レギュレーションやガイドラインの作成やヘルプデスク、キャンペーン展開、そして今回のBank Pay実現に必要なシステムの“ひな型”を提供することが役割となる。
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