NTTドコモが300の実証から見いだした、5Gビジネスでも「高速大容量」が重要な理由:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
5Gに対する漠然とした期待は非常に高いものの、ビジネスへの具体的な活用はあまり見えていないという企業は多いだろう。そうした5Gが抱える大きな課題に、積極的に立ち向かっているのがドコモだ。同社は5Gをビジネスに生かす上で、重要なポイントはどこにあると見ているのだろうか。
ローカル5Gとの競合や世界的な出遅れをどう見るか
一方で、ドコモが5Gをビジネスに活用していく上では、いくつか課題もあるように感じる。1つは5Gのエリアであり、先んじて2020年3月27日に5Gの商用サービスを開始すると発表したソフトバンクも、実際に5Gが利用できるエリアが点在的で、非常に狭い。それだけに、5Gのビジネス活用を進める上ではエリア展開がどうなるかが非常に気になる所だが、有田氏は「5Gでは使われる所をエリア化する」ことが重要だと答える。
特に法人で5Gを活用する場合、必要な場所にだけネットワークを構築することで対応がしやすく、面的なカバーが必ずしも必要ないのは確かだ。一方で広い場所での利活用を想定している自治体などの場合は、既存の4Gの活用を中心としつつ、その中の特定の場所に5Gネットワークを構築することで、映像伝送の高精細化ができるなど改善できる事例が増えると説明し、理解してもらっているという。
ただ限定されたエリアでの5Gネットワーク構築となると、ローカル5Gを手掛ける事業者と競合する可能性も高いが、有田氏はローカル5G事業者とは「競合と協業、両方の可能性があると思っている」と答えている。実際ドコモにも、ローカル5Gでやるべきかどうかという相談が来ているそうだが、話してみると利用シーンによってどちらを使った方がよいか、分かれるケースが出てきているのだそうだ。
ローカル5Gの事業者は確かにビジネス面で競合になり得るものの、逆にローカル5Gだけではできない携帯電話会社ならではの強みもある。そうしたことからコンサルティングなどで、ローカル5Gの事業者に協力や技術支援などをしていくこともあるのではないかと、有田氏は話している。
また、海外では2019年より5Gの商用サービスを開始していることから、コンシューマー向けだけでなく法人向けの5G活用に関しても、海外に比べ大きな後れを取っているのではないかという声も少なくない。だが有田氏は、「海外の事例を真剣に調べてみたが、スマートマニュファクチュアリングや自動運転がけっこう多い。弊社が取り組んだ300の実証事例を見ると、海外では生まれていないものがたくさんありバリエーションに富んでいる」と回答、ユースケース開拓には積極的に取り組んできたこともあって、海外から後れを取っていることはないとの認識を示している。
“黒子”として企業をつなぐ役割を強化
では、ドコモが5Gの商用サービスを開始した後、どのような形で5Gを活用したサービスが表に出てくるのだろうか。先にも触れた通り、同社ではこれまで300の実証実験に取り組んできたが、それら全てが商用サービス開始と同時に、実際のサービスとして登場するわけではないという。
サービスの提供形態に関しても、従来はドコモが主体となって企業にモバイルを活用したソリューションを提供してきたが、5Gでは企業が他の企業にサービスを提供する「B2B」ではなく、サービス提供を受けた企業がさらにその先の消費者や企業、自治体などにサービスを提供する「B2B2X」のスタイルが主流になると有田氏は説明する。ドコモのブランドでサービスを提供することももちろんあるというが、同社がアセットだけを提供し、それを活用して別の企業がサービスを提供することもあるという。
また有田氏は、「新しいドコモの立ち位置は、いろいろな人を結び付ける役割になるのでは」とも話す。つまりドコモがB2B2Xの“真ん中のB”となり、例えばベンチャー企業の優れた技術があった場合、その品質を向上させ、なおかつ他の企業や自治体などとマッチングして具体的なサービスの実現につなげるなど、企業と企業との間を取り持つことが、5G時代の法人ビジネス拡大につながると考えているようだ。
取材を終えて:ノンスタンドアロンでも5Gは法人向けに活用できる
現状、5Gのビジネス活用といえば、工場での利用を中心とした低遅延や多数同時接続への関心が非常に高い一方、高速大容量通信はコンシューマー向け用途が主体になるという見方が一般的だ。それだけに、実は映像伝送、ひいては高速大容量通信が最も重要な役割を果たしているという有田氏の説明には意外性があったのは事実だ。
だが裏を返せば、それはノンスタンドアロン運用であっても5Gが十分法人向けに活用できることでもあり、それだけ5Gの法人活用は早く進む可能性があることも示している。まだ同社の5G商用サービスが始まっていない現状ではその姿は見えていないものの、多くのユースケース創出に力を入れてきただけに、そう遠くないうちに何らかの形で具体的なサービス事例が披露されるだろう。
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