NTT東日本に聞く、ローカル5Gの取り組み 地方創生に向け産学連携で自治体をサポート:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
ローカル5Gにはさまざまな事業者が参入しているが、現在のところ規模の面で最大手といえるのはNTT東日本ではないだろうか。固定通信のイメージが強いNTT東日本だが、実はWi-Fiを用いた無線通信は以前から手掛けている。同社にとってローカル5Gは、企業のネットワークのエンドポイントとして利用する無線通信ソリューションの1つに位置付けられる。
ミリ波はどこまで有効活用できるのか
とはいえ、現在のところローカル5Gに積極的に取り組んでいるのは東京都のような大きな自治体か、「大企業の中でも業界のトッププレイヤークラス」(渡辺氏)が多い。その背景には整備コストが高いという問題や、対応する端末の少なさ、そしてローカル5Gの技術知見が蓄積されていないことなどが挙げられる。
一方、これまでの取材においては、現在ローカル5G向けに割り当てられているミリ波(28GHz帯)の問題に言及する声が多かった。遠くに飛びにくいなどミリ波の扱いにくさに加え、4Gのアンカーを用意する必要があり整備コストが高いことなどから、ローカル5G事業者からは2020年末に割り当てが予定されているサブ6(4.8GHz帯)を待って、事業を本格化するという声が多い。
ではNTT東日本は、そのミリ波の扱いに関してどう考えているのだろうか。渡辺氏は28GHz帯について、「伝搬範囲を広げるのは難しいが、高速大容量通信や低遅延など、本来の5Gが持つスペックを生かす上では重要」と評価しているとのこと。実際に顧客からも「高精細映像による会議や、3D・VRの活用、さらには医療現場で細かな映像を見ながら作業をしたいという話をもらうこともある」(門野氏)ことから、そうしたニーズに応える上ではミリ波の重要性が高いという。
野間氏は、4.8GHz帯である程度のエリアをカバーしながら、その場所だけ広帯域での通信が必要な部分に28GHz帯を活用するなど、ユースケースに応じて双方の帯域をうまく使い分けることを検討していると答えている。一方で、端末メーカーや基地局ベンダーなどからはサブ6、つまり4.8GHz帯にターゲットを合わせて機器開発を進めているとの声が多いようで、4.8GHz帯の割り当てによって「導入金額は一段下がるのではないか」(渡辺氏)と、導入のハードルが大きく下がるとみているようだ。
では将来的に、ローカル5Gが拠点間をまたいで使用されるケースが出てきた場合、NTTドコモなど公衆向けの5Gサービスを提供するグループ企業との連携はあるのだろうか。渡辺氏は農地間の移動など、拠点をまたいで通信するケースは存在することから他の無線手段との組み合わせは必要と話しており、その際はグループ会社と相談しながら進めることを検討しているとしている。
取材を終えて:地方創生にむけ自治体向けの取り組みに期待
立ち上がったばかりのローカル5Gを事業として本格展開する上では、ネットワークに関する知見とソリューションを提供するシステムインテグレーターとしての実績の双方が大きく問われる。そうした意味でいうと、固定だけでなくWi-Fiによる無線通信でも豊富な実績を持ち、なおかつ企業から自治体まで幅広いソリューションを提供しているNTT東日本は、非常に強力なプレイヤーであることに間違いないだろう。
特に、他のローカル5G事業者が獲得しにくいであろう自治体を多く顧客に持つ点は、NTT東日本の大きな強みといえる。政府は地方創生を5Gの重点テーマとして掲げているだけに、ローカル5Gを活用した自治体向けソリューションでいかに多くの実績を作り出せるか、大きなポイントになるといえそうだ。
またローカル5G業界では4.8GHzの割り当てを本格的なスタートとみる向きが大きいが、その前にミリ波を有効活用できるソリューションをうまく開拓し、早期の事業拡大につなげられればその優位性は確固なものとなる。3者の発言からは同社がミリ波の活用にも積極的な様子が見えてくることから、ミリ波の有効活用という部分でも今後の動向が注目される。
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