eSIM開放やキャリアメール持ち運びの課題は? 総務省が「スイッチング円滑化タスクフォース」で論点整理
総務省が第1回「スイッチング円滑化タスクフォース」を11月26日に開催した。主な検討事項は、eSIMの促進、SIMロック解除の一層の推進、キャリアメールの持ち運びに向けた検討、MNP手続きのさらなる円滑化に向けた検討など。eSIMの提供は、セキュリティ上の懸念があるとキャリアから意見が挙がっている。
総務省が、10月27日に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を踏まえ、キャリア(通信事業者)間の乗り換えを円滑にする施策を検討すべく、「スイッチング円滑化タスクフォース」を数回に渡って開催していく。
主な検討事項は、eSIMの促進、SIMロック解除の一層の推進、キャリアメールの持ち運びに向けた検討、MNP手続きのさらなる円滑化に向けた検討など。
11月26日に開催した第1回の会合で、上記テーマの検討課題を公表した。
eSIMにはセキュリティ上の懸念がある?
eSIMが普及することで、ユーザーはキャリアを乗り換えやすくなり、海外でも現地キャリアのSIMを利用しやすくなる。複数キャリアのプロファイルを持つこともでき、用途に応じてキャリアを切り替えて利用できる。一方、日本では楽天モバイルを除く3キャリアはスマートフォン向けにeSIMを提供していない。またMVNOへの機能開放も進んでいない。
eSIMを導入するにあたって検討すべき課題の一例として、プロファイルの漏えいや不正利用が起きないか、MVNOに機能開放する際のコスト、eSIMに対してSIMロックをかけることをどう考えるか、などを挙げている。
キャリア側は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」にて、eSIMのプロファイルが漏えいすることで、クローンSIMが作成可能になるなどセキュリティ上の懸念を問題点に挙げている。一方MVNOは、既存のSIMカードと同等のセキュリティを提供できるとの意見を示している。
eSIMの対応端末についてはiPhoneが主流で、「iPhone XS」以降のモデルがeSIMを利用できる。また総務省はAppleのWebサイトの情報をもとに、G7(主要7カ国)のうち、キャリアがiPhone向けにeSIMサービスを提供していないのは日本のみと指摘している。
SIMロックは一律で禁止すべき?
SIMロック解除については2019年にガイドラインを改正し、分割購入から100日以内でも、クレジットカードで支払うなど信用確認措置に応じた場合はSIMロック解除を義務付けている。また2020年10月1日からは、中古端末でもオンラインでSIMロックの解除可能にすることを義務付けた。
SIMロックの解除件数は、2016年度第1四半期から増加傾向にあり、1四半期あたり平均で23%増となっている。2020年度第2四半期の解除件数は、前年同期比で2.2倍となる190万件を突破した。
SIMロックは、端末の割賦代金を支払わない、または端末の搾取を防止するために設けているが、ユーザーにロックのメリットがないのなら、合理的ではないのではないか――と論点を挙げている。また「合理性が認められないのなら、SIMロックは一律で禁止すべきではないか」「代金を踏み倒す可能性が低いことが確認できた時点で、事業者の責任で解除すべき」とも指摘している。
キャリアメール持ち運びの課題は?
MNPでキャリアを変更すると、メールアドレスを変更する必要があり、これが他キャリアへの移行を妨げる要因の1つになっていると指摘。総務省の調査によると、約20%のユーザーが、キャリアの乗り換えを考えていない理由として、メールアドレスが変わることを挙げているという。
キャリアメールの持ち運びを実現するには、変更元のキャリアが管理する方法と、転送する方法を挙げているが、前者はシステム開発にかかるコストが大きいことが予想され、後者は「なりすまし」によるセキュリティホールの化の懸念があるとしている。また、いずれの方法も変更元のキャリアがユーザーの個人情報を持つことになるが、個人情報保護の観点から問題がないかも検討の余地がある。
MNPは「ワンストップ方式」が検討課題に
MNPについては、現在採用している、移転元と移転先のキャリアで手続きが必要な「ツーストップ方式」に加え、移転先キャリアとのやりとりだけで手続きが完了する「ワンストップ方式」の導入も検討されている。
ワンストップ方式ならより手短に手続きができ、転出元キャリアの引き止めを受けることがなくなるが、システム改修にコストや時間がかかること、事業者間の個人情報管理などが課題に挙がっている。
この他、MNPについては、3000円の手数料を無料にすること、過度な引き止め行為を禁止すること、オンライン受付を24時間に拡大することが、改善すべき点として挙がっている。
総務省は、上記の内容を踏まえて「MNPガイドライン」を改正すべく、11月13日から12月8日までパブリックコメントを募集している。
今後のスケジュール
今後のスイッチング円滑化タスクフォースは、12月8日の第2回でキャリア4社に、12月23日の第3回でMVNOやユーザー企業に、2021年1月中旬の第4回で有識者にeSIMについてヒアリングを行う。並行して、MNP、キャリアメール持ち運び、SIMロック解除については事業者間で協議を進める。その後、2021年3月下旬に報告書案を作成し、パブリックコメントを募集する。
関連記事
- 「利用者理解」「多様なサービス」「MNPの簡素化」が柱――総務省が「アクション・プラン」を策定 公正競争環境の整備を進める方針
総務省が「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表。今後の携帯電話市場における“公正な”競争環境を整備すべく取る行動を具体的にまとめている。柱は「利用者理解」「多様なサービス」「MNPの簡素化」だ。 - 総務省が「モバイルサービス・端末」と「MNP」のガイドライン改定案を公表 意見募集中
総務省が「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」「携帯電話・PHSの番号ポータビリティの実施に関するガイドライン」の改定案を公表。これに伴い、6月7日から各案について意見(パブリックコメント)を募集している。 - 携帯料金、サブブランドのみの値下げは「羊頭狗肉」 武田総務大臣が批判
武田良太総務大臣が、11月20日の会見で携帯料金値下げについて言及した。ソフトバンクとKDDIがサブブランドで新プランを発表したが、メインブランドで値下げをしないことを問題視。「形だけが割安なプランはまったく意味がない」と批判した。 - 携帯料金値下げ、一般ユーザーの要望は? 武田総務大臣との意見交換会で見えたこと
10月8日、武田総務大臣と携帯電話利用者の意見交換会が総務省で開催された。安くて分かりやすく、納得感のある料金やサービスを実現すべく、今後の政策立案に役立てることが会の目的。武田総務大臣は「料金プランの中身が分かりにくいという話が印象的だった」と話す。 - いまだeSIMの提供に消極的な3キャリア 期待できるのは“新しいフルMVNO”と楽天のみ?
iPhoneを中心にeSIMに対応する端末が増えているが、大手3キャリアはeSIMサービスの提供には慎重な姿勢を崩さない。MVNOではIIJがeSIMサービスを提供しているが、2019年内に、eSIMの提供に必要な「フルMVNO」の形態を持つ事業者が、他にも登場するという。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.