汎用PCで5G基地局を構築 docomo Open House 2021で語られた、ローカル5Gの可能性:docomo Open House 2021(2/3 ページ)
ドコモの最新技術とサービスに関する数多くの展示、講演がオンラインで配信された「docomo Open House 2021」で東京大学大学院 情報学環・学際情報学府の教授で、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF) ネットワーク委員会委員長なども務める中尾彰宏氏が「Beyond 5G/6Gに向けた研究開発」というタイトルで講演した。その内容についてご紹介しよう。
コストダウン、公衆5Gとの連携を実証
こうした状況の中で、中尾氏が中心となって行っている取り組みが紹介された。
まずは「Local 5G-In A Box」というプロジェクト。これは一般のPCでローカル5Gのスタンドアロン(SA)基地局を構成するというもの。コストの低廉化にチャレンジするプロジェクトだ。一般家庭にあるようなPCを使い、汎用(はんよう)CPUの上にソフトウェアの基地局、5Gコア装置を実現することで、一般家庭や大学、オフィスの中でも5Gの利用が進むことを目指している。
一般のPCを使ってはいるが、通信事業者が使っている5Gのプロトコルを実装しており、無線機器をPCに接続することによって5G通信が可能となっている。2台のPC版ソフトウェア基地局を電波暗室に持ち込み、メディアにも実験を披露した。
低廉化とともに、利用者の使い方に合わせたカスタマイズもローカル5Gでは重要になる。大手キャリアはダウンロードを中心に性能を高めているが、ローカル5Gではアップロード方向の通信帯域を広く求められるケースが多く、アップロードの実験も行っている。
キャリアの公衆5Gとローカル5Gを連携させた実証実験も行っている。中尾氏は、これまであまり通信が活用されてこなかった1次産業、特に漁業に着目。人手不足や労働の負担軽減を目指し、養殖業や一般漁業への5G活用に取り組んでいる。
その一例が、広島県江田島市のカキ養殖場で行われた、海中の高精細映像とドローン制御による養殖漁場の遠隔監視、低遅延通信による遠隔制御に関する実証実験だ。カキの育成状況を人力で確認するのは大きな負担となっている。それを解決する方法として水中ドローンを遠隔操作し、水中ドローンの先端に付けたカメラによって、カキの生育状況をモニタリングする実験を行った。
前出のPCベースのソフトウェア基地局を駆使する一方、ドコモの5G技術も連携させて、「非常に近い周波数帯を使うが、互いに干渉せずに、得意なところ、不得意なところをカバーし合うプロジェクト」になっているという。
たくさんのカキいかだが浮かぶ江田島の海域の一部を監視エリアとし、陸上から海上に向かって5Gの電波を吹く。ローカル5Gとキャリアの5Gの共存可能性検証は新しい実験項目で、ローカル5Gの周波数は4.7〜4.8GHz、キャリア5Gは4.5〜4.6GHzの周波数を使って行った。互いに連携ができるかが課題だという
スマホの画面で見る海中の様子。「水中ドローンの操作は当初、スマホで行っていたが、操作しにくいため、最近ではヘッドマウントディスプレイを使用している。“VR酔い”しないために5Gの低遅延通信、カキの高精細な映像を捉えるために大容量通信が必要になる」(中尾氏)
中尾氏は、「ドコモさんとは十分に議論できていないが」と前置きしつつ、キャリアとの5G設備共用についても言及した。5G基地局のどの部分を共有化するかによってコストが変わってくる。全てキャリアの装置を使い、クラウドサービスのようにキャリアから設備を貸し出してもらう「いわゆるクラウド化によって、設備共用による価格破壊を起こしたい」との考えを語った。
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