政府主導による料金値下げの功罪 MVNOが戦うために必要な競争環境とは?:モバイルフォーラム2021(1/3 ページ)
テレコムサービス協会 MVNO委員会は、3月5日に「モバイルフォーラム2021」をオンラインで開催。「激動のモバイル市場 MVNOに安心して乗り換えるために必要なものとは?」と題してパネルディスカッションを行った。2020年12月からキャリアが発表した新ブランドや値下げに対して、MVNOはどのような戦略を取ればいいのか? またあるべき競争環境とは?
テレコムサービス協会 MVNO委員会は、3月5日に「モバイルフォーラム2021」をオンラインで開催。「激動のモバイル市場 MVNOに安心して乗り換えるために必要なものとは?」と題してパネルディスカッションが行われ、通信業界を取材するジャーナリスト、MVNO関係者、総務省 料金サービス課の担当者などが、MVNOの果たすべき役割、あるべき競争環境の姿などについて議論した。
パネリストは、右上から時計回りに、スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏、オプテージ コンシューマ事業推進本部モバイル事業戦略部長の福留康和氏、フリージャーナリストの西田宗千佳氏、総務省総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課企画官の大内康次氏、テレコムサービス協会 MVNO委員会委員長でインターネットイニシアティブ 常務取締役の島上純一氏、イオンリテール 住居余暇本部アプライアンス商品部の河野充宏氏、モデレーターを務めたITmedia Mobile編集長の田中聡
料金値下げでめまぐるしく動いた携帯電話業界
2020年後半から現在、モバイル業界はめまぐるしく動いている。
2020年10月に総務省が「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」(以降、アクション・プラン)を公表。「分かりやすく納得感のある料金」「事業者間の公正競争の促進」「乗り換えの円滑化」という3本の柱を掲げ、競争促進に向かって話が進もうかという矢先に、武田良太総務大臣が大手3キャリアに対してメインブランドでの値下げ要請をした。その要請を受ける形で、12月にはドコモの「ahamo」と、当時はSoftBank on LINEの仮称で「LINEMO」、年が明けて1月にKDDIの「povo」と、3キャリアが20GBのオンライン専用プランを発表した。
その直後から、日本通信をはじめMVNOも、主にahamoの対抗プランといった形で続々と新料金プランを発表している。
一方で、1月にはMVNO委員会が総務省に要望書を提出。データ接続料の可及的速やかな引き下げ、音声卸料金の低廉化、プレフィックス番号自動付与機能の早期実現を訴えた。楽天モバイルは1GBまで0円という常識を覆す「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表して話題を集めた。
2月にはUQ mobileとY!mobileが新料金プランの提供を始め、3月にahamoの詳細内容が発表されて状況が落ち着くかに思えたが、LINEMOの通話オプションが1年間月額500円割引になるキャンペーンが発表。OCN モバイル ONEの新料金発表も3月下旬に控えている。そして3月中旬〜下旬には、ahamo、povo、LINEMOのサービスがいよいよ始まる。
大臣の発言で“しっちゃかめっちゃか”に
パネルディスカッションでは、まず、この政府主導による値下げに対し、MVNOがどう対抗するべきかが話し合われた。
2020年10月からの業界動向を振り返って、スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川氏は、「キーマンは武田総務大臣。大臣の発言によって、いろんなことがしっちゃかめっちゃかになった」と断じた。
サブブランドを持っているKDDIとソフトバンクは当初、UQ mobileとY!mobileで新プランを発表したが、それが武田総務大臣に否定されたことから、ドコモを含め3社ともメインブランドからahamo、povo、LINEMOを出すことになった。
「うわさに聞くと、ahamoは最初サブブランドで用意していたものがメイン扱いになった。恐らく、3月の春商戦に向けて1月頃発表するために準備していたのが前倒しされた。各キャリアともかなり準備不足の中、発表しているように見える」(石川氏)
3社とも、時間がない中で発表したために情報が小出しとなり、「ユーザーにとって分かりにくくなった」と石川氏は指摘する。
フリージャーナリストの西田氏は、大臣の発言やプランの仕様の変更など、継続的にさまざまな情報が出てきたことで、「話題が途切れず興味が持続した部分はあると思う」とみる一方、記事を読んだ人から「シンプルなプランになったと思ったのに、結局分かりにくくなったという声を聞くようになった」と状況を振り返った。
MNOから情報開示されない限り対抗策が打てない
イオンリテールの河野氏は「MNOからここまで安いプランが出ることは想定していなかった」と率直な感想を語った。その上で「薄利で提供しているMVNOにとっては、どれだけ接続料が下がっても値下げ幅がMNOと比べて大きくはならず、ブランディング戦略としては非常に厳しい状況」と危機感を示した。
「接続料や音声卸料金を決定するMNOは、情報的に圧倒的に有利。料金設定では、MNOが圧倒的に早く消費者に対してリリースできる。MVNOは、MNOから情報開示されない限り対抗策が打てない」(河野氏)
MNOが情報開示を遅らせることで、MVNOのサービスリリースをコントロールする、MNOのグループ系MVNOにだけ事前に情報が開示されることを懸念し、情報開示でも公平さを求めた。
オプテージの福留氏は、mineoの新プラン「マイピタ」が、MVNOとしては比較的早く発表された経緯を紹介した。2020年4月以降、ユーザーのニーズが急激に変わってきたことを契機に、夏頃から新プランの検討を始めたという。当初は2021年度の早いタイミングでリリースする予定だったが、年末から他社が続々と新プランを発表したことから、「一気に全力疾走し、なんとか2月1日にリリースできた」と振り返る。
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