菅政権肝いりの「キャリアメール持ち運び」、どこまでニーズがあるのか?(1/3 ページ)
キャリアメールはスマートフォンとSNSなどの普及で利用は大幅に減少している。にもかかわらず、総務省は現在のタイミングでキャリアメールの持ち運びができるよう各キャリアに求めている。一体なぜなのか。また、どのようにキャリアメールを他社でも引き継げるようにするのか。
かつて生活に欠かせない存在だった、携帯電話事業者(キャリア)が提供するいわゆる「キャリアメール」だが、スマートフォンとSNSなどの普及で利用は大幅に減少している。にもかかわらず、総務省は現在のタイミングでキャリアメールの持ち運びができるよう各キャリアに求めているのだが、一体なぜなのか。その経緯を改めて振り返ってみよう。
役目を終えつつあったキャリアメール
スマートフォンが普及するより以前から携帯電話を使っている世代なら、ほぼ誰しもが知っているであろうキャリアメール。これは携帯各社が提供するメールサービスで、「docomo.ne.jp」「au.com」「softbank.ne.jp」などといったキャリアのブランドのドメインを冠したメールアドレスを通じ、携帯電話からメールのやりとりができるものだ。
キャリアメールはかつて、日本において生活に欠かせないインフラというべき存在でもあったのが、諸外国ではキャリアメールではなく、携帯電話番号を通じてメッセージを送信できる「SMS」の利用が一般的だった。なぜ日本でSMSではなくキャリアメールが普及したのかというと、大きく2つの要因があったと考えられる。
1つはSMSが世界的に普及した2Gの時代、日本では独自の「PDC」という通信方式が主流で、SMSに類するショートメールサービスが独自仕様であったためキャリア間の互換性が重視されず、利用が大きく広がらなかったこと。そしてもう1つは、1999年にNTTドコモが開始した「iモード」のメールサービスが、ショートメールサービスと同様自動的にメールが届くプッシュ型のサービスながら、250文字という当時としては非常に長い文章のやりとりができたことから爆発的人気を獲得し、他社がそれに追随したためだ。
だがスマートフォンの普及によって、モバイルでのインターネット常時接続が当たり前となり、「LINE」などのメッセンジャーアプリや、さまざまなSNSの利用が拡大した。その影響でキャリアメールは価値を落とし、利用が減少していくこととなる。スマートフォンの普及以降にモバイルを利用使い始めた若い世代はキャリアメールをほとんど利用しないとも言われており、そうした世代をターゲットとした「ahamo」などのオンライン専用サービスではキャリアメールが提供されていない。
総務省がキャリアメールの持ち運びにこだわる訳
だがそうした中、総務省は2020年10月に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」で「キャリアメールの持ち運び実現の検討」を打ち出した。そして2021年5月28日に公表された「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書では、そのキャリアメールの持ち運びを「2021 年中をまどに、できる限り早期の実現を目指す」と結論付け、キャリアに早期実現を要求しているのだ。
役割を終えつつあるキャリアメールを、なぜ総務省は現在のタイミングでの持ち運びに躍起になっているのかといえば、ひとえに競争促進による通信料金引き下げのためだ。総務省は携帯電話市場がNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社による寡占状態にあることが料金高止まりの主因として長年問題視しており、楽天モバイルやMVNOなどのより安価なサービスにユーザーが移りやすくするべく、乗り換えのハードルを限りなく0にすることに力を注いでいるのだ。
とりわけ携帯電話料金引き下げを公約に掲げる菅政権の誕生以降、その後押しもあって乗り換え障壁の撤廃に向けた総務省の勢いは急加速している。それがキャリアメールの持ち運びを含む先のアクション・プラン、そしてスイッチング円滑化タスクフォースの実施へとつながっているわけだ。
総務省がキャリアメール持ち運びを実現すべきとしている根拠は、5000人に実施したWebアンケートである。そのアンケートによると、キャリアメールを週1回受信利用している人が67.7%、送信している人が37.1%いるとされており、持ち運びサービスを利用したいと答えた人の割合が74.1%であることから「一定程度のニーズがある」としている。
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