検索
インタビュー

日本通信が7年ぶり黒字へ、好調の要因は“音声通話”の強化 福田社長に聞くMVNOに聞く(2/4 ページ)

日本通信が新ブランド「日本通信SIM」のもとで、2020年7月から次々と新サービスを打ち出している。2021年12月にはデータ通信20GBに音声定額を付けたサービスを開始。モバイル通信といえばデータ通信に注目が集まりがちな中、なぜ日本通信は音声通話を売りにしたサービスを展開しているのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

オートプレフィックスは失敗だと思っている

―― 音声定額を柔軟に提供できているのは、やはり総務大臣裁定の影響が大きいのでしょうか。

福田氏 大臣裁定の影響はすごく大きかったですね。当社はあれによって、音声通話を原価で調達できるようになり、かけ放題などの料金プランを出すことが可能になりました。これは、主回線の乗り換えができるようになったということです。従来の料金プランだった人は、選択肢としてahamoなどのオンライン専用プランにするか、日本通信SIMにするかという感じになっています。それもあり、成長し続けることができました。

 私は、オートプレフィックス(音声接続)はやはり失敗だったと思っています。結果を見ると、やはり高止まりしていて安い料金が出せていません。大臣裁定をあのタイミングでやっておいてよかったと思っています。音声の定額を入れ、ある程度使う層のラインアップに関しては基本線ができました。後は、それとは別に、維持費が小さくなるものを今準備しているところです。

日本通信
日本通信の福田尚久社長

―― 音声接続は各MVNOが選択していますが、なぜ高くなるのでしょうか。

福田氏 オートプレフィックスは中継事業者を入れないといけないので、高くなってしまいます。提案は受けていますが、やはり高い。これに対し、私どもは原価で調達ができています。オートプレフィックスをやっているのは、NTTコミュニケーションズやソフトバンク、楽天コミュニケーションズなどで、結局はキャリアです。ですから、(料金が)下がらない。うちもプレフィックス事業者とは組んでいろいろやってきましたが、その壁はとてつもなく高く、厳しいものでした。

 当社として、本来目指すべきだと思っているのは、MVNOが電話番号を持ち、音声も接続をしていくことです。今は卸でやっていますが、次の段階では接続にいきます。12月に総務省の審議会でその方針を出していただくことができましたが、これはとても長い戦いでした。この道しかないということで、(方針を)出してもらえたのだと思います。

 これがあれば、単純に料金が安くなるだけでなく、課題になっている国際ローミングも解決できます。今は電話を卸でやっているため、(ローミング時に)通話はできますがデータ通信ができません。海外用のSIMを出すなど努力はしていますが、やはり直接ローミングできた方が安くなります。電話番号の付与を受けられることになり、海外ローミングを提供できる道筋も見えました。

 後はハイブリッド化ですね。うちもローカル4G(プライベートLTE)をやっていますが、ここにも電話番号を付与できます。病院向けなどが重要ですが、PHSの置き換えがあるからです。今でも構内PHSが残っていますが、その電話を持って外に出るニーズがあります。その際に、(電話番号がMVNOに付与されていれば)病院内ではローカル4G、ローカル5Gを使いつつ、外に出たらキャリアのネットワークを使うということができます。そこは、やはり1つの電話番号でやりたいところです。

―― それは、フルMVNOとして、音声からデータまでをまとめて提供していきたいという理解でよろしいでしょうか。

福田氏 そうです。IIJがフルMVNOと言っていますが、私はあれは違うと思っています。ヨーロッパでのフルMVNOは、音声通話まで含まれているからです。音声通話は国際ローミングだけでなく、ローカル局とのローミングでも必要になります。携帯電話の番号を使った認証が必要になるからで、その部分が今回突破できるようになりました。

―― 実際に海外ローミングを提供しようとすると、各国のキャリアと接続が必要になりますが、その準備はしているのでしょうか。

福田氏 ヨーロッパとアメリカでは、既に(事業を)やっています。ローミング契約はありますが、電話番号を持っていないので認証ができない状態です。海外の契約自体は難しいものではないので、アグリゲーターも使いつつ、アメリカやEUの大手とは直接契約しています。

 キャリアから音声を単純に卸してもらっている限り、競争は料金競争にしかなりません。ある一定時期まではそれも重要でしたが、いずれはキャリアも料金を下げてきます。そうなったときに、サービスで差別化できていることが重要です。

2021年度は7年ぶり黒字化、楽天モバイルの存在はプラスに

―― 日本通信SIMを出してから、契約数などは増えているのでしょうか。

福田氏 当社としてはまだ半分しか決算発表していませんが、今年度(2021年度)は7年度ぶりに黒字になる見込みです。全四半期も黒字化できています。ちゃんとした価格であれば、MVNOも収益を上げることができます。うちはMVNO専業ですが、その事業モデルで黒字化できたのはうれしいですね。

 やはり主回線をどれだけ取れるかは、極めて重要です。2台目、3台目需要やタブレット需要だけをやっていても、本家本元(大手キャリア)の携帯料金には何の影響も与えません。ahamoが出たのも、大臣裁定の影響が大きいと思っています。あれによって、MVNOから値下げした料金が出ることが分かっていたので、値下げをしていなかったら、とんでもないことになります。ahamoが出なければうちにもっとユーザーが来ていたかもしれませんが(笑)、MVNOの存在価値は極めて重要で、そこは狙い通りに動きました。

―― 昨年(2021年)はahamoに続いて、KDDIやソフトバンクもオンライン専用プランを投入しました。また、楽天モバイルも段階制の料金プランを入れ、ユーザーを増やしています。その影響はいかがでしたでしょうか。

福田氏 楽天モバイルの存在は、うちにとってはプラスになっています。安いので楽天モバイルにしてみたらつがらなかったので、日本通信SIMにしましたという方が結構います。ダメだなと一度でも思われてしまうと、取り戻すのが大変です。楽天モバイルはちょっと焦りすぎなのでは……と横目で見ています。

 ahamoなどの料金プランはありましたが、うちもそれなりのペースで成長できています。なかったらもっとスピードは上がっていたかもしれませんが、特段影響があったとは意識していません。

 ただし、既存のサービス(b-mobile)のユーザーはどちらかというと、他のMVNOに流れていきました。既存のサービスを安くすることも可能ではありましたが、そこを徹底して展開すると、メイン回線でポジションを作るという戦略とは逆行してしまいます。日本通信SIMはいいのですが、それ以前のラインは比較すると弱い状態です。そもそもデータ通信量が多いユーザーではなかったので、日本通信SIMに移ることもないですからね。

日本通信
b-mobileのユーザーは他社に流れているという。b-mobileのWebサイトでは日本通信SIMのページを案内しており、同社の主力が日本通信SIMに切り替わっていることが分かる

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る