総務省「スマホ乗り換え相談所」で見えた、脱・格安スマホと乗り換えの壁(1/3 ページ)
2021年は政府の呼びかけにより、オンラインブランドの提供開始や「スマホ乗り換え相談所」の実証実験が行われた。この「スマホ乗り換え相談所モデル事業」の効果や課題について振り返っていく。
2021年は元総理大臣の菅義偉氏による「携帯料金値下げ」の旗振りや、当時の総務大臣武田良太氏によるメインブランドの値下げを求める発言により、ドコモのahamoなど各社から月額2980円で通信量20GBを満たすプランが注目を集めた年だった。
この一環として総務省では「スマホ乗換え相談所モデル事業」の実証実験を実施。2021年9月から2022年1月まで、商店街など複数のスポットで相談窓口を運営、「携帯電話の乗換え等サポートワーキンググループ」にて有識者による検討も行った。
では、これら「携帯電話値下げ」や「スマホ乗換え相談所」の実証実験にどういった意味があったのか。実際の相談所の内容を含めて、その効果や課題について振り返っていこう。
総務省が商店街に設置? リアル「スマホ乗換え相談所」
まず、スマホ乗換え相談所の内容について見ていこう。この実証実験は2021年9月から2022年1月にかけ、複数の商店街の店舗やイオンモール、修理・サポート業者にて行われた。筆者が訪れたのは都内の商店街で、期間限定ショップ向けのスペースで総務省の名を掲げた相談所として実施。基本的に声掛けで集客している状況だった。
相談は店舗スタッフの案内で、タブレットの診断ツールを使い回答する。毎月の料金、通話や通信量、変動の幅やテザリングの利用などだ。加えて、MNOとMVNOの違いを説明した上でのこだわりや、速度に関する要求、5G対応の有無、店頭利用の頻度、光回線やキャッシュレス決済の利用など利用スタイルについても回答。20〜30分ほどで回答した内容から、自動でおすすめのプランが表示される。
筆者は自身の知識を使わず説明された情報だけで選択肢を選んでいったところ、通信量が20GBを超えることも多く、ドコモ光を利用という条件から、楽天モバイルと楽天ひかりのキャンペーンが第1候補として案内された。以下、ドコモ、au、ソフトバンクの通信量無制限のプランだ。実際には、ドコモなどMNO3社の無制限プランを活用する都市部のヘビーユーザーやビジネスユーザーに対して、楽天モバイルのエリアに関して詳しい説明がないとトラブルにならないのかは気にはなった。
料金比較はできても、利用者のライフスタイルに沿った提案が難しい
実際に利用した感想だが、料金面や通信量が不満で何となくプラン変更を考えている人が、無料かつ短時間で利用できるなら悪くない。
だが、今回のツールを使った相談は「料金プランと通信量のズレ」が重視され、「リスクはあるが人によっては便利・お得」というプランを詳しく説明できるものになっていない。具体的には、利用スタイルに関して「対面サポートの有無」や「エリアが違う、ピーク時間帯などの通信速度が遅い」という質問だと、当然サポートはあった方がよく、通信速度は速い方がいい。
このため、多くの回答は「毎月の通信量にあったプランで、対面店舗を持ち、快適な通信や5Gに対応した」という条件になり、Y!mobileやUQ mobile、楽天モバイルを勧めるケースが中心になるだろう。実際の相談結果もそうなっている。オンライン手続き中心のahamoやMVNOはあまり勧められていない。
本当にライフスタイルに合った相談を実施するなら、利用者の重視する点を正確にくみ取る仕組みが必要だろう。例えばスマホが初めての高齢者に対し、かんたん系スマホの利用などはない。今回の相談対象プランに入っていないが、見守り機能が充実したトーンモバイルや、スマホゲーム好きがお得なLinksMateなど、個人のライフスタイルに応じたMVNOらしいプランを勧めるといった工夫も必要だろう。
逆に、料金の節約が目的というニーズに応えるのであれば、最初に通信量と料金の目標値を設定した上で、高いが低リスクのプランと、安いが高リスクのプランを提案した方が、より公平に各社のプランを選べただろう。相談の複雑さをツールで補うなら、目的や市場の多様さに応じたツールの工夫が必要ではと感じた。
実際に事業化して利用者の回転率を上げるなら、事前に携帯電話会社のマイページで現在の利用状況を確認できる状況を求めるか、その点も含めたサポートも必要だ。
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