イーロン・マスク氏のTwitter買収で何が変わるのか? 問われる“自由”の意義
イーロン・マスク氏がTwitterを買収することが承認されました。マスク氏はTwitterを買収する理由について、言論の自由が危ういことを挙げています。マスク氏は「法律をはるかに超えた検閲に反対する」とも述べています。
米Twitterは4月25日(現地時間)、取締役会を開催し、イーロン・マスク氏が提案していた買収案を満場一致で承認したと発表しました。最終的な買収額は約440億ドル。株主の承認や規制当局などの承認へて取引が完了すると、Twitterは非公開企業となります(関連リンク)。
4月14日(現地時間)に明らかになったイーロン・マスク氏によるTwitterの買収提案は、発行済み株式を1株54.20ドルで全て買い取るというもの。これは4月1日時点の株価に38%のプレミアを乗せた価格となります。
Twitterは当初、この買収提案に対してポイズンピルを期間限定で導入すると発表していました。これは、買収者を除く既存株主に有利な条件で株式を取得できる権利を付与し、買収が深刻化した段階で株式を増加、買収に想定以上のコストがかかるようにして買収を断念させるという、米国ではよくある買収防衛策です。つまり、買収に対して反対の姿勢を示していたことになります。ところが、マスクが買収に十分な資金を確保したことなどを受け態度を軟化。一転して買収に合意する形となりました。
マスク氏はTwitterを買収する理由について、米国証券取引委員会に提出した文章の中で「Twitterが世界中の言論の自由のためのプラットフォームとなる可能性を信じ、また、言論の自由は民主主義が機能するための社会的要請であると考えTwitterに投資した。しかし、投資をしてから、この会社が現在の形では繁栄することも、この社会的要請に応えることもできないことに気付いた」と説明しています。
また、買収提案が明らかになった直後に出演したTEDのイベントでは、「Twitterは事実上の街の広場のような存在になっている」とし、「法律の範囲内で自由に発言できるという現実と認識を、人々が持つことが本当に重要だ」と自身の考えを述べています。つまり、現状のままでは言論の自由が危ういので、Twitterを買収することであるべき姿を実現しようというわけです。
現在のTwitterをはじめとするSNSでは、過激な発言が虚偽情報などの拡散がしばしば問題となり、その都度規制が強化されてきたという歴史があります。これは事実上の検閲であり、言論の自由を侵害しているとの意見も聞かれますが、マスク氏もそう考えている1人のようです。このため、Twitterのアルゴリズムをオープンソース化することで、どのような基準でツイートが規制されたのかを明確にすべきだとしています。
買収合意のリリース文でも、「新機能による製品の強化、アルゴリズムのオープンソース化による信頼性の向上、スパムボットの撃退、全ての人の認証によって、Twitterをこれまで以上に良いものにしたい」と、その考えをあらためて強調しています。
言論の自由のためとはいえ、あからさまなヘイトや誤情報などをそのままにしていいとも思えませんが、マスク氏は「法律をはるかに超えた検閲に反対する」とツイート。法で認められているなら、どのようなツイートも許容するべきだとの主張を行っています。
ここでの法とは米国憲法のことを指していると考えられますが、米国の合衆国憲法修正第1条では、ヘイトスピーチも含めて表現の自由として認められています。ただし名誉毀損(きそん)は存在するので、何を言っても構わないというわけではありません。
これに対してEUの執行機関である欧州委員会のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)は4月26日(現地時間)、「欧州で営業する企業は、自動車メーカーであれSNSプラットフォームであれ、欧州の規則に従う必要がある」とツイート。「マスク氏はそれをよくご存じだ。彼は自動車に関する欧州の規則に精通している。デジタルサービス法(DSA)にもすぐに適応してくれるだろう」とも述べており、マスク氏をけん制しています。
DSAには、EUが4月23日に合意した法案で、虚偽情報の拡散を取り締まったり、違法コンテンツを迅速に削除したりすることなどが盛り込まれています。EUはヘイトスピーチについての規制も厳しく、DSAの違法コンテンツには、当然ヘイトスピーチも含まれます。
なお、言論の自由を標ぼうするSNSとしては、Parlerがあります。もともと保守系に人気があったようですが、トランプ元大統領がその過激な発言からTwitterを永久追放された際に注目が集まり、一時はApp Storeのランキングトップにもなったサービスです。
ただし、2021年の米国の国会議事堂襲撃事件で活用されたとしてApp Store、Google Playから削除されています。現在はApp Storeでは復活していますが、Google Playでは非公開のままとなっています。仮にTwitterが過激な発言を認めるようになったとしても、AppleやGoogleなどのプラットフォーマーがそれを許容できないと判断すれば、Parlerと同じ運命をたどる可能性もあります。
こうしたこともあり、Twitter上でヘイトスピーチが野放しになる可能性は低そうですが、マスク氏の発言を考えると、これまで通りというわけにもいかないのでしょう。言論の自由とヘイトスピーチなどのツイートとをどのようにバランスを取っていくのか、マスク氏の手腕が問われることになりそうです。
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