スマホの「対応バンド問題」で問われる総務省の覚悟 端末のコスト増は綿密に検証すべき:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
「対応バンド問題」が、総務省の有識者会議で議論されている。同じ名称の端末でも納入先のキャリアごとによって対応している周波数帯が異なり、消費者の不利益になっているのではないかが論点だ。一方で、キャリアはあくまで自社周波数への対応を求めているだけで、他社の周波数への対応の可否は関与していないと証言している。
「対応バンド問題」が、総務省の有識者会議で議論されている。同じ名称の端末でも納入先のキャリアごとによって対応している周波数帯が異なり、消費者の不利益になっているのではないか……というのがこの問題が取り上げられるようになった理由だ。確かに、キャリアが意図的に他社の周波数をふさぎ、MNPを妨害しているのであれば問題があるといえる。
一方で、キャリアはあくまで自社周波数への対応を求めているだけで、他社の周波数への対応の可否は関与していないと証言。メーカー側からも、同様の声が聞こえてくる。ある意味、前提が崩れてしまったようにも見える対応バンド問題だが、この議論はどのように決着するのか。これまでの有識者会議を振り返りつつ、今後の見通しを読み解いていきたい。
そもそも対応バンド問題とは? 同一端末で異なる周波数
同じGalaxyなのに、ドコモで買ったらKDDIで利用できるエリアが狭くなってしまった――対応バンド問題とは、一言で言うとこのような事象だ。固有名詞のGalaxyをXperiaに、KDDIをソフトバンクに置き換えても成立する。主にキャリア版の端末が他社の周波数に対応していないために起こることで、端末そのままで回線だけを他社に切り替えたい際のハードルになるといわれている。SIMロックは原則として禁止になったが、対応バンドの差異があるため、乗り換えを妨げる原因になっているというのが問題提起した総務省側の考えだ。
個別の端末を見ていくと、確かに同じ名称でも納入先のキャリアごとに対応周波数が異なっていることが分かる。例えば、発売されたばかりの「Galaxy S22」は、ドコモ版が「SC-51C」、au版が「SCG13」という型番で、それぞれのキャリアに最適化されている。SC-51Cは、KDDIの運用する4GのBand 18/26(800MHz帯)や、ソフトバンクのBand 8(900MHz)に非対応。逆に、SCG13はドコモのBand 19/26(800MHz帯)やソフトバンクのBand 8に対応していない。
ここで挙げた周波数帯はいずれもプラチナバンドと呼ばれ、各キャリアとも、地方で広範囲をカバーしたり、都市部のビル内などをエリア化したりするために利用している。上記の例に当てはめると、SC-51CにauやソフトバンクのSIMを挿した場合、通信できるエリアが狭くなってしまう恐れがあるということだ。Band 1(2GHz帯)やBand 3(1.7GHz帯)のように、複数キャリアで共通した周波数には対応しているので、まったく通信できなくなるわけではないが、場所によってはつながりにくくなる。
また、5Gでも同様の問題がある。SC-51Cはドコモが運用するn79(4.5GHz帯)に対応しているが、KDDIのn77(3.7GHz帯)には対応していない。逆もしかりで、端末とキャリアを合わせればつながっていた5Gが利用できなくなる可能性がある。5Gは4Gのエリアに重ねるようにエリアが作られているため、「圏外」になってしまうリスクは少ないが、人口密集地域では十分なトラフィックが出ない恐れもある。バンド問題を問題たらしめているのは、そのためだ。
これに対し、iPhoneは基本的にどのキャリアで買っても対応バンドの差はない。日本に納入されているiPhoneの型番は1モデルにつき1つで、SIMだけを差し替えても、エリアやスループットに違いは出ない。Androidの中にも他社の周波数にある程度対応している端末はあり、シャープの「AQUOS R6」はドコモ版、ソフトバンク版の双方とも、3社のプラチナバンドは利用できる。ただし、AQUOS R6の場合でも、ソフトバンク版はドコモのn79には対応していないなど、キャリアごとの違いは残る。
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